旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

月刊 山と渓谷書評

2006-03-20 15:37:50 | 書想(その他)
チベット文化の伝承のために。ひとりの日本語教師の奮闘記
『チベット語になった『坊っちゃん』』 多賀幹子

書名『チベット語になった『坊っちゃん』』の意味を、すぐに理解することは難しかった。私にはチベットの地図上の位置すらあやふやで、それと夏目漱石の代表作とが結びつかなかったのである。ずっと前の語ではあるけれど、大学の国文学科で夏目漱石を卒業論文に選んだ。小学生の時に出会った雰っちゃん』の歯切れの良い文体、ユーモアあふれる内容に取り付かれたからだ。それ以来、漱石の作品を繰り返し読んできたが、チベットとの関わりについては初耳だったのだ。しかしいったんぺージをめくり始めると、たちまち引き込まれた。文字通り、『坊っちゃん』はチベット語になったのだ、と合点がいった。

 本著では、チベットの学生が『坊っちゃん』の文章を具体的に訳し始める第4章あたりから、面白さに一段と拍車がかかる。まず「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ぱかりしている」の冒頭部分は、「父母の慎重さを欠く気質を受け継いでいたので、子供の時から損ぱかり受けている」と学生たちから慎重に訳された。続けて、坊っちゃんが悪友の挑発に乗って校舎の2階から飛び降りる。自慢のナイフに難癖を付けられて自分の親指を切り落とそうとする。こうした場面は、まるで坊っちゃんの姿が目に浮かぶようだと学生たちは笑う。羊肉をナイフで切って主食とするチベット人であることもあってか、売り言葉に買い言葉で白分の指を切って見せる坊っちゃんの姿は、想像を掻き立てるらしく、万年筆をナイフに見立てて即興芝居まで演じたという。

 チベット語にない「栗」やチベットに存在しなかった野菜の「人参」に頭を抱えることがあったし、「茶代」や「色町」の訳には苦しむが、学生たちの理解力と想像力はすばらしく、嬉々として翻訳を続けたのだった。そのシーンは、まるで奇跡に立ち会っているかのような感動を呼ぷ。漱石は草葉の陰から、学生たちの純粋で真摯な学ぷ姿勢と翻訳への情熱をさぞ喜んでいることだろう。

 著者の中村吉広さんは、写真で拝見するとあごひげの似合う優しげな先生だが、そもそもはチベットにはチベット語を学びに行っている。チベット仏教への関心から中国・青海省チャプチャの青海民族師範専科学校に留学したのだ。かつてよりイスラエルのキプツに行かれたりしているとはいえ、なんという実行カだと感嘆する。語学留学といえぱまだ欧米が中心の日本では、とても新鮮な印象を受ける。

 それがさらに、逆にチベットの学生に日本語を教えることになる。そのときに逃げもせず臆することもなく、著者は正面から受け止める。学校には、日本からプレゼントされた子供向けとはいえ多くの文学全集が揃っていた。しかし利用者はほとんどいなくて、いわぱ死蔵されていたのである。著者はそこから芥川龍之介の本などともに、『坊っちゃん』を選ぷ。しかも、チベット語文法と日本語文法の共通点に目をつけ、チベット語を介して日本語を教えたのだった。チベット語の文法と日本語のそれとが似ていることを私は知らなかったが、著者の説明によると、驚いたことに共通点が多く存在するのである。それをたくみに生かして翻訳作業を進めるが、そこにはチベット語と学生たちの豊かな可能性を伸ぱしたいとの著者の熱い思いが働いていたのだ。

 翻訳は順調に進むのだが、壁になったのは中国共産党サイドだった。チベットは、民族教育の名前のもと漢族への同化を進められている。チベット語の学習を声高に叫ぷことは、独立運動に通じるとみなされる危険がなくはない。お世話になっている人々に万が一でも迷惑がかからないように、十分に注意を払わなくてはいけなかった。「海外からの資金援助を受けて日本人が日本語を教えるという看板だけが大切な学校と、その看板でチベット語が秘めている可能性を広げようとする私」と、著者は孤軍奮闘ぷりを端的に描いている。

 さらに「少数民族の言語という箍(たが)を嵌められたチベット語は、政治力と経済力を奪い取られてしまったのも同然なのだが、貴重な文化を伝承する唯一の手段としての役割は失われていない。従って、チベット語が担っている文化的価値を、チベット人が捨てたり、忘れたりした瞬間にチベット語の命脈が断たれるのは疑いの無い事である」との信念を述べているのだ。

 日本語教師の役割を1年ほどで終え、著者は借しまれながらもこの地を去る。涙をこらえたチベットの学生たちから「見棄てないでください」と懇願されるところでは、思わず目頭が熱くなった。それは、日本ではこのような純粋な師弟愛をなかなか目にすることが
なくなったからだろう。たとえ著者は帰国しても、サブタイトル通り「草原に播かれた日本語の種」は、いつかきっと実を結ぷ日が来るに違いない。読後感のさわやかな、しかも教えるところの多い良書として、ぜひ一読を勧めたい。

『米百俵』を考える

2006-02-01 11:43:13 | 書想(その他)
■小泉政権がいよいよ末期症状を呈し始めて、政治の舞台裏では熾烈で陰険なポスト小泉を争う動きも活発化しているようです。ヒューザー問題やらライブドア・ショックやら、小泉改革と直接関係の無いものなで含めて、国会審議は既に「総括」に入っている感が有ります。そんな中で、思い出したように「米百俵」の精神はどうなった?と懐古趣味いっぱいの疑問がぽつぽつと出ています。

■戊辰戦争で滅亡の危機に瀕していた長岡藩の再建を試みた小林虎三郎の故事は、山本有三の作品や映画作品などで有名ですが、どうして小泉さんがこの本に言及したのか、実のところさっぱり分からないです。「目先の利益を考えず、遠い未来を見据える政策を断行する」という文脈で引用されたようですが、『米百俵』の精神というのは、飽くまでも「人づくり」が眼目ですから、人心の荒廃が進んでしまった小泉時代には結び付かないような気がしてなりません。

■総裁選前に、ぶら下がり取材に答えた中に「毎晩、寝付くまで本を読んでいる」と小泉さんが答えた時に、最近読んだ本としてこの作品に言及したのが最初だったと記憶しておりますが、故大平総理並の文人宰相を気取っただけの薄っぺらな話だと思ったものですが、何故か世間は不況の出版業界の思惑に乗って、にわかに『米百俵』に注目したのでした。小泉さんは、その流れを利用しようとして演説に無理やり捻じ込んでろくに本も読まない支持者達に文学の香り?を振り撒くことに成功します。首相になってからのオペラやプレスリー好きなどの報道から見ても、小泉さんの文化教養レベルは決して高くはないのは明らかで、とても小林虎三郎を語れる力は有りませんでした。

■小泉さんを支持していた人達の中で、どれだけの人がこの本を手にしたのか判然としませんが、こういう時に便利なのが全国の公立図書館収蔵の本が検索できるサイトです。拙著『チベット語になった坊っちゃん』も有り難い事に、出版して1ヶ月半で100箇所ほどに収蔵して頂いている事も、検索サイトで確認出来ましたが……。小泉政権時代に、雨後の筍(たけのこ)のように『米百俵』関連の出版物が続々と企画され、全国の図書館も『ハリー・ポッター』並みに熱心に収蔵した事が分かります。収蔵された作品の出版年月日を見れば、突然『米百票』ブームが発生した事も明らかなら、そのブームがぱたりと止んだ事も「貸し出し」状況から明らかです。

■図書館の問題に関しては、地方分権が話題になって財源委譲や「三位一体」の議論が沸騰した頃、地方交付税交付金に含まれている「図書費」がハコ物建設に流用されている!という重大な事実が発覚しました。『米百俵』に関連する本だけを集中的に購入する裏側で、土建屋議員の多い地方自治体の議会では図書費を分捕ってハコ物を作っていたとしたら、これは小林虎三郎の思想に逆行しているわけです。残念ながら、言いだしっぺの小泉さんはこの事態の深刻さにはまったく気が付いていないように見受けられます。

■長引く不況の時代、残念ながら教職員の職を得ようとする若者の心には、教育に対する情熱よりも、公務員の安定が優先されているでしょう。それは責められませんし、嬉しい事に今でも教養豊かな優れた教育者が僅かでも各地で頑張っておられる事実も知っておりますが、その割合は悲しいほど少ないと思わざるを得ない話を聞く事の方が多いのです。教育よりも安定や保身を優先させる気分の中から、昇進試験を受けて教頭や校長になる人達が出て来ますから、学校で事件が起こった時に見事な出処進退をして見せる人は居ないようです。保身に汲々としている姿ばかりが報道される度に、彼等の関心は教育ではなく、自分の老後しか無いのだなあ、と寂しく思うばかりです。文部科学省が期待する教師像に関する作文を何百種類書いたところで、何の影響も与えませんし、大学などで教員養成年限を延長したところで、劇的に優秀な人材が増加するはずも有りません。

■小林虎三郎のような教師を求めても、今の日本では無い物ねだりに終わりますし、制度をいじくり回せば予算ばかり食ってしまうだけです。「教育改革」と言う一方で、教師を減らす、教員給与を削減する、などの議論が起こるのですから、国会の中でも教育のビジョンなど存在しないのが分かります。教員養成と採用の両システムが地方自治体で一種の既得権益となってシステムが硬直化してしまっているのを改革するのは大変です。それに加えて、最低限度の受験勉強に関する本しか読まないような大学生を大量に生み出しておいて、その中から教師を選抜するのですから、教養豊かな教師像などを求めるのは場違いな感じがします。

■小林虎三郎は寄付された米を食べずに優秀な教師を雇いました。彼の求めに応じられる人材が存在したのは、江戸時代を通して培った当時の学問レベルの高さでした。同じ事を現在の日本で行なえるのか?と落ち着いて考えれば、小泉さんの『米百俵』発言の底の浅さが良く分かります。人材を養成するには数百年の歴史的蓄積が欠かせません。ゆとり教育か詰め込み教育か、そんな低次元の議論に終始しているようでは、日本の教養を復活させる道はまだまだ遠いのです。全国の学校に配される教師に教養の高さを期待出来ないのならば、優れた図書の蓄積に努力するしか残されている方法は有りません。問題教師や変態教師が紛れ込んで来るシステムを手直しするには長い時間が必要ですが、優れた書物を探すのは簡単です。

■目的も効果も不明なまま、英会話やコンピュータ操作などに予算と精力を傾けるよりも、基本的な「読み書き」能力を地道に育てる道を選ぶべきなのです。その先に設定される目標は、文章から正確に情報を取り出せる読解力です。これは理系も文系も区別が無い能力です。そして、その能力を決定するのが「読書量」に尽きます。優秀な教員を採用する場合も、本人の読書生活を点検してその質と量を見ればある程度の判断を付きます。読み書き能力に問題のある教師を与えられた生徒の二度とない幼年期は悲劇です。安価で簡単に手に入る優れた本を大量に買い揃える努力を重ねながら、もしもアホな教師の授業で被害を受けている生徒の知性を救う読書指導に重心を移す。ついでに、年に一冊か二冊の通俗本しか読まないような教師を排除する。それしか当面の打開策は無いでしょう。

■件の全国図書館の検索サイトから、それぞれの図書館の全景写真も見られます。どこも規模の大小に違いは有っても、立派な「外見」を持っているのに驚かされます。しかし、それに比べて蔵書数の貧弱さにはもっと驚かされます。桁が一つか二つ違っているのではないか?とも思えます。英語教育が重要だと言うのなら、公立図書館に膨大な英文図書を揃えて置かねば変ですし、「愛国心」を憲法に盛り込みたいのなら、伝統的な日本語の文典が漏れなく備えられていなければなりません。毎日400点もの新刊図書が出版されている日本で、若者の読解力と教養レベルが低落し続けている事態を改善するのは、学校の教師ではなく各地域にまだ生き残っている「読書人」達です。図書館が年齢の壁を取り去った文化的な交流の場に変身した場所には可能性が生まれるでしょう。

■『米百俵』の小林虎三郎は地元で大変に尊敬されて、地元の教育に対する関心を高めたそうで、貧困ゆえに教育を受けられない児童を救済する基金が設けられ、有名な山本五十六さんも幼年期に手厚い支援を受けられたのだそうです。これが『米百俵』の精神というものです。この場を借りまして、拙著を逸早く収蔵して下さった長岡市立図書館の関係者各位に、改めて御礼申し上げます。全国の書店に並ぶ前、規模の大きな各地の県立図書館にも収蔵されていない頃に、長岡での収蔵の早さに心底驚きました。「さすがは小林虎三郎の地元だなあ」と感心した事を付け加えて置きます。日本全国の教養レベルの実態が透けて見えるのが件の検索サイトです。暇なときに覗いて見るのも一興かと思います。

全国図書館検索サイト

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『チベット語になった『坊っちゃん』』発売中!
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懐かしい名前

2005-10-06 11:15:48 | 書想(その他)
■ネット・ニュースを見ていましたら、とても懐かしい名前に出会いました。懐かしさが胸にこみ上げて……来ませんでしたが、毀誉褒貶(きよほうへん)とはこの人の為に作られた四字成語でしょうなあ。

プロ野球福岡ソフトバンクホークスの本拠地・ヤフードームの賃貸などを行う「ホークスタウン」(福岡市中央区)を舞台にしたセクハラ事件で、女性社員ら8人に対する9件の強制わいせつ罪に問われた前社長高塚猛(こうつか・たけし)被告(58)の判決公判が6日、福岡地裁で開かれた。
 谷敏行裁判長は懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役4年)を言い渡した。高塚被告は2001年2月から昨年6月までの間、会社の事務所や出張先のホテルなどで、19~35歳の社員やモデルらに、無理やりキスをしたり、マッサージを装って体を触るなどのわいせつな行為をしたとして起訴されていた。高塚被告は、被害者8人のうち5人と示談が成立。「ホークスタウンを解任されるなど社会的制裁を受けており、反省している」として、執行猶予付きの判決を求めていた。 高塚被告は、リクルート出身。岩手県の老舗ホテルの経営を立て直した手腕をダイエー創業者の中内●氏(故人)に見込まれ、1999年3月、ホークスタウン前身の福岡ドーム(当時)副社長に就任。「再建請負人」とも呼ばれ、2000年11月にホークス球団社長、02年5月にはオーナー代行も兼務。04年4月、ホークスタウン社長に就任したが、同年9月に「重大な法令違反」を理由に解任された。(●=功の「力」が「刀」でイサオ)読売新聞 10月6日

■リクルートを配下に収めた当時のダイエーは飛ぶ鳥落とす勢いで、経営の神様やら何やらと、マスコミの寵児になって煽て上がられていた中内さんに見込まれたのですから、高塚さんは有頂天だったのでしょう。週刊誌が告発するまで高塚さんは天下を取ったような高揚した気分に浸っていたようです。運が悪い事に、その絶頂期に物的証拠を残してしまったのが高塚さんの一生の不覚でしたなあ。「セクハラ」などと意味不明の言葉を使っていますが、「女性蔑視」に凝り固まった中年男の「性犯罪」事件です。「被害者8人のうち5人と示談」と出ていますが、被害者はたったの?8人だったのかどうか、俄かには信じられませんなあ。何故かと言うと、こんな本が有るからです。

『 抱擁力なぜあの人には「初対面のキス」を許すのか 』
高塚猛/中谷彰宏 /経済界 2002/10出版 251p 20cm ISBN:4766782488 1,470(税込)
内容
経営者の恋愛論。セクハラになる人ならない人の差は、ここが違う。
目次
第1章 もてる男は、いいかっこしない。(明るくオープンにすると、イヤらしくなくなる。女性は、引き際に愛を感じる。 ほか)

第2章 もてる男は、女性から学ぶ。(モテる人はガールフレンドが大勢いることを、隠さない。損していることを見てくれる人が女性にもてる。 ほか)

第3章 もてる男は、失敗強い。(「まじめ」が行きすぎると、「みじめ」になる。動機は、不純なほうがいい。 ほか)

第4章 もてる男は、強引だけど低姿勢。(「言いわけ」は「良いわけ」だ。自分が楽しむより、楽しませるほうが楽しい。 ほか)

第5章 もてる男は、簡単なことをおろそかにしない。(太ももは、手前から奥へではなく、奥から手前に撫でると抵抗されない。
モノに投資しながら、それを捨てる勇気がある男性がもてる。 ほか)


■事件発覚後に、この本が入手困難になったそうです。発売中は結構の部数が出たようですから、「もてる男」志望の男達がどんな顔して書店で買い求めていたのか、非常に興味が有るところです。赤の他人の女性の「太腿の撫で方」などを熱心に読んで研究して、一体どうしようと思ったのでしょう?今こそ読みたい一冊なのに、「読みたい時に読みたい本が消えている」というのが、日本の出版会の悪いところです。今こそ、全国のコンビニの「お手軽文庫本」コーナーに帯付きで並べて欲しい一冊です。
 その帯には「共著者、強制猥褻で逮捕!本の読み方が分かる最良の教材!苦渋の再版!」のような文句が望ましうございますなあ。普通の感覚を持っている成人(最近の中学生以上も含めて)ならば、この題名を読んだだけで、「そりゃあ、地位と権力、人事権を握っているからでしょう?」と小さな悪態をついて本棚を離れるに違いないのに、何故かこれが売れたのですから不思議な話です。

■世に「強姦」事件が多発して、再犯率が高止まりしている原因を、脳の異常とか精神病の枠の中に全部収容しようとする動きも有りますが、「最初は強姦、途中から女性は喜ぶ」などという馬鹿にも程がある妄想を信じようか、信じまいか、と迷っている悲しい男性に、「論より証拠」とばかりに映像や活字を売りつける輩(やから)の存在が、同業者の「武士の情け」なのか、「明日は我が身」なのか、ジャーナリズムもマスコミも、追求しようとはしません。世に氾濫する妄想と冗談の困った文化(これも立派な伝統文化です!)が、所構わず提供されるので、相手を見ての販売や公開の制限が無くなって、「陰」と「表」、「夜」と「昼」の区別が付かなくなっているのが大問題なのです。「売り手」の方でも困っているはずなのですが、こうした本の出版が「強姦幇助罪」や女性に対する「名誉毀損」の罪に問われないのは、豊かな文化の証明なのか?判断に苦しみます。それとも、欧州のキリスト教やイスラム教の超保守派、ユダヤ教の保守派のような政治勢力を持たないままに、「民主主義」を取り入れてしまった日本の悲喜劇と考えるべきなのか?これは、よくよく、今、立ち止まって考えるべき大問題ではないでしょうか?

■この本の題名と目次こそ、『声に出して読みたい日本語』の代表です。テレビやラジオ、通勤電車の中、高等学校の教室や大学の講堂、企業の朝礼や地方議会に国会、何処でも「声に出して」読み上げて、日本語と日本語の本の現状を学んだらどうでしょう?
さあ、皆さんで!

なぜあの人には「初対面のキス」を許すのか。明るくオープンにすると、イヤらしくなくなる。 モテる人はガールフレンドが大勢いることを、隠さない。動機は、不純なほうがいい。太ももは、手前から奥へではなく、奥から手前に撫でると抵抗されない。

どこかの大企業で、入社式で社長が新入社員に「必読書」として勧めたことは無かったのだろうか?

※この人気作家?の著書は一冊も持っていない小生も、どこかの道端に落ちているのを見つけたら、是非とも拾って読んでみたいと熱望している次第でございます。この著者は粗製乱造の名人で、心理学の応用だか何だか知りませんが、お手軽な変身願望を持っている人間の弱みに付け込んで、アコギな商売をしている人物との風評も有るようですが、この「共著」の元になった対談インタヴューの最中、どんな顔して相槌(あいづち)を打っていたのでしょう?本に書いてある通りに実行した高塚さんは社会的な制裁と法の裁きを受けましたが、中谷某はのうのうと生きているのでしょうか?おかしな話です。ノストラダムスの詐欺商売で荒稼ぎした五島勉という人が居ましたが、中谷某が書き散らしている本の題名と数の多さを見ますと、同じような詐欺商売をしているようにしか思えないのですが……

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月刊『文藝春秋』10月号 其の四

2005-09-14 20:35:01 | 書想(その他)
其の参の続き

■要するに、


谷垣財務相が「民営化後も相当購入してもらう」と明言しているのだから、…財務省が「もう財投債も国債も大量に買ってもらわなくてもけっこうです」という事態にならなければ、官業に流れている資金は民業には流れない。

というとても単純な話なのですなあ。こんな馬鹿馬鹿しい話を唯一の選挙の論点にするために、小泉さんは「改革の本丸だ!」と大好きな時代劇の武将になった心算になって、メチャクチャな議論を思い付くままに吹っかけ続けたようです。まるで、喧嘩の啖呵です。

①全国に1万9千局ある特定郵便局の局長会持っている、百万票を動かす闇の権力を解体する。
②郵貯と簡保が抱える350兆円の資金を民間に流す。
③特定郵便局をコンビニにして便利になる。
④このままでは郵政事業は衰退の一途を辿って「ジリ貧」だ!
⑤民営化で国家公務員の数を減らせる。

以上の5点が、①はマスコミへのリーク、②は選挙用の原稿、③は武部幹事長の「紙芝居作戦」、④は竹中郵政民営化担当大臣から、⑤は立会い演説用の最後のお願い、という順番に乱発されたのですが……

■①に関しては25年前の亡霊で、01年度は選挙違反事件(有罪となった局長は皆無)出しても47万表で、04年度ではたったの28万票。御丁寧にも、1996年光文社刊『官僚王国解体論』小泉さん著に、


「いわれているほど候補者の当落を左右する大きな票を持っている組織ではない」

と、しらっと書かれてるそうですぞ!何なんでしょう、これは?
②は先述の通りの大嘘で、③に関しては


特定郵便局は現在の業務をこなすだけで精一杯で、とても多くの品数をそろえたサービスは不可能だ。 …多くはスペースが無くて、他品目を並べるような改造は無理だ。

というのが実態だそうですが、田舎の雑貨屋さんの質素な品揃えを考えれば、豪華なコンビにを作ったら膨大な弁当がゴミになるだけでしょうなあ。まあ、そんなバカな民間企業は二日で潰れるでしょうが…。武部幹事長のご実家はオホーツク海に面したなかなかに繁盛している中華料理屋さんだそうですが、御本人が経営に参加していなから、きっと繁盛しているのでしょうなあ。海鮮ラーメンがお奨めらしですぞ!

■④となると陰謀話めいて来ます。


公社になってから生田総裁の方針で、新規に貯金を望む利用者に国債の購入などを勧めて、意図的に縮小している…郵貯からお金が逃げているのではなく、意図的に郵貯が減る方向に誘導しているのである。
つまり、公社になった時点で、小泉さんの「改革の本丸」は既に落城しているのです!東谷さんの論文を読んで最も腹が立ったのは、英国留学経験者の小泉さんが、英語を全然理解していないらしい?という話です。ニュージーランドは「郵政民営化」に成功した国だと『優秀な』外務省あたりが焚き付けたのか?喜んで飛んで行った小泉さんは、


「ほう、民間のほうがポストが大きいのだね」

とハシャイでいる様子が報道されましたが、実際は民営化後に金融資産の99%が外資に食われてサービスが劣化し、郵便事業も破綻した後だったのです。その惨状は小泉さんを案内した現地の係員から、あのテレビ報道された現場で「英語で」説明されていたのだそうです。小泉さんは、本当に英語が全然使えないのではないでしょうか?

■過激なメディアでは、小泉さんの英国留学は、学生時代に起こした強姦事件のほとぼりを冷ます為に、女帝・信子姉さんの命令で決められたなどというトンデもない噂までありますからなあ。半世紀も前に「スーパー・フリー」だったのか?などと下衆の勘ぐりもしたくなります。一体、何をしに英国に行ったのでしょう?ニュージーランドの英語は英国に似ているというのに、やっぱり、聞こえていたのにし知らん振りしたのでしょうか?

■「小泉改革は本物だ!」と、今回だけは投票所に行った800万近い無党派層は、これから、既に焼け落ちている「本丸」に向って小泉「信長」と一緒に突入することになります。そこで、一体、何を目にして、どうする心算なのでしょう?本当に改革しなければならないのは、「特別会計」を抱え込んでいる本当に無駄な公務員だったり、年金の積立金をむしゃむしゃ食べてしまった役人だったり、何の役にも立たない外務官僚だったり……でも、皆、小泉さんの応援団で、「本丸」の残骸に向って出陣する小泉軍団を拍手で見送っておりますなあ。

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月刊『文藝春秋』10月号 其の参

2005-09-14 20:32:38 | 書想(その他)
其の弐の続き

■選挙が終わってからは、社会党時代の「山は動いた(そして消えた)」騒動を丸写ししたような「小泉チルドレン」(まだエヴァンゲリオン好きの新聞記者が居るらしい)をネタにして海のものとの山のものとも知れない新人女性議員を追いかけて、マスコミはハシャイでいるようですなあ。マスコミはびっくりするくらいな男性社会なのでしょうなあ。取材の指示を出しているのは脂ぎったスケベ爺(失礼)ばかりとは思いたくないのですが……。まるで、ストーカー犯罪者か電車内の痴漢野郎みたいですぞ!

■その一方で敗れた「造反議員」の惨めな姿を晒し物にする悪趣味ぶりで、民主党の次期代表選びで内輪揉めが始まったと、誰でも予想していた事を殊更に飯の種にし始めていますなあ。見当外れな報道ばかりしていた責任を感じて謝罪したり反省したマスコミは無いようです。それどころか、「ずっと小泉さんが勝つと思っていました。」と言わんばかりのシタリ顔で選挙結果の後追い分析をしているテレビや新聞ばかりです。ほとほと今回の選挙は、日本には信頼に足るメディアが無い事が分かりましたぞ!

■逆に、選挙中盤で、自民党の選挙対策幹部がブロガーを集めて意見聴取をしたそうで、選挙は民意を聞くものなのですから、ネット時代に各党がホーム・ページを存分に活用して、悪口雑言から建設的な提言まで幅広く受け付けるようにしないと、次の選挙でも、


「手応えは充分でした。(でも落選)」
「どこの演説会場でも皆さんが熱心に耳を傾けてくれました。(でも選挙区も比例も落選)」
「後半戦の反響は確かなものでした。(それで選挙区で落選して比例でゾンビになった)」

などという恥ずかしい記録映像を後世に残すことになりますぞ!どこのマスコミも「小泉さんの圧勝の原因は、『郵政民営化』一本に絞って選挙を戦ったからだ」と知ったかぶりしているのなら、今の内に文藝春秋に掲載された東谷暁さんの論文から要点を抜書きして保存して置いた方が良さそうです。

■東谷さんは、経済関係の優れた読み手で、勝手な事ばかり言っている電波芸人や出版芸人の皆さんの方言・暴言・ウソを整理してくれる貴重な人だと思います。今回も、ダーレも取り上げない小泉純一郎さんの著作二冊をちゃんと取り上げています。今ではブック・オフの100円コーナーでも入手可能です。最初は、1994年光文社刊『郵政省解体論』より


①「宅配便は、日本中、どこにでも立派に配達されている。」
②郵便貯金が民間金融機関と競合しており、「国家という信用と全国2万局の郵便局ネットワークを背景にして民業を圧迫している」
③郵便局は財政投融資の原資となっているので「いろいろな不都合」も顕在化している」

以上の3点を取り上げて、それぞれ木っ端微塵に論破して見せます。
①最大の宅配便であるヤマト運輸ですらも、ようやくのことで小笠原諸島に拠点を作ったのは97年…今も宅配便各社は山間島嶼では郵便に便乗し、メール便にいたっては戻って来た物は郵便で再発送する所すらある。
②92年の段階で旧大蔵省と旧郵政省が「定額合意」を交わして、郵貯の金融における優位は解消している。解散前の国会で法案が修正されて、郵便局ネットワークは「国民の資産」とされて維持目的で基金を盛り込んでいるから、民業圧迫は幻想である。
③「郵貯=財投=特殊法人の赤字」という構図は2001年4月から郵貯と簡保の資金が郵政の「自主運用」になった時に終わっている。郵政公社は「経過措置」として財投債と国債を買っているが、金融市場を通しているから市場を圧迫していない。

其の四に続く
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月刊『文藝春秋』10月号 其の弐

2005-09-13 20:00:14 | 書想(その他)
其の壱の続き

■更に、旅限無は日本を留守にしている間に起こったので、未だに詳細に合点が行かない田中真紀子外相更迭事件に関して、


堺屋 …戦後の内閣は「大臣は辞任するときに官僚の人事を行なってよい」という慣例を守ってきました。大臣は辞めるときに事務次官や局長、官房長を代えることができる。つまり、大臣を辞めさせれば官僚は返り血を浴びるという「刺し違え」の仕組みが互いの抑止力として働いていました。ところが、田中真紀子代務大臣を更迭するに当たって、大臣の意向とは関わりなく、小泉さんが外相と外務省の野上義二事務次官を代えました。つまり、大臣には人事権がなくなったのです。これ以来、官僚の世界に「大臣は“資質がない”という噂を流せばいつでも代えられる」といった考えがまかり通るようになったのです。

真紀子さんが泣いて「鬼の目にも涙」のような茶番劇に仕立てた馬鹿者がいたようですが、そんなに生易しい話ではなく、これ以降、平壌電撃訪問という裏で何が有ったのか今でもさっぱり分からない政治ショーが繰り広げられて、国民は目の前に差し出される包み紙ばかりに気を取られて「純ちゃん人気」が煽られて行ったのではないでしょうかな?

■小泉さんが官僚を喜ばせた例は沢山有るようです。


堺屋 文部官僚だった遠山敦子氏を、選挙も長期の社会評価も経ずに文科省の大臣にしていたこと。実はこの人事も官僚社会をたいへん喜ばせました。…戦前の反省に基づく慣例を、いとも簡単に破ってしまったんです。さらには、その時の事務次官を、間を置かずに中央教育審議会の役員に入れた。これによって、事務次官時代に提案したものを、審議委員として審議するという手前味噌を許すことにもなった。

「ゆとり教育」が出たり引っ込んだりして子供達を大混乱させた元凶がこんな役人の人気取りだったとしたら、開いた口が塞がりませんなあ。一体、小泉さんという政治家はどんな人なのかと思ったら、

堺屋 …小泉さんは意欲と正義感は強いんですが、知識が不足しているので、自分の行動が周囲に及ぼす影響を予測できない。やはり政治家としては、大蔵大臣も官房長官も、党幹事長も経験していないと、人脈が限られてくる。結局官邸に入ってくる秘書官なり官僚の話、特定の評論家たちで構成される「何でも官邸団」の話にしか耳を傾けないようになってしまった(笑)

■小泉さんが大好きだと言い触らしているオペラを考えますと、大方の名作は、筋書きを一言でまとめてしまうと、「そんなバカな」という物ばかりです。それを、人間とも思えない声で歌い上げられると、つい感動してしまうように出来ている芸術です。ワーグナーも好きだと言っているそうですから、思い込みの激しさは想像できますなあ。政治を考える時は素面のままでいてくれれば、趣味は問題ではないのですが、音痴なくせに自分も舞台で歌っている気分になって妙な啖呵調の演説をされたら、聞いている方が恥ずかしくなりますぞ!衆議院解散直後のガリレオ演説に感心した新聞記者が沢山いたそうですから、そんな新聞は要りません!戦前の新聞と何も変っていないじゃないですか?新聞記者も一緒になって酔っ払って記事を書いてしまったらエライことになりますぞ!

■オマケとして、BSE問題で農水省が「全頭検査でないと危険だ」と先に発表してしまったのが間違いで、その後の議論も交渉も出来なくなった事。国連安全保障理事会の常任理事国入りの問題も、国民の大半が「国連の常任理事国入り」の話と混同するように外務省はアナウンスしている事。日米財務相会談で、塩川財務相が不良債権処理加速のために公的資金を活用する方針を発表した直後に、官僚があっさり否定した事。国税庁が戦中の特高警察並みに強権を持っている証拠に、申告前に事前照会しても応じず、国税庁の見解と違っていれば「守秘義務」を破って、マスコミにリークして修正申告を「脱税事件」のように書かせて恐怖を煽っている事などが指摘されている対談です。

■p234の『霞ヶ関コンフィデンシャル』に、ちょっと耳寄りな話が紹介されていますぞ!


「民主党が政権をとったら俺たちはクビになる」総選挙で霞ヶ関の話題をさらったのが、岡田克也民主党代表が掲げた「岡田政権500日プラン」だ。…「脱『官僚政治』」という一項を設けて「局長級以上の幹部職員は、原則として、新政権の政権運営方針への賛同と協力を前提に任命」と記した。つまり、局長級以上の人物は辞表をいったん提出する事が義務づけられる。…総選挙後第一週で「補佐官、総理秘書官、内閣官房及び内閣府の副大臣・副長官の人選」を行い、前政権を支えたスタッフ全員を入れ替えるとした。

但し書きとして、官僚出身の政治家は安易な官僚叩きで人気を得ようとする点も注意されているのですが、小泉さんが役人出身候補を雨後の筍(たけのこ)のように乱立させて見せましたが、小泉さんは現役官僚とは喧嘩しないので、岡田プランが消えて官僚達は祝杯を挙げた事でしょうなあ。

■「郵政民営化法案」に反対した総務省幹部数名を更迭したのが大きく取り上げられたので、小泉さんが官僚と喧嘩しているように見えたのは幻想トリックです。官僚達は小泉さんが大好きです。岡田さんに任せれば日本は大丈夫だ、とはまったく思えませんが、しかし、こんな圧勝を小泉さんにさせてしまっては、これからが大変ですなあ。

其の参に続く
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月刊『文藝春秋』10月号 其の壱

2005-09-13 19:58:55 | 書想(その他)
■何が何やらさっぱり分からないまま選挙に突入する直前に編集された最新号なので、選挙に関係する記事は「どちらが勝つにしても」の但し書きが付いている割には、現実の選挙結果を予期しているような文章が多いような気がします。いくつか注目した記事を引用しながら、選挙を「反省」してみようと思います。

■追求リポート『役人公費40兆円の暗黒大陸』(伊藤惇夫&取材班)は胸が悪くなるような情報が満載で、余程体調が良い時か精神的な余裕が有る時に読んだ方が良いでしょうなあ。本当に腹が立ちます。でも、こんなミミッチイことを大真面目な顔をしてやっているお役人さん達が哀れにも思えます。さてさて、最新号の特集は「9・11総選挙と日本の選択」という論文9本と対談1本で構成されていまして、これは読ませますぞ!中西輝政さんの『宰相小泉が国民に与えた生贄(いけにえ)』というちょっと長い論文は、御専門の英国政治史からロイド・ジョージを引っ張り出して、小泉さんの「刺客選挙」とそっくりな「クーポン選挙」が1918年に実施された顛末を詳細に述べています。後日談まで書かれているので、小泉さんが圧勝したからには、是非目を通しておくべきだと思いますなあ。オチまで書いてしまうと営業妨害になりますから、差し控えますが、さも有りなん、という筋書きが楽しめます。

■同じ特集に入っている東谷暁さんの『郵政民営化の中身は空っぽ』も、自民党に投票した人の中には選挙前に読んでおきたかった!と悔しがる人もいるかも知れない内容です。さてさて、一番のお楽しみが堺屋太一さんと野口悠紀雄さんの対談『族議員死して官僚の高笑い』です。二人とも官僚の悪口となったら自分の体験を通して楽しそうに語るので、小泉さんが何をしたのかを官僚側から解説してくれています。最後は、選挙に勝った政党に、官僚政治打破を望む、という詰まらない締め方なのですが、対談中に出て来る聞き捨てならならにネタを抜き書きしておきます。


p141 
堺屋 戦後日本の社会構造において、この官僚集団を牽制する力を持っていたのは、民間大企業と自民党政治でした。ところがここ数年のうちに、この三者の拮抗状態の中から政治の力が急速に低下している。……

野口 高度成長期に比べて官僚の力が低下した一つの理由は、税制における山中貞則氏のように、専門的知識を持つ政治家が藤蔵したからです。

■小泉時代になって、政治家が重石にならなくなって官僚が好き放題に動き出したという話なのですが、その恐ろしい具体例が出て来ます。


堺屋 90年代には政治主導の改革が進みましたが、小泉内閣はそういった政治家たちを“族議員”という名のもとに駆逐してしまったのです。その結果、残った官僚の独走となり、官僚だけがどんどん力を強化されています。残念ながら小泉さんはそのことに気付いていない。族議員を潰したからいいじゃないか、と思っているはずです。

「族議員」には良い族議員と悪い族議員がいるという事です。しかし、多くのマスコミは水戸黄門の悪代官と同じ扱いで「族議員」を悪者にしていましたなあ。だから、自分が族議員になれなかった小泉さんが、訳知り顔のジイサン連中をばったばったと切り倒すのが痛快に思えたのでしょう。この筋書きを作ったのが、官僚達だったとしたら、これはエライことですぞ!

其の弐に続く
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『2008年IMF占領』 森木亮著

2005-08-25 21:10:35 | 書想(その他)
■小泉改革の「本丸」は郵政民営化なのだそうですが、国会の議論でも時々言及されながらも核心が付けないまま放置されている米国との関連を確認しておくべきだと思います。この本は光文社のペーパーバック・シリーズに含まれている一冊です。要は、著者の森木さんが長年に亘って、乱発される国債の暴落がいよいよやって来るぞ!というシミュレーション本です。日本の財政が破綻に到る流れを過去から語り起こして、財政破綻の責任に関して、松下康雄次官(元日本銀行総裁)・山口光秀主計局長(元東京証券取引所理事長)・吉野良彦官房長(元日本開発銀行総裁)という犯人の名前を出して明解に解説しています。

■戦前どころか、明治政府の財政政策から語られる日本財政史はとても面白いのですが、この本を買って良かったと思えるのは巻末資料を読んだ時です。特に『巻末資料4』はアメリカの対日政策に関する貴重な内容になっています。『年次改革要望書』を公開している米国大使館のホーム・ページのアドレス付きです。(http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041020-50.html)
実物を読むのが面倒だという人には、この本はお買い得だと思います。巻末資料4では、関岡英之さんの『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』(文春新書)を引用して 


この「年次改革要望書」が毎年提出されることになったは、「1993年7月の宮沢首相とクリントン大統領の首脳会議で決った」

と教えてくれます。

■2004年10月14日付の「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府要望書」を引用して丁寧な解説をしてくれています。その中に、問題の郵政民営化に関する「要望」が出て来ます。


Ⅱ-A-1-a
郵便保険と郵便貯金事業に、民間企業と同様の法律、規制、納税条件、責任準備金条件、基準、おおび規制監督を適用すること。

Ⅱ-A-1-b
特に郵便保険と郵便貯金事業の政府保有株式の完全売却が完了するまでの間、新規の郵便保険と郵便貯金商品に暗黙の政府保証があるかのような認識が国民に生じないよう、十分な方策を取る。…………

Ⅱ-A-4
日本郵政公社において販売される民間企業元受けの保険商品の選択が、公平で透明性がある形で行なわれるよう保証する。

Ⅱ-A-5
日本郵政公社の民営化の過程で、郵便保険および郵便貯金事業に新たな優遇が与えられないよう保証する。

Ⅱ-A-6
郵便保険と郵便貯金事業の民間企業に対する競争の状況を定期的に調査するための独立した委員会を設置し、民営化の過程において一貫して、同一の競争条件の継続を保証するこを目指す。


■19世紀に、英仏独が清朝チャイナを切り刻んでいる間、スペインとの戦争で忙しくて出遅れた米国は、カリブ海を押さえてから太平洋に出て、ハワイ・フィリピン・グアムまで来たところで、有名な「門戸開放」を言い出しました。美味しい所は全部貰ってしまった欧州列強は、利権の維持に必要なコストが高くなって来ていたので、米国の言い分を大体聞き入れましたが、最後に参加した日本はこれから投資分を回収しようという時でしたから、真正面から米国に反発してしまいました。米国は事前に用意していた「オレンジ計画」に従って太平洋戦争を起こして、チャイナへの進出拠点としたかった沖縄を手に入れたのでした。

■1985年のプラザ合意に始まる日本の金融機関に集まっていた富の回収は大成功して、日本には100兆円を越える大穴が開いて、それと同等の富が米国の大赤字を埋める資金となって還流して行ったと言われています。クリントン政権が着手した日本の官僚制度破壊計画は、大蔵省を崩壊させて官僚たちの裁量権の材料を根絶やしにしましたし、外務省の弱腰に付け込んでクウェート救援作戦の資金を脅し取ってばかりか、イラク派兵とインド洋での補給役を日本に押し付けて戦費の肩代わりをさせる事に成功しました。世界一に成長した日本の自動車産業も米国本土に生産拠点を移させたし、ITソフトも永久に日本が米国から買い続ける仕組みも完成しました。映像ソフトと音楽ソフトの日本市場も万全です。

■破綻した金融機関も粗方(あらかた)買収しましたから、残るのは全国津々浦々から集められている郵政省が握っている資産です。これを吐き出させて増え続ける米国の赤字を埋めてしまいたいので、郵政省破壊が計画されたのでしょう。郵政省が解体されれば、自動的に郵便局が民営化されて莫大な資産の運用は官僚の手を離れます。バブル時代に馬脚を現したように、日本の民間金融機関はとても米国の企業に太刀打ちは出来ませんから、340兆円などという金額を前にしたら卒倒してしまうでしょうが、米国は博打の掛金は大きいほど楽しい事を知っていますので、大喜びで何兆円でも引き受けてあちこちで焦げ付かせながらも利益だけはしっかりと握って離さないでしょうなあ。

■ご丁寧な事に、この要望書には「宅配便サービス」との公正な競争に関しても注文を付けているので、クロネコやまとと郵政公社がコンビニの取り合いなどしている内に、気が付いたら外資が有力宅配業者を買収してしまっているなどという事になるのかも知れません。


Ⅱ-B-2
税金や他の料金免除など競争条件を変更するような特別な便益や、物品の運送に関して政府機関による特別な取り扱いや、関税業務にかかるコストの免除などが、政府政策により競争サービスのあるひとつの提供者のみに与えられないことを必要に応じて確実にする。

Ⅱ-B-3
競争サービス条件下で、全国一律サービスの提供から得られた収益を用い非競争的な相互補助が行われる事の防止監督をする。ひとつの監督方法は、日本郵政公社および全ての関連会社の会計が分離、独立でえありかつ完全に透明性のあるものとすることであろう。


■これを書いたのは日本の官僚でもないし、野党第一党のシンクタンクでもないという事実を再確認しておきましょう。そして、こうした微に入り細を穿った要望書に対抗する文書を日本政府の官僚達は書いているのか?という大問題が有ります。郵政民営化がどんな風に進むのか、何故か米国は預言者のように正確に知っています。


Ⅱ-C-1
日本郵政公社民営化の準備期および移行期において、民間の利害関係者(外資系を含む)の要請に基づき、民間企業に影響が及ぶ可能性のある論点について、総務省、郵政民荊軻準備室、金融庁を含む関係省庁の職員と意見交換をする有意義な機会が提供されるようにする。


■こうした基本となる資料を提供しないで、「郵政民営化」に賛成か反対かが争点になっているような報道ばかりしていると、どちらに転んでも米国の注文通りの結果しか出ない流れになってしまいそうですなあ。米国は、日本郵政公社・成田国際空港・日本道路公団を筆頭にした民営化希望対象を羅列して日本政府に突きつけているそうです。つまり、民営化の議論は国会議事堂の中で行なわれているのではなくて、ワシントンと総理官邸の間で既に終了していたという事でしょうか?国会で何度か追及された時、小泉さんと竹中さんは「民営化案は米国の要望とは無関係に日本政府独自に作られたものです」とまったく同じ答弁をしていましたなあ。野党側もそれ以上の追求をしなかったのには特別な理由が有るのでしょうか?

というわけで、選挙前に是非一度は目を通しておいた方が良い本だと思います。

『常識と非常識』其の参

2005-08-13 16:03:49 | 書想(その他)
其の弐の続き

■豊田さんは、素人を騙して商売している原発反対屋と朝鮮半島問題をミスリードしている売文家に対して容赦が無いのですが、特に、現地レポートの形で『韓国の挑戦』という本を出版して鬼だ悪魔だと罵られた経験を持っているので、半島情勢に関する無責任なコメントをする人物は許せないようです。当時は朴政権の悪口を言っていれば大儲けできた時代で、現実の韓国がインフラ整備や資本投下に努力している事を書いたりすると、大変な目に遭ったようです。今は昔、それでも「あの時はウソを書き散らして儲けてしまいました」と反省する本は未だ一冊も出版されていませんなあ。

■半島問題となると、鼻息がいっそう荒くなる豊田さんですが、ご自身が犯した大失敗に関しても正直に書いておられるところに好感が持てますぞ。


ある二流の評論誌に、何度か原稿を書いた……そこの編集者がソウルへ行かないかと誘ってきた。なんでも、「統一」のためのセミナーがあるから、参加して欲しいとうことだった。おれは、喜んで飛びついた。……おれは、韓国の軍事情報をもっと詳しく知りたかった。統一についてのセミナーと聞いて喜んで参加することになった。……用意されたホテルでは、若い日本人の女の子が、日本語で応対してくれている。……日本人が受付にいることに、確かに違和感をおぼえた。……翌朝ロビーに出て、おれは滞在予定表を渡されて仰天した。一日のスケジュールが書いてあるが、南北統一のことはまったくない。メシアについてとか、サタンについてとか、わけの判らないことが書いてある。……びっくりしたのを通り越して、目の前が真っ暗になった。

この出来事は、昭和60年頃のことだったようですが、この抜粋だけでもお分かりのように、「統一神霊教会」の合同結婚式を中心とするイベントに豊田さんが巻き込まれた話です。まるで、上出来の喜劇のようですが実話です。コリアン・ウォッチャーを自認する豊田さんですから、教組の文鮮明が米国で逮捕されていることや、日本で「原理運動」が社会問題になっていることも御存知だったのですが、「統一」が統一神霊教会を意味するとはまったく知らなかったとのことです。

■豊田さんは、韓国語の会話力をフルに発揮して「日本の親族に不幸があった!」と騒いでパスポートを奪回して、その日の内にキャンセル・チケットを買って日本に逃げ帰ったそうです。「統一のセミナー」とはウマイ言い方ですなあ。その後も、「花売り」「北海道の珍味売り」から「先祖供養」「運命鑑定」など熱心に営業努力をしてしる団体ですから、豊田さんがころりと騙されたのも仕方が無いでしょうなあ。隣の国の事なのに、肝腎なことは何も伝わって来ないのは、韓国が情報を操作したり制限しているからではありません。日本側が意図的に情報を加工して売り物にしているからです。こんな話も紹介されています。


本当のことを書いても、なかなか一般の日本人に信じてもらえなくて困ることが少なくない。「北朝鮮では、車は歩行者をひき殺してもかまわない」と書いたところ、さる出版社で削除を求められた。北では、車に乗れるのは、朝鮮労働党の幹部だけである。その車に近づくだけで犯罪になる。つまり轢かれるほうが悪いのだ。

■この本が出たのは平成五年ですから、拉致事件が発覚する前になります。今では、こんな事を書いても誰も削除など求めませんし、大人数で出版社や著者の家を取り囲むような事も無くなったようですから、日本も少しは成長したということでしょうか?北の話は少しばかり行き過ぎているようで、逆に南の大韓民国からの情報が歪み続けているような気がしますなあ。勿論、中国情報となるとまだまだ、雲をつかむような話が飛び交っているので本当に困ります。

■ついついテレビ批判を気軽にしてしまう拙ブログに対する重要な戒めとなる一節も有ります。


テレビ番組の制作システムの変更のせいもあるだろう。かつて局制作だった番組が、外注されるようになり、下請け、孫請けといったプロダクションまで降りていくあいだに、代理店はじめ多くの段階で、中間搾取されて製作現場には雀の涙ほどしか予算が渡らなくなってしまう。……安易なテレビ評は「安易な制作態度」を批判していれば済んでしまう。代理店、局サイドには、なにもしなくても金が入って来るが、現場の制作スタッフまでは金がまわらない。……デスクワークをやっている人間が、体を張っているクリエーターを搾取しているようなものだ。

こうした視点は大切にしたいと思いますなあ。と、いうような気分爽快になれる怒りの一書でございます。興味を持たれた方は、どうぞ手に取って見て下さい。折を見て、豊田さんが書かれた別の本も紹介したいと存じます。

おしまい。

『常識と非常識』其の弐

2005-08-13 16:00:51 | 書想(その他)
其の弐の続き

■快刀乱麻を断って、痛快な一節を抜粋で紹介しましょう。


間違った政策を立案、決定、施行した役人が、出世街道をまっしぐらに進み、お上を信じた庶民が泣きをみる。

と、ばっさり切っている例として豊田さんは代表的な悪政を列挙しています。その第一が1950年代に実施されたドミニカ共和国への棄民政策です。国内の貧困政策として、現地政府も諦めていた水も無い荒地に日本政府が移民受け入れを懇願して送り込んだというトンテモナイ実話で、下調べも何もしないまま、「口減らし」の数だけを揃えて送り出した後は知らんぷり!戦前の移民政策の方がまだ温情が残っていたような感じですなあ。

■それに続くのが、フィリピン航空戦で本当に苦渋の選択で実施された関大尉率いる「敷島隊」によるゼロ戦による自殺攻撃……そのものではなく、それに味をしめて安易に真似をした特攻命令の乱発。趣を変えたところでは、宍道湖の淡水化計画、八郎潟干拓事業、下北半島でのテンサイ(砂糖大根)栽培の奨励などの農業政策。特に下北半島での詐欺同然の転作指導は、キューバが独占していたサトウキビ市場に負けることを承知の上でやったものですから、命令に従った青森県のお百姓さんたちは借金を増やしただけでした。この時の不信感が原発処理施設の集中政策にも残っているらしいのです。青森や秋田、そして沖縄と、東京から遠いところが馬鹿を見るのを高見の見物しているのは残念です。怒りが治まらない豊田さんは、


スウェーデンで提唱されたオンブズマン制度(行政監視制度)を、過去に遡って、適用できないものだろうか?誰が見ても明らかに誤りと思われる政策を行った関係者については、本人死亡の場合もふくめて、年金没収、退職金返還などの措置を、審査すべきである。

と書いています。諫早湾の干拓事業も、実施理由が二転三転しても平気で続行中ですし、皆が忘れてしまった成田空港の建設決定に関する罪深い愚かさは放置されたままです。複雑怪奇な年金制度や返済不能の国債発行も、責任者がいないから放って置けるのでしょうなあ?

■豊田さんは税金(脱税)問題に関して面白い指摘をしています。御本人の実家が医者である事から見えることが有るようです。


毎年、発表になる脱税ワースト10に、必ず医者が顔を出す。これは、当然のことで、100%、ガラス張りの保険収入をごまかそうとするから、他の業種と違って100%とは言わないまでも、ほとんどすべて摘発される。……パチンコ屋、不動産屋などが顔を出すが、収入がガラス張りでないから、五億円の脱税と言うことで追徴金を払っても、実際の脱税額は十億かも二十億かも知れない。サラリーマンに医師を憎むようにしむけ、逆に医師に対しては交際費の使えるサラリーマンを怨むようにしむけているのは、他の巨悪から目をそらすための体制の陰謀である。……蛇足だが、医学部は俺を含めて、もっとも中退者の多い学部である。将来の希望がないからだ。

■御本人が東大医学部中退という輝かしい?学歴をお持ちの豊田さんの受験制度批判は鋭くて示唆的です。

早い話が、現役で東大入試に合格するような奴は、まともじゃない。よほどのバカでなければ、どこかおかしいのだ。……つまり、誰でもおれと同じようにすれば、東大には合格出来る。その方法は、たったひとつしかない。高校三年間、ドブに捨てる決心で、受験のための丸暗記以外のことは、食う寝る以外なにひとつしないことだ。……自分の頭で考え、分析しようなどとは、夢にも思わないオウムみたいな従順な丸暗記バカ

御本人は受験勉強の期間中に父上様が亡くなって、その葬儀中にも暗記カードを手放さなかったそうですから、こうした悪口は過去の自分に対するものでもあるようです。しかし、暗記バカの恐ろしさは別の批判に連動しています。

ひところ左翼全盛のころは、マルクス主義経済学をいったん暗記してしまえば、一生食うに困らないと言われたものだ。だが、何かを暗記してしまうと、暗記した事に引きずられて、自由は発想が出てこなくなる以前に、自分で考える事をしなくなってしまう。そこで、暗記した物差しで、物事を計ることになる。共産主義=反ファシズム、資本主義=ファシズムというような単純な図式を、何にでもあてはめようとするのだ。

■こうした怒りと怨念を叩き付けたい相手の名前が知りたくなりますが、豊田さんは一人だけ挙げています。

このころ、清水幾太郎というオピニオン・リーダーが、大活躍した。左翼知識人として、学生を扇動した人である。おれも、コロッといかれたのだが、これは、自分がバカだったせいだろう。ずっと殴ってやろうと思っていたが、さるパーティで出会い、あまりの好々爺ぶりに、その気を無くした。清水氏は、もう亡くなられたが、晩年は逆に右翼的な言動が目立った。目がさめただけ、ましだろう。……もちろん、今日の日本が、絶対に正しいということではない。しかし、汚職摘発される国である。もし、共産主義になっていれば、権力は一党に集中するから、不正どころか、闇から闇へ葬られてしまうのである。

■実際に、世界で最も民主的な憲法を作ったスターリンは、ことごとく憲法を無視した政策を続けましたし、北朝鮮に検察が存在しているはずも有りませんし、中国でも政治的に失脚しない限りは、絶対に逮捕されませんなあ。レーニン以来、全部「革命家英雄列伝」の中に収まった人物は称賛されるばかりで、ソ連が崩壊するまではレーニンの悪行はまったく外に出て来ないままでしたから、隣の国が崩壊したら随分と面白い資料がごっそり出て来るに違いないわけです。バレては困る資料に自分の名前が載っているので、少しでも長く延命させようと必死になっているお人よしも各国にいるのも間違いない話でしょうなあ。

其の参に続く

『常識と非常識』其の壱

2005-08-13 15:56:23 | 書想(その他)
■SF作家として有名な豊田さんですが、今回はSF作品は取り上げません。古代史SFの草分けにして第一人者ですし、手塚治虫さんの直弟子で同志でもあったアニメ界の重鎮であり、生き字引のような方ですから、拙ブログとしましては、取り上げたいネタの宝庫と言えます。豊田さんは、「韓流ブーム」が起こる20年以上前からハングル語を学んで韓国との交流を深めておられる行動派の作家であることは有名ですし、日本人がキムチの臭いに顔を顰(しか)めていた頃から、忠清北道清州市出身の金栄来さんから直伝のキムチ作りを学んで、毎年白菜40個分を韓国から買って来る唐辛子で漬け込み続けている人です。どうやら、米国まで北朝鮮に手を焼いて迷走し始めている今、豊田さんの見識を参考にする時期のように思えます。

『常識と非常識』祥伝社ノン・ポシェット 520円

■最初に取り上げるのはこの文庫本です。食文化と言語によって交流する人の体験談は貴重です。ワイド・ショー風の素人受けする「一言コメント」などでは絶対に得られない情報と知恵が詰まっています。例えば、韓国で開催されたソウル・オリンピックに関して、開催前には南北分断のままでの開催を心配する声が上がり、無事に成功裏に開催されると今度は「韓国脅威論」を言い出す人が出る日本人に対して、

韓国人は「国をあげ」ない民族なのだ。これまでの歴史でも、何十という党派ができて、小田原評定をやっているうちに、国が亡びるという例が少なくなかった。

と一刀両断です。韓国が近代化を進めて日本と対等に喧嘩できるようになる時代を愛情深く期待している豊田さんだからこそ、ずぱりと半島の傾向を指摘してくれます。

■豊田さんは、テレビを中心としたマスコミにまったくの素人の分際をわきまえずに、思い付きのコメントをシタリ顔で口にする商売人が増えた事を危惧していたようですが、御自分の意見を主張できる蓄積と体験が有る半島問題に関しても、北朝鮮よりの平和ボケのコメントが安売りされては黙っておられない!というわけです。第2章の「西から東まで……世紀末の世界にもの申す」には、


(1) 朝鮮半島、おれが言わずに誰が言う
危機一髪!統一神霊教会に連れられ韓国ツアーへ!
従軍慰安婦問題――感情論と歴史的事実を混同するな!
日本人による日本バッシングに要注意!
真実を書くと「狂人」あつかいされる国
“国をあげての五輪”の嘘にまどわされるな!
「三分の理」すら認めぬ韓国の論調に異議あり
日朝国交など言語道断、まず民主化を要求せよ
“百害”の日朝国交回復で利を得る奴は誰なのか
北朝鮮の実情を顧みぬ人権擁護運動など笑止
原爆よりはるかに怖い北朝鮮の爆発しない核


■実に歯切れが良く、とても有益な意見が満載です。その他にも、原発問題、皇室問題、自衛隊問題、農地問題、政界と官僚と痒(かゆ)い処に全部手が届いているお得な本です。手軽な文庫版ですから、通勤通学の時にも便利です。個人的に我が意を得たりと唸(うな)ったジョークを紹介しましょう。

「いま、共産主義国に、いちばん必要なのは、なにか知っているかい?」
「市場原理の導入ですか?それとも、ペレストロイカか、グラスノスチかな?」
「ちがうよ。プロレタリア革命」


実際に、中国の現地で暮らしてみると、行き着く先には「毛沢東思想」の復権運動を起爆剤とした「真・社会主義革命」運動が起こるのじゃなかろうか?と心配になるものなのです。

■どうしても書き漏らせない重大事が「ゴルフ場問題」です。イネ科植物である芝を守るためには、膨大な特殊除草剤を撒き続けなければ、ゴルフ場は一年で使い物にならない物ですから、環境に対する破壊力は凄まじいのは有名ですが、豊田さんの視線は、環境問題を貫通してゴルフ場造成事業に隠された恐るべき文化破壊活動を弾劾しているのです。つまり、古代日本に暮らしていた人々が要塞型の村落を造った場所と、ゴルフ場造成に適した地形はほぼ一致しているというのです。もしも、吉野ヶ里遺跡がゴルフ場の造成工事の現場であったとしたら、あの世紀の大発見は闇から闇に葬られていたに違いない!と怒っているのです。ご自身でも考古学に造詣が深く、各地の遺跡調査にも参加している行動派ですから、公共事業の工事の場合は文化庁が介入しますが、それ以外の工事現場では、何か地中から出て来てもブルドーザーが踏み潰し、パワーショベルが掻き回してさっさとゴルフ場にしてしまうそうです。どれ程の貴重な遺跡がゴルフ場によって消し去られたのかは、誰にも分からないとの事です。何とも恐ろしくも、恥ずかしい話でございます。

其の弐につづく

『国を思えば腹が立つ』其の参

2005-07-20 07:41:17 | 書想(その他)
■阿川さんがフランスにコダワルのは師匠の志賀直哉さんが、戦後に錯乱して「日本語を廃してフランス語を公用語にしたら」などと書いてしまったことや、大嫌いな大江健三郎さんがサルトル気取りで変な物を書き散らしていることが気になって仕方がないからでしょう。少しばかり気になるのは、同じ海洋国家であるからという理由でイギリスに対する思い入れが強いようです。日英同盟を結んでいた時の日本、つまり明治から大正にかけての日本を少し持ち上げ過ぎているようにも思えます。昔はイギリスで今は米国を重視するというアングロ・サクソンとの同盟戦略は分かり易いのですが、阿川さんとしては、体験的に米国の中にも日本に関する正確な知識を持っていない人が多いことを心配しておられるので、バランスは取れているようです。昭和天皇崩御に際して、英国のアホなタブロイド紙が失礼で無様な負け惜しみ記事を書いた事にはきちんと釘を刺しています。

■最近は一時ほどは騒がれなくなりましたが、「ボーダーレス」に関しても注意を喚起しておられます。ボーダレス化とグローバリゼーションの親玉である米国が、メキシコ国境を厳格に守り続けている事実を指摘しながら、


日本でも、バングラデシュとか、イラン、パキスタン、フィリピンからの出稼ぎ労働者の問題をどうするか。またほんもののベトナム難民や、中国南部の港から今後もひそかにやってくるであろうにせものの難民を、人道的にどこまで受け入れるのか、或いは拒否するのか。そういう問題ひとつ取っても、国というものを頭の中から消してしまうわけにはいかない。自分の国の在り方について、各自がしっかりした考えを持っている必要がある。


■自国の国境を地図上に描けない程度の知識で、「アジアとの友好」を主張しても空疎ですし、東アジア各国の歴史を知らずに乱暴に「アジア」と一括りにするような文章を平気で書き散らすような商売人には注意しなければなりませんし、政治的な意見として発表されている場合には、「アジア」とは何処の国を指しているのか、そして、「友好」に必要なコストの見積もりが付けられているか、などを確認してからでないと、意見の吟味のしようが無いのです。

■最後に、天皇家との個人的なお付き合いの有る阿川さんなので、天皇問題に関する乱暴な論評には断固として反対しておられます。左に引っ張って行って最終的には解体消滅を提案する意見にも歴史と文化の面から反対で、右に引き込んで政治的に利用したり馬鹿馬鹿しいことにもう一度軍の最高司令官に祭り上げようとするような意見にも反対しておられます。新聞やテレビの扱い方も左右に振動するように安定しないまま、皇室にホームドラマを投影して、お世継ぎ問題だの嫁姑の諍(いさか)いをこじつけてみたりする事さえ商売になればやってしまえるのが自由を尊重する民主国家・日本です。しかし、もう少し長いスパンで歴史を捉えて天皇家の問題は語るべきでしょう。この本でも「2.26事件」の際に、ただ御一人昭和天皇だけが事件の渦中で正気を保って正論を語られた事を何度も指摘しています。

■そんな阿川さんが、「開かれた皇室」にはある程度の理解を示しながらも、「開かれすぎた皇室」には危機感を持ちながら、公表しようかどうしようか、迷いながら幾つかのエピソードを書いています。何だか、これを読んだだけで、この本を買って得したような気がしたのですが……。三つほど引用しようと思います。


年に一度か二年に一度か、新しい芸術院の会員が何人かずつ伺って、当時の皇太子殿下御夫妻に仕事の上のことやそのほかいろんなお話を申し上げる慣例があって、……陛下から芸術院の第二部、つまり文芸部門に、詩人、歌人はいま何人いますかという御下問があった。私はハッとしたんです。……それは芸術院の新会員を選出する方法に絡む問題で、簡単に言えば、詩歌の分野でいい仕事をしている人がいても、……なかなか規定の得票数を得られない。……現代詩ほうもそうですが、特に、敷島の大和の道の歌人が日本の芸術院に一人もいない……


■これは仰天するような大問題です。芸術院の中でも日本語が苛められているのです!毎年、歌会始めをきちんと開催している天皇家ですから、「歌」を大切にするのは当然ですが、創作や教育の現場で日本語を扱っている人たちが、こんな実態を放置しているのですから、天皇陛下もさぞや御心配でしょうなあ。トンデモないことでございますぞ!


三笠宮家の末っ子であられる高円宮さまを、私はカナダに留学しておられた頃から、あるご縁があって存じあげています。……先帝陛下の一年の喪があけて間も無くでした。……夕食に招かれて、一人で伺ってみましたら、驚いたことに、お相客が新しい天皇皇后両陛下と、皇太子の浩宮さんだと言われるんですよ。……高円宮さんが、実はアメリカで大変人気のある高名なチョロ奏者、ヨーヨー・マが今、日本へきていて、今夜の集まりに誘ったら、先約があって食事にはこれれないけど、そっちの用事が済み次第おくれて伺うということなので、……そうしてその「一曲」が、また驚いたことに、相談の結果、皇太子様と皇后様と馬さんとでハイドンの三重奏曲を演奏してみようということになった。……皇后陛下のピアノ、皇太子のビオラ、ヨーヨー・マのチェロという合奏は、室内音楽会の切符にしたらどのくらいの値段になるだろうかと、はなはださもしいことまで想像してしまいましたよ。……食事が済んで、小音楽会の形に椅子を並べかえる必要が生じた。だけど私は、先年ぎっくり腰をやって、……陛下が、つまり明仁天皇が、高円宮さんたちと一緒に「ドッコイショ」と言って、ご自分で椅子を持ち上げてお動かしになるので、これまたびっくりしたし、恐縮しました。

■皇族方の教養は幅広くて、和洋の粋を集めてどこに出向かれても恥をかかない訓練が行き届いているらしいことは存じ上げていますが、世界のヨーヨー・マがふらりと現れての即興演奏会とは、阿川さんが魂消たのも当然ですなあ。


ロイヤル室内楽団の演奏が始まり、ハイドンの三重奏曲はたいへんきれいで結構だったんですけど、そのあと、篠田桃紅さんと私と、ほとんど同時に、前からのくせでうっかり、美智子皇后陛下を「妃殿下」と呼ぶ失敗をやったんです。すぐ気がつきましたから、「あ、失礼いたしました」と、これまた異口同音にお詫び申し上げたところが、美智子皇后が、「いえ、よろしいんでございます。実は、このあいだも女官が『皇后様のお出ましでございます』と申しますので、皇后陛下がお通りになるんだと思ってじっと立っておりましたら、自分のことでございました」と言ってお笑いになって、まことに飾らぬお人柄で、感銘を受けました。

おしまい。

『国を思えば腹が立つ』 其の弐

2005-07-20 07:39:03 | 書想(その他)
■アジアに対する視線に関してもバランス感覚の重要性を指摘しています。

34頁 今後の日本はアジアの国々と手を携えて、アジア中心主義で行くんだという考え方があります。それともう一方で、一部の人々は、ヨーロッパに非常に心惹かれていて、あちらのほうがさすがに文化の伝統の古く、質も高く、何となくつき合いやすいし、親しみやすいというような漠然とした気持ちを持っているようですが、その考え方に私は反対です。


では、どう考えるかというと、アジア諸国をきちんと分けて友とすべき台湾・タイ・マレーシア・シンガポールとの友好関係が重要で、欧州に対する幻想や劣等感は捨てるべきだ、という事になります。今は、ちょっと努力すればこうした視点で日本の戦略が感がえられる幸福な時代です。

■明治時代には、大急ぎで欧米列強を研究して、カタログ販売のようにあちこちから良さそうな所を切り取ってアジア発の近代国家を組み立てたのですが、だんだんと切り張り状態に飽き足らなくなって来たようです。


38頁 昭和14年、5年ごろ、日本は政治家も学者も軍人もみんなドイツに憧れて、ナチスドイツのものなら一から十までいいように思い込んでしまい、ドイツの悪口なぞうっかり言ったら、官僚なんか、自分のクビが危ないばかりでなく、本当に右翼から命を狙われかねないような状況が存在したのです。


陸軍を中心にして、ドイツに対する憧れはすさまじかったのは有名ですが、陸軍とは関係の無かった人々までが熱狂した理由が問題です。


ヒットラーの『マイン・カンプフ』が大ベストセラーになって、しかしヒットラーのあの著作の中には、日本人を「もの真似の上手な黄色いサルだ」と、たいへん蔑視してる箇所があるのです。「小利口で、小器用で、ドイツの手先として使うには便利な国民」という記述が原著にあるのだそうですが、翻訳ではそれを省いてありますから、そんなこと、ほとんどの読者は知らないし気づいてもいない。ただ、ドイツのテキパキしたやり方に非常な感銘を受けて、ヒットラーの扇動的大熱弁ですっかりいかれてしまって……。


■日本は翻訳文化の大国で、日本語さえ読めれば世界中の本が読める、という誇るべき有り難い世界的な評価が有ります。しかし、こうしたテキスト操作が頻繁に起こってしますと、それなら読まない方がましだ!という悲しむべき気分が膨らんでしまいます。極一部なのでしょうが、「気に入らない」部分を削ったり意図的に誤訳したりするのは、資料として残る書籍では絶対にやってはならないことです。岩波文庫に所蔵されているジョンストン著『紫禁城の黄昏』という本は、第1章から10章までと第16章がすっぽり抜け落ちている間抜けな翻訳だというのは有名な話です。祥伝社から完訳本が出たのは今年のことでした。削除されていたのは、女真族の清朝と満洲国との歴史的関係を述べている一番面白いところですから、残っているのは退屈な宮廷内の日常生活と没落の悲劇ばかりです。ですから、ベルトリッチ監督の『ラスト・エンペラー』に感動した人たちが原作本だというのでうっかり買ってしまうだけの本になってしまいました。

■日露戦争から満洲事変までの歴史的意義を知るのに、とても役に立つ貴重な資料だった本が、日本との関連が希薄な本になってしまったのは残念でした。こうした余計なお世話を焼く人たちは、自分が勝手に判断して読者に特定のメッセージを押し付けることが良い事だと思い込んでしまう場合が有るらしいのですなあ。こういう「正義のセールスマン」が出版界や学界にうろうろしているようだと、真実を求める読者は、自分で10種類とか20種類の言語を習得しなければならなくなってしまいます。


39頁 半世紀前の、その憧れは、日本破滅の道につながる憧れで、大失敗だったと、今では誰もが分かってますけど、さて半世紀後のこんにち、変な国に憧れるとまたまた危ないぞということは、なかなか人の耳に入らない。フランスはまあ、どっちでもいいです。日本の運命を左右するようなパートナーには、どうせなりっこないんだから。だけど、北京や、ましてピョンヤンに変な憧れを抱くのは、本当に危険だと思う。


其の参に続く

『国を思えば腹が立つ』 阿川弘之 其の壱

2005-07-20 07:34:41 | 書想(その他)
■最近、阿川弘之さんの『国を思えば腹が立つ』という怒りのエッセイを読みました。阿川さんの戦争に取材した小説群はその内に読もうと思いながら余り読んでいないのですが、古本屋さんでこの本を見つけて中身をパラパラやってみると、なかなか面白い。『国を思うて何が悪い』という本の続編とのことですが、この本は1992年に出版されていて、昭和が終わりソ連が崩壊したという大きな時代の節目を意識して書かれているので、「日本の彷徨」を知るのに役に立つ話があちこちに並んでいる本です。

■先回りしてお断りしておきますが、ノーベル文学賞を受賞なさった大江健三郎さんとの流血騒ぎに至る確執の話がとても面白いのですが、ここでは割愛します。大江さんの実像の片鱗を知りたい方は、是非本書を手にとって、100頁あたりからの


大江健三郎覚え書
援軍曽野綾子
文士乱闘事件始末記


の各章をお読み下さい。事件の発端になるのが筒井康隆全集の解説なのですが、実際に起こった事件の方が筒井ワールドのような面白い話です。

■その大江健三郎さんも含めて、日本が戦中から戦後にかけて、熱に浮かされたように「憧れの国」をころころと変えて彷徨(さまよ)った歴史が活写されているのが本書です。


13頁 われわれの若い頃、マルクス・レーニン主義的内燃機関という言葉を聞かされたことがあります。機械工学の世界に、マルクス・レーニン主義的も皇国史観的もないだろうと、当時だってばかばかしく思ったものですが、『毛沢東語録』を振りまわしていると米の大増産ができるという信仰と同じで、マルクス・レーニン主義を堅持していれば、堕落した資本主義のつくったエンジンなんかよりはるかに上等なエンジンが生産できるんだという、迷信としか言いようがないものの考え方がまかり通ったのです。


マルクス主義が大流行した時の話はうんざりするくらいに糾弾されているのですが、こういう具体的な話は新しい知識を増やしてくれます。

■この本が出た頃には、経済摩擦が深刻になって反米的な雰囲気が日本に広がっていたので、それに警鐘を鳴らしている箇所が多いのですが、「反米」「親日」についての指摘は面白いと思います。


28頁 マンスフィールドとかフルブライトのような人たちを新聞流にひと言で、「親日派」と片づけるのは私は不賛成です。だいたい親日派とか親日家という言い方は、かなり荒っぽい、ワンパターンの表現でしてね、「トーマス君は日本へ着くとすぐ寿司屋へとび込んで、熱燗でいっぱいやらないと気が済まない大の親日家」というようなことを新聞は書くけれど、当のトーマス君にしてみれば、寿司は好きだが日本人は大嫌いと思っているかもしれない……不思議なことに、その反対は新聞に登場しないんです。……親日家はほほえましい存在だが、親米家というのは、子供っぽいか、そうでなければ保守反動の体制派知識人という、言わず語らずのムードが日本のジャーナリズムの上で醸成されているからですよ。


『国を思えば腹が立つ』其の弐に続く

グウルモン著『沙上の足跡』

2005-06-28 06:50:00 | 書想(その他)
『沙上の足跡』グウルモン著 堀口大学訳 第一書房刊

■この本は、私の宝物です。拙ブログを開設しました時に、「書想」というジャンルを置きましたが、最初に扱いたかったのがこの一冊でした。しかし、とても残念なことに、現在では入手不可能な本なのです。堀口大学さんの著作集の中には入っているのかも知れませんが、最近では堀口大学を読む人はほとんど居ないと思いますので、この本を読みたいと思うと大変な苦労が必要だと思います。武田鉄也さんという変わった歌い方をする歌手が『贈る言葉』というヒット曲を作りましたが、何でも堀口大学さんの一変をパクッタのだ、と白状しているのを聞いた覚えがありますが、今時、堀口大学の名前を聞く機会もめっきり減りましたなあ。とても残念なことです。

■手元に有る一冊は、大学時代に東京の神保町(古本屋街)を歩き回って数年掛かりの苦労の末にやっと見つけた本ですが、どこかの文庫で復刻して下さればなあ、と念願している一冊です。戦前の旧制高校生はこぞって読んだという話を、歴史学者の奈良本辰也さんのエッセイで読んでから、ずっと捜し続けた思い出が有ります。

■著者のルミ・ド・グールモンは、熱烈な恋愛詩で有名なフランスの詩人です。本の奥付には、こんなことが印刷されています。(以下引用文は旧字体を新字体に変えてあります)


昭和五年五月十五日初版千三百部発効
昭和十四年五月五日第二刷千五百部発効
定価一円三十銭
満洲・朝鮮・台湾・樺太等の外地定価一円四十三銭


広大だった大日本帝国の支配領域の中で、たった1500部だけ再版された内の一冊が、戦後40年経った神保町の古本屋に一冊だけ出たのです。発見した時、決して豪華な装丁でもない茶色く変色した本なのに、保存状態がとても良い上に、丁寧にパラフィン紙に包まれているのを見て、大切にされた本であることが分かりました。

■この本は、詩集ではなくアフォリズム(警句)集ですから、時々手に取って読み直す楽しみがあります。苦学生にはちょっと贅沢な価格が付いていたのでしたが、生意気な哲学書を買うつもりで持っていた有り金全部を叩いて買った記憶が有ります。こうした本との出会いというものは、その時の感動を忘れないものです。さて、前置きはこれくらいで、早速中身を紹介しましょう。フランス人が書いた本なのに、何と「チベット」から始まるのです。


序詞

西蔵(チベット)の奥に 一本の不思議な大樹があって その葉の一枚一枚には 梵字で佛教の経典が記されてあると云ふ。この寓話の作者は これによって 哲人の姿を示し且つは 一本の樹木が多数の葉を持つてゐるやうに 一人の哲人にも多くの意見があることを諷喩したものだらうと私は思ふ。

然るに 秋が来ると木は葉を落とす そしてまた春が来ると 同じやうな形をした若葉の上に新しい文字が記される。

この木の秘密を知らうと思つたら この木が枯れて死ぬ日まで 毎年おとす葉を一々拾つて読まねばならないのである。

ルミ・ド・グウルモン


■最初から、読みようによっては絶望させられるロマンティックな一撃ですが、19世紀の欧州にはチベット・ブームが起こっていたので、こうした書き方が好まれたのでしょう。青海省の西寧市郊外のタール寺はチベット名をクンブム(十万仏寺)と言いまして、そこには有名な一本の木が生えています。伝説では、その木に付いていた葉の一枚一枚に仏の像が浮き上がってその数が十万だったそうです。そんな伝説が他の話と混ぜ合わされてフランスに伝わったのかも知れませんなあ。

■以下に警句を引用しますが、原著にはもっと意義深い作品が沢山あるのに、小生のセンスの悪さで漏れることになるでしょう。全文を書き写すのが一番良いのでしょうが、そうも行きませんので悪しからず。


魚に川が見えないより より以上に 人間には世界が見えない。

文明とは基督教が呼んで不徳 軽薄 淫逸 遊楽 俗事その他浮世の些事となす処の凡てを助長する事である。

王の如く また強者の如く 神もまた追従物を持つて居るのだ。

政治の政治家にかかはるは おほよそ 天気の天文学者にかかはるが如し。

預言者に二途あり。一途は過去に従って未来を預言すること 他の一途は誤ること。

馬鹿者は決して退屈しない 彼は自分をながめて感心して居る。

人間が互いに了解し合ふことの出来るのは 絶対な真理がないからである。もしもこの世の中に絶対な真理があるならば 恋人と話し合ふには先ず微分積分学を修めた後にしなければならないであらう。

女を悪く云う男の大部分は 或る一人の女の悪口を云って居るのである。

宗教は夢中になって性欲問題を論ずる。

道徳的な或いは不道徳な忠告は それが無用な人によつてのみ聞き入れられるものである。「貞節なれ」と云う忠告は常に貞節な人のみが解する。「淫逸なれ」と云う忠告は淫逸な人のみが解するのである。言葉の価値を世間では過大視して居る。由来言葉は同音階の上にの作用するものである。

或る人の持論がその人の確信である時にのみ それは他人の気にさはる。

人が真理を追究するに際し最も恐べ可きは それが見つかる事である。

偶然が人間に知識を与えたのだ。人間はそれを利用して「馬鹿げたこと」を発明したのだ。

或る政党に属せざる政客の不幸は あらゆる政党から嫌はれること 又 自分自身では まるで狂人と盗賊の中に交つて生活しているやうな気がすることである。

革命的社会主義は、「おいこのピアノは調子が狂ってゐるから 打ち壊して薪木にしてしまつて その代わりにオルガンを造らうぢやないか。」と云つている人たちを思はせる。

平和主義者等は 一つの天秤の下に跪坐して その天秤が重力の法則とは全く関係無しに 唯彼等の希望通りに傾かんことを天に祈願してゐるお人よしである。

所有権は必要だ。然し夫れが何時も同じ手の中にある必要はない。

真の哲学者は 自分の思想が実行せられることを望まないものである。何故なら 彼は彼の思想が変形され且つ俗化されてのみ実行されることを知つてゐるからである。必要な場合には 彼は自分の 思想の実行されることに反対することさへあらう。このことは既にあつたことだ。

病人は常に楽観家である。ともすると楽観それ自身が既に 一つの病気なのかも知れぬ。

われ等の上に流れ行く 現在を 今日を 今秒をそのままに楽しむことを学べ。

一政見を判断する場合に その政見を唱導する人の 人格によりてするより外に 方法の無い場合がよくある。

民衆は騒乱を起こす事は出来る。けれども革命を起こす事は出来ないのである。革命は常に上から来るものである。

法律は個人の生理状態にまで注意する事は出来ない。されば裁判の一半の場合にあつては法律が有罪 他の一半は 法律が白痴。

富のやうに 幸福も亦寄生虫を持つてゐる。

人は家の中に住む者にあらず 人は自らの中に住む。

豚を宮殿に置け 豚は宮殿を豚小屋になさん。

自分は臓物屋の俎板の上にあるあの羊の脳味噌を思ふことを愛する。我々も頭の中に あれによく似た薄桃色の海綿をもつているのである。その海綿が考へるのである。

これ等の面白い女の手紙は 女が未だ文字を知らなかった時代のものである。

小学教師等に兵役免除の特典があつた時代には 彼等は熱心なる愛国者であつた。然るに彼等が一度この特典を失ふや たちまちにして彼等は 非愛国者になつてしまつた。これ程人間らしい事がほかにあるであらうか?如何に正直な鍛冶屋だとても 自分を縛る為に用ふると知つて 鎖をいい気で打ちはしません。


■これが106番目の警句です。大学生時代、「平和学」という新しい学問が流行する兆しが有りました。ちょっと高い本や雑誌を何冊も買い集めて、哲学書と併せ読んだものです。しかし、それに関連した卒業論文を書いていた時期に、この本を手に入れてしまいました。そして、この第106番目の警句まで読み進んで、数日間呆然として過ごしたものです。気を取り直して書き上げた卒業論文は、この警句の響きを抱え込んだ物になり、お読み下さった大学の先生方には何故か好評でありましたなあ。

■300頁の内、71頁分からの抜き書きです。もっとお読みになりたいという声が有りましたら、続編を書きましょう。誠に恐ろしいものは、卓越した詩人の発する「言葉」でございますよ。


チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

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