旅限無(りょげむ)

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ロシアの陰の日本 其の参

2006-03-16 10:34:12 | 外交・情勢(アジア)
■狐と狸の化かし合いですから、目鯨立ててムキになる必要は有りませんが、油断しては行けません。1960年代には、本気で原爆戦争をやりかけた間柄なのですから、凄まじい腹の探り合いが続いているに違い有りません。綺麗なオネエちゃん工作員に追い込まれるようなマヌケな国ではなく、謀略戦の代表みたいな2つの国が握手している裏側で、どんなエゲツない事をやっているやら、呑気な日本人には想像も出来ません。昨年の秋に爆発事故を起こした中国の化学工場から流れ出した有毒物質が、今も結氷しているアムール川に貯まっているとの話が有るのは象徴的です。やっと国境線を画定したとは言っても、互いの不信感は簡単には消えません。川の氷が溶けると膨大な量の有害物質が流れ出すように、ちょっとした切っ掛けで緊張状態になる危険性を孕んでいる両国ですから、日本も上手に楔(くさび)を打ち込んでおかねばなりませんぞ。

一方、北京発のインタファクス通信によると、中国の消息筋が先月、「日中間の歴史論争でロシア側が中国の『正しい歴史認識』への支持を公式に表明するよう望んでいる」と述べ、中国政府がロシアに対し、反日の立場からの同調を求めたことを明らかにした。同筋はさらに、「ロシアは20世紀半ばに中国などアジア侵略をした日本の歴史歪曲(わいきよく)問題に対する立場をまだ公表していないが、ロシアの(中国への)支持は、この問題の解決に大きな影響を及ぼすだろう」と強調した。中国側はロシアのメディアを在露中国大使館のパーティーに招き、中国製反日映画を公開。いかに第二次大戦で中国が残虐な軍国日本と戦い、勝利したかを宣伝しているという。

■最近、中国のテレビではセピア色に変色しかけている日ソ蜜月時代の古めかしいプロパガンダ映画を放映したり、VCDにして売り出したりしているのですが、60年代には「ソ連は悪魔だ!」の宣伝に熱心でした。ころころ変わる「歴史認識」に正しいも間違っているも有ったものではありません。そんなヨタ話に振り回される日本の政治家や財界人を、現地では腹を抱えて笑っているのではないでしょうか?


一方、ロシア側は日本の領土問題などをめぐる「反露的な発言」に反発を強めており、「中露が今後、歴史問題での連携を外交カードに使おうとする可能性はある」(外交筋)。また、10日のインタファクス通信によると、1945年のヤルタ会談に出席したスターリン、ルーズベルト、チャーチルの米英ソ三首脳の銅像が、サハリン州のユジノサハリンスクに設置される見通し。日本への北方領土返還に反対する州議員らの提案を受けたもの。同時に、北方領土占有はヤルタ合意に基づく正当なものだ、とするロシア政府の主張にも沿う。ロシアの世界経済国際関係研究所のチュフリン副所長は「中露関係が悪化する土台はない。両国関係は順調に発展し、そのポテンシャルも高い。プーチン大統領の訪中は関係発展強化に貢献することになるだろう」と述べ、中露の蜜月関係が長期化するとの見通しを示した。産経新聞 - 3月11日

■有人ロケットを打ち上げたり、原爆を貯め込んだりしているのに、民生用の工業製品が作れない共通点を持つ2つの国が友好関係を結んでも大して脅威にはなりませんが、ヤルタ会談の密約を後生大事にしている国が日本に圧力を掛けようとするのは困ります。この問題に関しては日本は米国と相談は出来ません。東西分断を強いられたドイツだけが話し相手になるはずでしたが、あちらはEU問題と移民問題で精一杯で、とても日本と一緒にヤルタ体制を糾弾する暇は無さそうです。


日米欧露の主要8カ国(G8)のエネルギー担当相会議が15、16の2日間、モスクワで開催される。7月のサンクトペテルブルク・サミット(主要国首脳会議)の準備の閣僚会議の第2弾で、原油高やイランの核開発などエネルギー安全保障をテーマに意見交換する。会議では、世界のエネルギー市場安定化に向け、油田やガス田開発の投資促進や原子力を含めたエネルギー源の多様化を論議する。天然ガス大国のロシアは、消費国と生産国との対話促進を訴える見通しだ。日本は需要抑制につながる省エネなどエネルギー利用の効率化を提言する。

■石油会社を実質的に国有化したロシア政府は、存分にエネルギー戦略で点数を稼げますから、イランや北朝鮮とのパイプも誇示して主導権を握る算段をしていると言うわけですなあ。日本は、イランの石油も北朝鮮に対する圧力も必要ですから、プーチン大統領が打ち出す政策に乗らねばならない立場に追い込まれつつあります。東シナ海のガス田開発も、北朝鮮に対する圧力を期待して中国側の好き放題にさせておたら、あれよあれよと言う間に採掘を始められてどうにもならなくなったのですから、ロシアの言いなりになっていると、北の方でもエライことになってしまう可能性が有りますなあ。


エネルギー問題がサミットの主要テーマになるのは石油危機直後の80年のベネチア・サミット以来で、主要国のエネルギー担当相会議が開かれるのは98年のモスクワ、02年の米デトロイト会議に次いで3回目。ボドマン米エネルギー長官などが出席、日本からは西野陽・副経済産業相が出席する。毎日新聞 2006年3月15日

■準備会議とは言っても、副大臣クラスの出席でお茶を濁していて良いのでしょうか?北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議もいつ再開されるか分からないし、米国は勝手に偽札や偽タバコに激怒して北朝鮮を絞め上げに掛かっていますから、日本はおろおろして時間ばかりが過ぎて行きます。虻蜂取らずの貧乏籤を引かされるのを待っているだけのように見えて仕方が有りませんなあ。国会の会期中だというのに、エネルギー戦略や外交方針に関する議論が盛り上がらず、野党第1党の存続などというどうでも良い内向きの話題ばかりが目立つようでは、中国とロシアにしてやられるのが目に見えていますなあ。

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ロシアの陰の日本 其の弐

2006-03-16 10:32:35 | 外交・情勢(アジア)
■ロシアには歴史的な負の遺産が沢山残っているのですが、知らぬ存ぜぬで通す無神経さが勝っているようです。小さな声で北方領土問題を指摘しても、まったく聞く耳など持ってくれません。全面的に信用出来ない隣国ではありますが、もう少し上手に付き合う術を日本は早く身に付けなければなりません。

旧ソ連構成国のグルジアで、ソ連に占領されてきたグルジア近代史を伝えるための「占領史展」が今春、国立博物館内にオープンする。グルジアからは旧ソ連を継承したロシアに対し、損害賠償を求める動きもある。プーチン・ロシア政権がかつてのソ連邦諸国に対する姿勢を強めるほど、ソ連・ロシアの歴史認識をめぐる問題がさらにクローズアップされそうだ。ロシアの日刊紙ガゼータによると、占領史展の構想は、グルジアのサーカシビリ大統領が、同国にソビエト政権が樹立された1921年に赤軍と戦って死んだ同国の若い士官らを追悼した記念碑を訪れた際に明らかにした。

■このニュースは余り日本では大きく扱われませんでしたが、今のロシアを考える時には重大な意味を持っていますぞ。

 
大統領は「若い世代は英雄的に死んでいった士官たちを例に、いかに祖国を愛し、敵と戦うか学んでいる」と強調。こうした「グルジアの英雄の存在を知り、深く学ぶため」、国立博物館内に「グルジアにおける占領史」展を創設すると語った。同展示では、グルジアでメンシェビキが独立を宣言した1918年から91年のソ連崩壊までを取り上げ、当時の写真や新聞の切り抜き、祖国防衛に当たった兵士たちの所持品などが展示される。ラトビアやエストニアでも「ソ連による占領時代の数々の悪夢」を展示した「ソ連化の歴史」博物館が開館している。また、ロシアの日刊紙ブレーミャ・ノボスチェイによると、グルジア議会では、同国からの分離・独立に動く南オセチア自治州とアブハジア自治共和国との紛争が続くのは、同紛争に介入するロシアに責任があるとしてロシア当局を相手取り、損害賠償請求を訴える動きが出ている。請求額は少なくとも150億ドル(約一兆八千億円)だ。産経新聞 - 3月11日

■クレムリンの巨大な会議場で拍手喝采の大会を開いていたソ連時代、各地の代表者が笑顔で大仰な拍手をしている姿を撮影したフィルムが山ほど残っていますが、心の奥にはこうした怨念が渦巻いていたという事です。但し、ウラル山脈の東側には元々国などなかったので、こうした怨念を抱く人達は居ません。中央アジアにはスターリンの「民族政策」によって強引に移住させられた人達の子孫が暮らしていたり、探検や毛皮取り引きで一山当てようとやって来た人達の子孫も暮らしているでしょうし、その後は僻地(へきち)手当てに魅力を感じて移住して来た人達の子孫が一番多いようですなあ。ロシア帝国と清朝とが接触したのは17世紀の1689年の「ネチンスク条約」締結で、300年かけて今の領土を画定しているわけですが、1858年の「アイグン条約」以来のアムール川に沿った国境線が画定したのは今年の事です。


ロシアのプーチン大統領は今月21、22の両日、中国を公式訪問するが、今回は両国間の戦略的友好関係の強化が目的で、パイプライン建設などエネルギーを中心とした経済協力やイランの核開発といった国際問題での協調が焦点となる。ただ、中国側はロシアに対し、対日歴史問題でも同調するよう働きかけており、今回のプーチン訪中に合わせ、対日外交で中露両国が連携を探る動きが出る可能性も指摘されている。

■先の記事のように、ソ連が崩壊したらあちこちから歴史的怨念が噴き出しているというのに、北京政府はグルジアやバルト三国にとっては被告になっているロシアと一緒になって、日本に「正しい歴史認識」を迫ろうと言うのですから、何が何だか分かりません。時が至れば旧満洲、内モンゴル・ウイグル・チベットには、続々と「歴史博物館」が新設されるに違い無いのですが、日本包囲網を広げるためには何でもする心算なのでしょうなあ。ロシア側でもイランの核開発をダシにして国際政治のスポットライトを浴びようとしている一方で、シベリアのパイプラインをダシにして日本をオチョクッております。


イタル・タス通信によると、プーチン大統領は「中国におけるロシア年」の開幕に参列するほか、胡錦濤国家主席と首脳会談を行い、二国間関係、国際情勢で中露の結束を強化する予定。両首脳は両国経済界代表のフォーラムにも参加する。訪問では、日中両国が競合する太平洋石油パイプライン建設で、中国への支線建設について合意をめざすほか、天然ガスパイプライン敷設でも調印を予定しているとされ、「エネルギー問題が中心となる」(駐ロシア中国大使)見通しだ。

ロシアの陰の日本 其の壱

2006-03-16 10:31:49 | 外交・情勢(アジア)
■ムネオ議員が失脚してから、対ロシア外交はすっかり話題にならなくなってしまいましたが、国際的な重要懸案事項には、常にロシアが顔を出して存在感を示しているのですから、隣国の日本が蚊帳の外で他人事のように眺めているというのは芸の無い話です。■

14日付のロシア紙ブレーミャ・ノボスチェイによると、極東のサハリン(樺太)で住民の大陸部への大量移住が続き、人口は1991年のソ連解体時の80万人から15年間で53万8000人まで激減した。近く70の居住区が廃村として行政処理される。死者2000人を出した95年の北部の地震後、1度に4万人が脱出するなど人口減が「破局的な速度」で進んでいるという。戦後サハリンへの定住を奨励した旧ソ連は、50年代末に特権を廃止し、多くの島民が脱出したが、同紙は「第2の離島の波」(同紙)が押し寄せているとしている。

■樺太の南半分は日ソの「懸案事項」だったはずなのに、すっかり「サハリン」は一体化していると日本の新聞も納得しているようですなあ。東へ東へと「移住」し続けたロシア人の後、レーニンやスターリンが色々と特権やら特別給与を与えてソ連の国民を追い立てて人口を維持していたのですが、元々、ロシア人達はそんな所に棲みたくはないんです。皆、モスクワに住みたい!と思っているのです。でも、領土は1センチでも広げて置きたい病的な執念が世界一の土地を保有させています。


一方、サハリン州が管轄する北方領土は人口増が進み、択捉(えとろふ)、国後(くなしり)、色丹(しこたん)3島で計1万8000人に近づいている。14日に国後島を訪れたイスハコフ極東管区大統領全権代表は「(4島では)島民の意識が変わり、出生率も増加し、否定的要因による流出のテンポが低下した」と述べた。 時事通信 - 3月15日

■サハリンでは環境破壊など物ともしない乱暴な天然ガス田の開発も進んで、今更、日本が領土問題を騒ぐ気配も無いのですから、更に南の北方領土に人口が移動してくれれば、プーチンさんにとっても喜ばしい事でしょうなあ。数ヶ月前には、新しいロシア正教の教会堂が新築された!とのニュース映像が流れましたが、日本側から良く見える場所にぽつんと建っている教会堂は、絶対に領土は減らさないぞ!のメッセージだろうと思っていたら、案の定、もっと分かり易いモニュメントが建ったのでした。


インタファクス通信は10日、1945年2月のヤルタ会談で第二次世界大戦の戦後処理を協議したスターリンら米英ソ3首脳の銅像が、北方領土を管轄するサハリン州の州都ユジノサハリンスクに設置されると報じた。州議会が要請し、モスクワの銅像製作者が承諾した。ヤルタ会談はソ連の対日参戦の条件として千島列島とサハリン(樺太)南部をソ連に引き渡すことで合意。プーチン大統領も2月の会見で、北方領土問題をめぐりヤルタ・ポツダム体制の堅持を強調しており、銅像建立はロシアの北方領土領有を正当化する狙いがある。時事通信) - 3月11日

■「東京裁判」の違法性はヤルタ会談から発しているようなものですから、本当はヤルタ会談の問題を忘れずにしつこく騒ぐ世論が必要なのですが、日本は世代が進むに従ってこの国際「謀議」をすっかり忘れてしまったようです。戦後教育の成果でしょうなあ。その一方で、「南京虐殺」だの「従軍慰安婦」だのは熱心に覚えなければならない現代史は、やはり歪(いびつ)ですなあ。ソ連のあちこちに立っていたスターリン像はフルシチョフのクーデターによって一斉に撤去されて、ボルゴグラード(旧スターリングラード)にしか残っていないと言われていたのですが、苦しい時のスターリン頼みは靖国神社以上のメッセージを持っていますぞ。しかし、スターリンは領土をぐいっと広げた反面、人口はごっそり減らした人でしたから、人口が減り続けている樺太に銅像を建てても効き目は無いでしょうなあ。


人口減少が社会問題化しているロシアで、昨年1年間で人口が約73万5000人減り、減少幅が2004年の約69万4000人より拡大したことが、連邦国家統計局の23日までのまとめで分かった。少子化に加え、自殺や交通事故、アルコール中毒による死亡が減少に拍車を掛けている。統計局によると、今年1月1日現在のロシアの人口は約1億4270万人。05年1月1日時点に比べ約0・51%減った。政府は、このまま放置すれば50年までに人口が約1億人に急減すると予測、プーチン大統領も対策を指示しているが、医療水準の低さなどが背景にあり、対策は容易ではなさそうだ。共同通信 - 2月23日

■医療費が増え過ぎて困っている日本とは事情が随分違うようですが、日本も毎年3万人も自ら命を絶つ「自殺大国」である点は同類相憐れむ仲とも言えそうです。交通事故とアルコール中毒とを結び付ける視点が日本には欠けているのが心配ですが、ロシアは強いウォッカという分かり易い酒が有るので、ウォッカの壜(びん)を手放せないロシアのアル中は凄まじい姿をしているので、そのまま交通事故や自殺に結び付けるのは簡単なのでしょうなあ。日本でも「飲酒の習慣」の有る人の自殺率が高いという統計数字も発表されましたが、「アルコール中毒」という言葉は刺激が強過ぎてマスコミも使い難いようです。「飲んだら乗るな!」と言われても、「分かっちゃいるけど、止められない」と植木等さんの歌みたいな事を言って飲酒運転してしまう人の多くは、立派なアル中である可能性が高いはずなのですが、御神酒(おみき)や御屠蘇(おとそ)の文化は酒を憎めないのでしょうなあ。