土曜日は古寺を歩こう。

寺勢華やかな大寺も、健気に法灯を守り続ける山寺もいにしえ人の執念と心の響きが時空を越え伝わる。その鼓動を見つけに…。

[ 雑感 ] 古都の風情とは

2007年01月26日 | 花巡り
天平仏教文化の華々しい開花と聖武天皇の国家鎮護の願いを秘めた宝物展、正倉院展や興福寺のお堂や塔の特別開扉の雑踏からは、秋の気配を感じることは不可能に近い。しかもこの暖かさで錦織なす秋の古都といっても今年(注 : 平成18年)の秋は特に遅い。まだまだ木々は緑のシーズン真っ只中、11月の始めというのにまさに小春日和、行き交う人々の雑踏の中、細身の僕でもジットリ来る。「古都の秋を感じにここに来たのになによ」「なんでこんなに暑いのよ」「ガイド文が人の頭ばかりで読めないじゃないの」「何でお寺で押しくら饅頭」「京阪電車の朝のラッシュでも、もう少しましよ。」と八つ当たり、少々ふてくされている我が女房。「それって電車と比較するのはチョット無理があるやろ、11月に暑いってそれ変と違うか、自然に八つ当たりしてもなァ」となだめてみても、もう一つ説得性に欠ける。

そうこうして昼食をすませ、「よし、いまから本当の奈良へ行こう。」ということで平城京の東北の隅、法華寺と海龍王寺を訪ねた。両寺とも僕も初めての訪問。周辺は住宅街、それ以外緑の彩りは奈良公園と変わらないが、幸いというべきか今のシーズンほとんどのお寺で寺宝の特別展などで秘仏公開がされ、法華寺では著名な十一面観音立像に拝することが出来た。光明皇后の姿を写したといわれる由緒伝承に飾られたこのお像は、こぢんまりとした本堂須弥壇のお厨子の中にいらっしゃる。像高1mと小柄だが、このお像は白木のままの檀像でお顔と宝髻のみに彩色、見事としかいいようのない観音様だ。これには女房もいたく感激の様子、一応ヨカッタ。法華寺は門跡尼寺ということで何故か時間がゆったりと過ぎているような、落ち着いたというべきか周辺の環境に埋もれながらも古の顔を今にシットリ残している、奈良公園のあの雑踏はここにはない。

海龍王寺は法華寺のお隣でバス道からいきなり寺門へ、境内への道のりがなんともいい感じでまさに古刹の雰囲気。天平の息吹を今に伝える西金堂には国宝の高さ4mの五重小塔が鎮座していてそれ以外荘厳するものは何もない。本堂では若い僧侶が一心に何か書き物をしている、後ろ姿から真言律宗戒律の道場としての一端を視た思いがした。奈良公園から3キロ少々、古都の風情がこんなに違うとは。

[ 雑感 ] 雅な赤、永観堂のもみじ

2007年01月09日 | 花巡り
京の秋を満喫した。そして人いきれにも。11月24日、出町から東へ銀閣寺、哲学の道を南に永観堂から南禅寺へと赤く染まる有名処を訪ねた。修学旅行生でゴッタがえしていた銀閣寺は早々に辞し、一路思索?をかねて哲学の道を歩く。女房曰く「桜の時は抜群、緑の時は最高、だけど紅葉の今はもっとイイ。今度、雪の道を歩きたい」「一体いつがええねん」と僕、何度か来ているらしく要するにいつ来ても良いところと言いたいらしいが、幾多郎さんの思索精神を偲んだ上での発言かどうかは疑わしい。僕は全く初めて歩くのだが、あの疎水沿いの細い道を対面通行で石畳や地面が見えないほど人々の群れ、我が名機キャノンイオスも絶好の場面を撮るチャンスがない。時に英語、中国語、韓国語が聞こえ、さすが国際都市KYOTOであることを実感。が、「思索」という言葉からはほど遠い印象を持ったのは僕だけだろうか。そうこうして永観堂に着いた。

ビックリした、驚いた、驚嘆した、「紅葉の美」がこれ程のものとは…。高雄や東福寺の紅葉も凄いがここ永観堂も凄い。人の群れも凄い。最高のチャンスに巡り会うことができ一瞬ラッキー!も束の間、お堂の中や仏間も全て人いきれ、寺宝の拝観どころではない。阿弥陀如来像(みかえり阿弥陀)もゆっくりお顔を拝することもできない。もっとも振り返っておられるので正面からは見えるはずはないのだが。有名な阿弥陀如来の「永観、おそし」と振り返って声をかけられた伝承も今はあまりに参拝者の多さに阿弥陀如来が「イヤイヤ」をされているようにしか見えない。されど「もみじ」だけは平安の雅を感じることが出来た。都の一角、白壁に映える紅葉、境内の池に映る紅葉、堂宇に懸かる紅葉、平安貴族の優雅な生活の一端がこの真っ赤な紅葉を透かして見え隠れするようだ。

日本には古から色の表現に素晴らしい感性がある。緋色、紅色、紅、朱色、深紅、臙脂、唐紅、茜色、紅蓮、丹色、これらはいわゆる赤を表現しているが、永観堂の紅葉には豊かなありとあらゆる赤がちりばめられている。陽に透ける赤、重なり合う赤、水に映る赤、散り染めた赤、素晴らしい赤に堪能した永観堂だった。女房曰く「美味しい赤はもう堪能、次は美味しい白はどぉ」ということで南禅寺境内の湯豆腐屋さんで遅い昼食をこれまた満喫。紅白のめでたい一日でした。