本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える

2021-09-25 07:10:25 | Weblog
■本
76 悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える/仲正 昌樹
77 むかしむかしあるところに、死体がありました。/青柳 碧人

76 タイトル通り、ハンナ・アーレントの、「全体主義の起源」や「エルサレムのアイヒマン」などの書籍を解説しつつ、「悪と全体主義」について考える本です。「全体主義」を一部のエリートが主導して政治を動かす「独裁体制」とは異なり、「大衆自身が、個人主義的な世界の中で生きていくことに疲れや不安を感じ、積極的に共同体と一体化していきたいと望んだ」ものとアーレントが捉えている点が、私のこれまでの認識と(大衆自身が積極的に望んで生まれた体制であるという意味で)異なっていたので、多くの気づきが得られました。「大衆自身が積極的に望んで生まれた」という意味では、日本の日露戦争勝利から第二次世界大戦の敗戦に至るまでの過程も「全体主義」と言ってもよいと思いました。ナチス時代のドイツに対する考察、反省がアーレントの著作など世界レベルで進められているのに対し、日本の「全体主義」時代の大衆レベルでの責任に対する考察、反省があまり進んでいないように思える点が不安にもなりました。複雑化する一方の世界で、「個人主義的な世界の中で生きていくことに疲れや不安を感じ」る人が増えているのは、先日読んだ橘玲さんの「無理ゲー社会」でも指摘されていたので、「全体主義」に対する考察や、個人と共同体との関わりについて、より深く考えることが求められているのだと思います。筆者の仲正さんが、後半にアーレント自身やアーレントを単純に英雄視する人々に対する批判的な意見も展開されていて、深く複合的な視点でものごとを考える方法を学ぶという意味でも参考になります。この本では「複数性」という言葉が用いられていますが、自分と異なる視点を持っている人の考え方や立場も理解するために必要な、ブレイディみかこさんがおっしゃっている「エンパシー」が、今後ますます求められるのだと感じました。

77 昨年の本屋大賞にノミネートされたときから、昔ばなしとミステリーとの組み合わせがユニークだと思い興味を持っていたので、文庫化に伴い読んでみました。正直、期待ほどは面白いとは思いませんでしたが、それは私がミステリー小説の熱心なファンではないからだと思います。昔ばなしにありがちな、めでたしめでたし感や心温まる教訓(人間の欲深さや残忍さ、愚かさを思い知らされるタイプの教訓は得られますが・・・)がほとんど得られない点も、読み手を選ぶ原因だと思います。とはいえ、誰もがよく知る昔ばなしを題材にコミュニケーションコストを下げつつ、ミステリー作家としてのプロットづくりの巧さを遺憾なく発揮した、企みのユニークさは評価すべきだと思います。


■CD
4 Buckingham Nicks/Buckingham Nicks

 スティーヴィー・ニックスの声を聴くとなぜかリラックスできるので、コロナ禍の在宅勤務で、仕事中によくフリードウッド・マックの作品を聴いています。この作品はサブスクの音楽サービスに入ってないのですが、ずっと聴きたいと思っていました。フリードウッド・マックやスティーヴィー・ニックスのソロ作品にも少し飽きてきたので、久しぶりにCDを買いました。フリードウッド・マック加入前のリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスのデュオ時代の作品ですが、名作「噂」に入っていてもおかしくない楽曲満載です。二人の若々しい声と野心的な演奏がとても素敵です。当時無名のこのふたりを抜擢した、ミック・フリートウッドの意外な凄さを感じます。


■映画
71 カラミティ・ジェーン/監督 デイヴィッド・バトラー
72 アンダー・ザ・シルバーレイク/監督 デヴィッド・ロバート・ミッチェル
73 ジゴロ・イン・ニューヨーク/監督 ジョン・タトゥーロ

71 女性ガンマンを主役にしたコメディタッチのミュージカル西部劇です。どういう経緯かは覚えていないのですが、大学生の頃に黒柳徹子さん主演の舞台を観ていたので、タイトルに耳馴染みがありました。今となっては、白人男性目線の内容が鼻につきますが(アメリカ先住民の描き方はあまりにも差別的ですし、男勝りな女性が恋に落ちて綺麗になるという展開もベタ過ぎます)、主演のドリス・デイはキュートですし、楽曲もよく、フィクションと割り切って観ると楽しい作品です。今後こういう西部劇って、ポリティカル・コレクトネス的にあまり観られなくなるんでしょうか。それも少しもったいない気がしますので、当時の時代背景や人々の意識、史実に対する誤解、誇張をきちんと説明しつつ、バランスを取って後世に残す道も探ってもらいたいです。

72 先日読んだ町山智浩さんの映画評で取り上げられていたので読みました。村上春樹さんの原作小説をデイヴィッド・リンチさんが監督して、大失敗したかのような作品です。ストーリーを楽しむタイプの作品ではないとは思うのですが、とにかく何が言いたいのかよくわかりません。久しぶりに時間を無駄にしたと思った作品です。町山さんの評論を読んでいなかったら、もっと後悔していたと思います。グロテスクかつスタイリッシュな映像や、サブカルチャーに対する屈折した視点(ニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」など、世界的なヒット曲を陰謀的なメッセージを込めつつ裏で全て作っていたと、様々な楽曲をピアノで弾き語りする老人のキャラクターが秀逸でした)など、この監督の才能を感じる場面もあるのですが、トータルで観ると失敗作だと思います。村上春樹さんの小説やデイヴィッド・リンチさんの映画と比べると、ものごとがスムーズに進み過ぎて無駄がない点(あくまで主人公の目線でですが・・・客観的に見ると全ての行動が無意味です・・・)が最大の違いだと思いました。陰謀論の謎解きに取りつかれた主人公の作業に付き合わされているだけのような気がして、サービス精神に欠けるゲーム実況を観ているような感覚になりました。

73 コーエン兄弟監督作品に俳優としてよく参加しているジョン・タトゥーロの監督作品ですが、ウディ・アレン監督作品と言っても誰も疑わないと思います。ジャズが流れるニューヨークを舞台に、セックスとユダヤ教に対するブラックなユーモアに満ちた大人のコメディが展開されます。俳優ウディ・アレンが実に楽しそうに演じているのが、ファンとしてはうれしいです。最近は自らの監督作品でも出演されることがほとんどないだけに、とても貴重です。ヴァネッサ・パラディのすきっ歯にどうしても目が行きますが、不思議な魅力が印象的です。ジョン・タトゥーロも「どんだけ自分が好きやねん」という演出で、自らをとても渋く描いています。ウディ・アレンに対する溢れる敬意だけでも、評価したくなる作品です。
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