本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

世界と私のAtоZ

2024-01-07 06:41:14 | Weblog
■本
1 一神教と帝国/内田 樹、中田 考、山本 直輝
2 世界と私のAtоZ/竹田 ダニエル

1 内田樹さんとイスラーム法学者の中田考さん、そして、そのお弟子さんでトルコで日本文学を教えてらっしゃる山本直輝さんが、主にトルコを中心としたイスラーム圏の人々の考え方について語られた本です。イスラエル軍のガザ地区進行に終わりが見えない中、中東について学びたくて読みました。修行により技術や知識を高めていく主人公が多く登場する日本の漫画やアニメが、ムスリムに大人気であるという事実を知らなかったので参考になりました。そこから、日本や東アジア文化に共感する国々を増やして、西洋とは異なる価値観で、日本のプレゼンスを上げて行こうという議論に発展していきます。トルコのエルドアン大統領が、きちんとしたイスラーム教育を受けており、良くも悪くも信念を持って政治を行っているということもよくわかりました。一方で、日本の政治家に、今後の世界に対するビジョンがあるのかを考えると暗い気持ちになります。欧米的価値観に真っ向から反抗している中田さんのご意見には賛同できない部分も多いですが、世界の1/4程度を占め、増加傾向にあるムスリムが、どのような行動原理を持っているのかを知ることは、今後ますます重要になると感じましたし、アメリカのイスラエル支援の姿勢を見ていると、無批判にアメリカに追従しているだけでは、日本の世界からの評価も下がる一方だと危機感を持ちました。

2 いわゆるZ世代を分析した本ですが、広告代理店などが提示するマーケティング視点とは異なる立場から、主にアメリカのこの世代の価値観について掘り下げられていて、とても気付きの多い読書体験でした。また、筆者の専門分野である音楽シーンと絡めて、この世代の特徴について描かれている点も、読み物として興味深かったです。ビリー・アイリッシュまではなんとかついていけていましたが、オリビア・ロドリゴがなぜここまでの人気を獲得したのかがよくわかり勉強になりました。若くして地球温暖化やパンデミックを経験したこの世代は、なんとか逃げ切れると甘い考えを持つ年長の世代とは異なる解像度で、自身も含めた世界の持続可能性について考えている点が、特徴的であると私は理解しました。そのため、環境問題やメンタルヘルスを重要視しているという指摘は納得感が高かったです。流動化する世界と、スマホやソーシャルメディアの普及で、生まれたときからさまざまな国籍や人種の人々と接する機会が増え、多様な価値観やスタイルに常に触れている(また、それらを軽視したことにより炎上リスクにもさらされている)ことの影響も大きいと感じました。持続可能な社会について真剣に考える層が存在する一方で、インフルエンサーや巧みなマーケティングの影響を受けて、ファストファッションを大量に消費して自己表現する層も存在するという、この世代の課題について触れられている点もバランスが取れていて信頼できます。我々上の世代は、この本の最後に書かれているように「Z世代に代弁をさせる社会ではなく、過去の自分にあげられなかった社会をつくりたい」と考え、行動する姿勢が必要なのだと思いました。


■映画 
1 トップガン マーヴェリック/監督 ジョセフ・コシンスキー
2 屋根裏のラジャー/監督 百瀬 義行
3 音響ハウス Melody-Go-Round/監督  相原 裕美

1 大ヒットした作品ということで観ました。さほど期待していなかったのですが、素直に面白かったです。ベタで予定調和な作風でも、ここまで徹底的にクオリティ高く創り込めば、高い満足度が得られるということを証明しています。挫折や努力を経ての爽快な達成感、葛藤を克服した友情、恋愛、(疑似的な)親子愛、スピード感溢れる迫力ある映像、組織に逆らってまで貫かれる信念、多様性があり好感度も高い俳優陣、などなど、観客の観たいものを、ふんだんに提供してくれています。主演のトム・クルーズも今回は教育者として脇に回るのかと思わせておいて、終盤にど真ん中の現役感を発揮していて、押しつけがましくならないギリギリのエゴの出し方が秀逸です。ままならぬ世の中で、ここまで理想的な世界を見せつけてくれると、かえって幸せな気持ちになりますね。こういう作品ばかりでもよくないとは思いますが、優れたエンターテインメント作品であることは間違いないです。

2 「SPY×FAMILY 」の映画版と迷ったのですが、内容が予想できないこちらを劇場で観ました。少女の空想全開の序盤は少し後悔しましたが、中盤以降の「イマジナリーフレンド」同士の交流や、それらと人間との関係性の描き方が巧みで、引き込まれました。少しダークでホラー要素もある「トイ・ストーリー」といった趣で、イノセントの喪失とそれでも失わずに残るものが、独特の視点で描かれています。ジブリ作品にも通じる、無垢なものの中にある残酷さ、恐ろしさが描かれていて、深みがある作品になっています。もっと評価されてもよいと思うのですが、観客動員(劇場はガラガラでした)も評判も今ひとつな状況なのが残念です。私は観る動機となりましたが、「内容が予想できない」点や「イマジナリーフレンド」という概念が少しわかりにくいのと、子ども向け作品と認識されているのが不振の原因かもしれません。映画のマーケティングの重要性についても考えさせられました。

3 昨年は高橋幸宏さんや坂本龍一さんといった偉大なアーティストが多数鬼籍に入られとても残念でしたが、お二人も出演されているので、在りし日を偲びながら観ました。恥ずかしながら私は知らなかったのですが、アーティストからの評価の高い老舗スタジオ(音響ハウス)を舞台に、本作の主題歌を制作する過程が描かれた、ドキュメンタリー映画です。アーティストだけでなく、スタジオの施設・機材を管理する人や、エンジニアなど裏方の人々も描かれていて興味深いです。楽器やヴォーカルの録音、アレンジ、ミックスダウンといった各種音楽制作工程についても学ぶこともできて、今後音楽鑑賞をする上での新たな視点も得られました。各アーティストがスタジオに纏わるエピソードを話す場面からは、音楽と広告との関わりを知ることができました(テレビCMにもっと予算がかけられていた時代には、これらのアーティストに仕事を与え、育成する役割も果たしていたように思われます)。スタジオも含むビジネスとしての音楽産業を考える上で示唆に富んだ作品だと思います。もちろん、この映画で制作された主題歌も最高です。
コメント
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