土曜日は古寺を歩こう。

寺勢華やかな大寺も、健気に法灯を守り続ける山寺もいにしえ人の執念と心の響きが時空を越え伝わる。その鼓動を見つけに…。

[ 雑感 ] 鑑真さん苦難の結晶 唐招提寺

2008年06月16日 | 奈良の古寺巡り
●唐招提寺仏像修理所特別公開へ行く。
仏像修理所が5月31日から6月8日まで一般公開されるということで5日に唐招提寺を訪ねた。
この日はシトシトじめじめ真に梅雨空そのもの。思いようによっては古都に雨はよく似合うと自分に言い聞かせて西の京駅からお寺を目指した。午前中早い時間にも関わらず結構な人出、皆さんお好きなようですね。
境内の西端、戒壇の南に仏像修理所が建てられています。金堂解体大修理のためにご本尊を始め九体の尊像も併せて解体修理されています。簡素な仏像修理所の中で金堂の主役国宝三尊の廬舎那仏坐像、薬師如来立像、千手観音立像が修理中の状況をボクたちに見せてくれています。見学者にとってはかなり親切な展示なので行程がよく理解でき、量感や存在感は勿論のこと台座や光背、千手観音立像の大脇手32本、小脇手911本は取り外されているにもかかわらず尊影は決して損なわれているようには見えません。色彩や漆箔の剥落止めが合成樹脂処理され、スッキリと天平の男前に戻られています。後は金堂修理完了後堂内で最後の組立を行うということです。堂内内陣須弥壇上で整然と坐し、佇立している本来の姿を想像しながら仏像修理所を後に御影堂へ。

●鑑真さんに会いに御影堂へ。
門跡寺院の宸殿(興福寺旧一乗院の御殿)を移築した御影堂で鑑真さんの御影と東山魁夷さん渾身揮毫の襖絵が公開されています。御影堂は旧宸殿ということで格調の高さは当然のことながら白砂を敷詰められたお庭には、左近の桜、右近の橘が平安御所のイメージを醸しています。周辺を欄干廊下が取りまきお庭に面して多くの見学者の皆さんが座し、そぼ降る雨に濡れるお庭をそれぞれの思いに耽って悠久の流れの中へ身を置いているようなそんな一刻の和みが感じられてボクも仲間にと思いましたが残念ながら座るスペースが在りませんでした。
鑑真さんの尊像は御影堂中央奥にお厨子の中で瞑目し正面結跏趺坐しています。なにぶん82cmの座高でお厨子の中ということと拝観距離がやや離れているためにハッキリとその像形を認めにくいですが、暫く対峙していると辛苦の渡海で戒律のなんぞやを我が国にもたらした高僧の崇高な精神は今なお1245年間という時間空間の波動の合間を縫って連綿と続き、鑑真イズムとして奈良仏教の礎を構築したその魂の精神性の高さがボクなど凡人にも何となく伝わってくる気がします。
雨の中、境内東北に在る鑑真和上御廟を訪ねました。前庭のグリーンベルベットを敷きつめたような苔の緑が、雨滴を含んで御廟を荘厳している様は、雨天の中でも気持ちは清しさいっぱい、それこそ古都には雨がよく似合うという実感そのものでした。

●金堂大修理の覆屋がはずされました。
平成10年6月以来、唐招提寺金堂解体大修理のために金堂をすっぽり覆っていた素屋根覆屋が解体され、天平の甍とその鴟尾、金堂前面吹き放しの8本の列柱が往時の優雅な姿を現しました。まだまだ工事現場という印象は拭いきれませんが、南大門からの正面にあの優雅な大屋根が古代のリズムを甦らせるようにその独特の曲線の描きを参詣者の目に入れてくれます。
平成17年に組立が始まり、修理工程の進捗状況をアルミ覆屋の見学通路越しに幾度となく見せてもらいましたが、当初は更地同然から徐々に組み立てられていく工程をこの目にし、メディア各社も色々の角度から伝えていたが、調査段階からかなりの難航、試行錯誤の状況があったと聞き、さもありなんの思いを強くすると同時に、伝統技術の緻密さ確かさと現代テクノロジーとの融合が、この大プロジェクトの凄さを10年という時を経て、まるで鑑真さんの執念が10年という凝縮期間に込められているように思え、後1年少々でその全貌が、天平の美と薫りがともに戻ってくる何とも待ち遠しい1年になりそうですね。