南斗屋のブログ

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牛島定弁護士無罪事件

2021年04月12日 | 歴史を振り返る
(概要)
千葉県弁護士会史には、刑事弁護人(千葉弁護士会所属)が事件に関連して名誉毀損罪で起訴された事件が記録されています。
この事件は無罪が確定しており、判例集にも掲載されています(東京地裁昭和34年3月31日判決・判タ93・78)。

(事件の経過)
事案:傷害致死事件の主任弁護人が、新聞記者と共謀して、新聞紙上に、担当裁判長が判決言渡し直前、事件の取調官と会合したうえ、事件の内容を取引した旨の記事を掲載し、これによりその裁判官の名誉を毀損したというもの。
被告人となった弁護士:牛島定弁護士。
名誉毀損罪としての起訴:1957(昭和32)年8月17日
この起訴は、千葉地裁での起訴でしたが、管轄移転の請求があり、東京地裁に移送されています。
*東京高裁昭和32年10月25日決定(東京高裁刑事判決時報8・10・371)。
前記のとおり、同事件は無罪が確定しており、判例集にも掲載されています(東京地裁昭和34年3月31日判決・判タ93・78)。

(本件に関連する訴訟)
・元裁判長(昭和32年に退職)は、1959(昭和34)年、新聞社に対して民事訴訟(名誉回復並損害賠償請求事件)を提起し、1961(昭和36)年に5月17日に元裁判長勝訴の判決がでています(千葉地裁昭和36年5月17日判決・判タ120・95)。
・牛島弁護士は検察官の起訴が違法であるとして、国家賠償訴訟を起こしていますが、検察官が名誉毀損の起訴をしたことについて、故意過失がなかつたとされ、棄却されています(東京地裁昭和38年10月29日判決・訟務月報10・1・61)

(牛島定事件に関する記載)
千葉県弁護士会史には、①「柴田睦夫先生に聞く」から、②「或る冤罪捏造の構図」からの2編が牛島定事件として収められています。
①は弁護団の柴田睦夫弁護士への1991(平成3)年のインタビュー。②は、室山智保弁護士が1984(昭和59)年に千葉県弁護士会会報に掲載したものの転載です。
弁護団:柴田睦夫弁護士、青柳盛雄弁護士、森永英三郎弁護士、石島泰弁護士、室山智保弁護士
 この5名が弁護人であったことは、①②とも一致しております。しかし、①では村井右馬之丞弁護士も挙げられており、「その他千葉・東京など通の弁護士が弁護人となりました」ともあるのですが、後者がどれだけ実質的な関与をしていたかは不明です。


(牛島弁護士の経歴)
1907(明治40)年3月生まれであり、起訴されたときには50歳でした。
柴田弁護士は、牛島弁護士を、「ブルドックと呼ばれ、勇ましく刑事法廷をはじめ活躍しておられた先生」と回顧しています(前記①)。判例を検索すると、次のような刑事裁判例に牛島弁護士が弁護人としてかかわったことがわかります、。
・最高裁昭和25年3月14日判決(最高裁判所刑事判例集4巻3号330頁)。銃砲等所持禁止令違反被告事件。
・東京高裁昭和25年10月17日判決(高等裁判所刑事判決特報15・5)。 窃盗、殺人未遂被告事件。
・千葉地裁昭和26年6月13日判決(最高裁判所刑事判例集11巻2号814頁) 威力業務妨害公務執行妨害傷害被告事件
・東京高裁昭和26年7月27日判決(高等裁判所刑事判例集4巻13号1715頁)。殺人被告事件。
・最高裁昭和27年3月11日(最高裁判所裁判集刑事62号323)。殺人未遂、傷害、脅迫、銃砲等所持禁止令違反
・最高裁昭和27年5月29日判決(最高裁判所裁判集刑事64号757)。窃盗、殺人未遂
・東京高等裁昭和27年10月22日判決(高等裁判所刑事判例集5巻12号2153)。 賍物故買食糧管理法違反被告事件。
・東京高裁昭和28年1月31日判決(最高裁判所刑事判例集11巻1号17頁)。自転車競技法違反被告事件。
・最高裁昭和28年6月19日(最高裁判所刑事判例集7巻6号1342)。 麻薬取締規則違反被告事件。
・東京高裁昭和31年4月24日(高等裁判所刑事判例集9巻4号369)。競馬法違反被告事件。
・最高裁昭和32年1月17日判決(最高裁判所刑事判例集11巻1号1頁)。自転車競技法違反被告事件。
・東京高等裁昭和35年6月14判決(高等裁判所刑事判例集13・5・409)公職選挙法違反被告事件
牛島弁護士の没年は、千葉県弁護士会史には記載がありません。
判例を検索すると、昭和41年の民事事件判決に名前が見えますので(東京高裁昭和41年3月28日判決・判時447・67)、それ以降にお亡くなりになったものと思われます。

(本件事件の位置づけ)
 千葉県弁護士会史では、「刑事裁判官による刑事弁護人に対する弾圧事件」としています。
 しかし、詳しい理由付けはありません。
 元裁判長の新聞社に対する民事訴訟では、謝罪広告まで認められており、新聞報道が不適切であったことは間違いないようです。
 事件の取調官(警察官)と裁判官が会合を持つ等、現代の感覚では信じられないですが、新聞報道の問題や弁護人が取材に対してどう答えるかという問題等様々な問題が含まれているようにも思えます。
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