本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ノマドランド

2021-08-14 09:25:44 | Weblog
■本
65 竹中平蔵 市場と権力/佐々木 実
66 黒いマヨネーズ/吉田 敬

65 竹中平蔵さんに関しては、大臣時代は個人的に特にポジもネガもなかったのですが、コロナ禍での「世論が間違ってますよ」とまで言い放つ姿勢が気になったので読みました。また、個人的に「新自由主義」はあまり好きではないので(この政策が効果を発揮するタイミングはあるかもしれませんが、万能ではないと思っています)、敵を知るという意味でも興味深かったです。この本の作者がかなり竹中さんに批判的なポジションを取られているので、割り引いてとらえる必要がありますが、控えめに言っても、竹中さん個人の利益>アメリカの利益>日本の利益、の人だと思いました。既得権益を打破するという姿勢自体は共感できたものの、結局その権益が竹中さんや小泉さん、安倍さん周辺に移っただけということがよくわかります。何より「政治は結果がすべて」という観点から言っても、日本経済の「失われた30年」という状況を振り返ると、竹中さんの政策はあまり評価できないと言えます(もちろん竹中さんだけの責任ではないですが)。逆に、竹中さん個人としては、学者としても官僚としても政治家としてもアウトサイダー(竹中さんは政府系銀行からキャリアをスタートさせています)だったにもかかわらず、大臣にまで成り上がる、その政治力については参考になるべき点があります。結局、その才覚の多くを国家のためではなく、自分の影響力拡大のために使ったという点で、議員にすべきではない人だったのだと思います。能力と清廉さを兼ね備えた人はなかなかいないという前提での制度設計がやはり必要なのだと感じました。

66 たまに、独特の感性を持っている芸人さんの本を読みたくなります。ブラックマヨネーズの吉田さんも、その発言のユニークさにずっと注目していました。この本を読んで、吉田さんがある種の哲学者だということがよくわかりました。ある物事(それが下ネタであることも多いですが)を徹底的に考え抜くことが、本当に好きだということが伝わってきます。また、その考え抜くプロセスを面白おかしく読者に伝えるテクニックがあるので、読み物としてとても楽しめました。奥様や相方の小杉さんに対する感謝が感じられる箇所も散見され、吉田さんの屈折した優しさが伝わってきました。「湯を沸かすほどの熱い愛」などの中野量太監督が、吉田さんの高校時代の同級生だということで、解説を書かれているのも興味深かったです。


■映画
60 ノマドランド/監督 クロエ・ジャオ
61 ヴェノム/監督 ルーベン・フライシャー

60 今年のアカデミー作品賞などの受賞作です。映画館で観たかったのですが、コロナの影響で適わず、やっと動画配信で観ることができました。アメリカ中西部の雄大な自然が印象的で、映画館の大画面で観たかったです。近年「ノマドワーカー」という言葉も流行っているので、もう少し若い人を扱った作品だと思っていたのですが、この作品で「ノマド」として描かれている人々の大半が高齢者(本来であれば悠々自適のリタイア生活を送っていてもおかしくない人たち)であることに、まず驚きでした。このような人たちが、持ち家を失い、アマゾンなどで期間労働者として働きながら、キャンピングカーで渡り歩く生活と交流が叙情的に描かれています。打ちのめされるだけではなく、したたかに自分の人生を全うしようという潔さも感じられます。その象徴としての主人公を、フランシス・マクドーマンドが見事に演じています。大傑作「スリー・ビルボード」を観たときにも思いましたが、この人は一見粗野な芯の強さの背後にある寂しさ、慎ましやかさを表現するのが本当に上手です。リーマンショックが、アメリカの普通の人々に与えた影響の大きさも感じられます。このような事象がトランプ大統領誕生の背景にあったかも、と思うと少し切ない気持ちになりました。地味で微妙なアメリカ社会の問題を題材にした映画を、中国出身の監督が制作されたことに驚きです。日本人以上に、中国人の方がアメリカという国の本質を理解しているのかもしれません。いろいろと考えさせられることの多い作品ですが、困難な時代を生きる同志として観客を捉えているかのような「See you down the road.」というメッセージに全編が貫かれている点に勇気づけられます。

61 マーベルのダークヒーローものです。ヴェノムが登場するまでの前振りが長すぎて、テンポが悪すぎます。ヒロインがそこまで魅力的ではないので、主人公の恋愛模様をここまで詳細に描かれても困ってしまいます。それだけ焦らした割には、地球征服を目論む地球外生命体が、人類に協力する心変わりが丁寧に描かれておらず、唐突感が否めません。前半に時間を使い過ぎたので、肝心のアクションシーンも消化不良です。ヴェノムのキャラクター自体は、残虐でありながら、どこかコミカルかつ温かみもあり、劣等感をバネにしているなど、現代的で個人的には好きです。続編作る気満々なエンディングでしたが、一作目はキャラ紹介に終始した印象なので、二作目以降に期待したいと思います。
コメント
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