旅限無(りょげむ)

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良いお役人 其の弐

2006-03-29 12:25:09 | 政治
■能天気な文章の引用が続きます。

ところが、日本には歴史的に世界から高く評価される生活文化や伝統技術がありながら、それを現代の魅力に生かし切れずにいる。日本らしさは、まず自然観に表れる。日本には、四季の恵みを享受し、自然との共存と調和の中で美と感性を培う伝統がある。たとえば日本庭園では、自然の美と人工の粋を見事に融和させ、借景という魅力を生み出している。……

■中学生の教科書から抜き出した短文をツギハギしたような訳の分からない寝言が並んでいますなあ。「四季の恵み」とは何でしょう?今年は豪雪で大変な災難でしたが、「冬の恵み」も享受しなければなりませんぞ。黒塗りの車も茶を飲むオフィスも上着不要の暖房完備でなければ不機嫌になるエライ役人が、こんな空々しい事を書いては行けません。「美と感性を培う」というのも意味が分からない文ですが、「借景」の能書きを垂れるのなら、東京都内に点在する木々の向こうにビルが屹立する見事な「借景」の公園施設を何とかしろ!偶然ですが、『週刊新潮』3月30日号のモノクロ・グラビア記事は「これが醜い日本の風景」という特集でしたぞ。

■東京都国立市の富士見通りは、「電線電柱が空を覆う」し、東京都渋谷区の『春の小川』の舞台となった渋谷川は無機質で汚い「排水路」、同じ渋谷区の低層ビルの屋上は空調機器の室外機が墓石のように並び、東京日本橋は首都高で空が見えません。神奈川県藤沢市の丘陵地帯は里山を削って坂道だらけの住宅地になり、静岡県の海岸には朽ち果てた波消しテトラポットが半分砂浜に埋没したまま、埼玉県所沢市には違法投棄された産廃が山を成し、千葉県佐倉市の高速道路のインター周辺はラブホテルの看板が林立、栃木県宇都宮市の駅前は金貸しの看板が毒々しく目を射て、その裏側にはシャッター商店街。これらは、「美しい景観を創る会」が選んだ70の醜い風景からの抜粋だそうです。


この会のホームページ(http://www.utsukushii-keikann.net/)によれば、これらは伊藤滋・早大匿名教授(都市計画)や照明デザイナーの石井幹子氏、中村良夫・東工大名誉教授(土木工学・風景学)など12人の同会メンバーが、折に触れて目にした風景70をとりまとめ、世論喚起のために公表しているもの。……目を凝らせば全国いたるところゴロゴロと転がっているのだ。

■フランスのパリを散歩すると、あちこちで街の風景画を描いている画家の卵に出会いますが、東京都内でそんな人を見た事は有りません。既にこうした醜い日本風景は、能天気なお役人が称揚する「日本の伝統」になっているのです。毎日毎日、こうした風景を眺めながら、もう半世紀近くも日本人は暮らしているのですから、そこから湧き出す「美と感性」は、薄暗いホラー小説やグロテスクな漫画ぐらいにしか役立たないのではないでしょうか?

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