尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「0・5ミリ」と「超能力研究部の3人」

2014年12月23日 23時20分47秒 | 映画 (新作日本映画)
 最近の日本映画を2本。どっちも知らない人も多いかと思うので、書いておく次第。これも選挙前に見たので、早く書かないとどんどん忘れちゃう。まずは、安藤桃子監督・脚本「0.5ミリ」で、これは超ど級の問題作で、面白いこと極まりない。この映画が11月に公開されたことは知っていたけど、なんだかよく知らないうちに終わっていた。そうしたら報知映画賞作品賞を取って、テアトル新宿で上映された。僕はそこで見たが、東京ではシネマート六本木で再上映される他、全国各地で上映予定。しかし、この映画を見るのは結構大変で、何しろ196分もある。最初に上映時間を見た時は、僕もビックリしたのだが、いくら何でも3時間以上は長すぎる。でも、面白くて、見れば時間を感じない。

 安藤桃子監督(1982~)は2010年に「カケラ」という映画を作っていると言うが見ていない。その後、自分で原作を書いて「0.5ミリ」という映画を作った。主演は安藤サクラで、監督の妹である。つまり、この姉妹は奥田暎二、安藤和津の子どもで、奥田がプロデューサー、安藤和津もフード・スタイリストとクレジットされている。一家総出の作品だけど、そういう点が悪い方向にではなく、良い方に出た感じの映画である。安藤サクラは印象深い映画が多いけど、「かぞくのくに」や「愛と誠」よりも、のびのびと自然な感じで演じているように思う。それが生きるような題材だけど、高知県でオールロケしているのも生きている。ホントにそこにいる人間の映画という感じ。

 一言で言うと、「押しかけヘルパー」の過激な日常を描く老人福祉映画だけど、あまりに主人公の設定がぶっ飛んでいるので、問題提起やコメディという以上の「超迫力映画」になっている。安藤サクラも出ていた園子温「愛のむきだし」が、宗教や愛を描く映画という枠組みを超えて、ひたすら圧倒的な迫力で迫る「ぶっ飛び映画」だったのと同じような感触である。「老人と性」「老人とカネ」といったタブー的部分をも直視しているのも凄い。ヘルパーで行ってた家で「ある頼まれごと」をしたことから、人生が暗転、住む家も無くなったサワ。街で見かけた所在ない老人のところに押しかけて、勝手に居候を始める。それが坂田利夫とか津川雅彦とか、ちょっと事情は違うが柄本明なんかで、これらの芸達者も年寄りになって(まあ、演技だけど)、若いサワに翻弄されてしまう。その中から、今の日本の老人の姿もあぶりだされてくるが、そういう社会問題映画というより、ただ人間存在というものの面白さ、おかしさを画面にぶつけたような映画だと思う。僕は津川の寝たきりの夫人役、元オペラ歌手の草笛光子が素晴らしいと思った。長いけど、どこかで見て欲しい作品。 

 もう一本は、山下敦弘(やました・のぶひろ)監督(1976~)の「超能力研究部の3人」である。これはアイドルグループ「乃木坂46」のメンバー3人が出演する「アイドル映画」でもあるけど、その映画の「メイキング映像」も出てきて、というかメイキングも実は作られたものらしい「フェイク・ドキュメンタリー」であるらしい映画。非常に複雑かつ不思議な触感の映画で、他にちょっと類例を思い出せないようなトンデモ映画だと思う。じゃあ、面白いかと言えば、そこが判断が難しいんだけど。
 
 ある高校にある「超能力研究部」に所属する3人の女子高生。彼女らの超能力やら恋愛沙汰などの、相当にたるいストーリイがあって、それを演じるアイドル3人と演出する監督がいる。両者を通して、「アイドルとは何か」みたいな話になっていって、煮詰まると休日に海に行ったりする。(伊豆でロケしてる。)一方、アイドルであることにより、映画で実際のキスシーンをする演出を監督が指導すると、お目付け役のマネージャーが「上に聞かないと判らない」と言い出して撮影が止まる(という場面になるけど、これも「シナリオ通りの演出かも知れない」と思って見るわけである)。演技が下手だと、わざと「ケンカ」シーンで追いつめていき、「アイドル性」をはぎ取って行こうと試みる。その「メタ映画」というか、映画内で繰り広げられるアイドル論が面白いと言えば面白い。(どうでもいいと言えば、僕にはどうでもいいようにも思えるが。)主演者を一応書いておくと、秋元真夏、生田絵梨花、橋本奈々未という3人である。

 これは「乃木坂46」で見る人が多いのかもしれないが、僕は山下敦弘監督だから見たのである。山下監督は、最近若い映画監督を輩出していることで話題の大阪芸大芸術学部映像学科出身。卒業制作の「どんてん生活」で注目され、「バカのはこぶね」「リアリズムの宿」という映画を撮った。最後の作品はつげ義春原作の映画化で、僕はここから見ている。その後、僕の大好きな「リンダ リンダ リンダ」「松ヶ根乱射事件」「天然コケッコー」を撮って、ごひいき監督になった。最近の「マイ・バック・ページ」「苦役列車」と話題作を撮り続け、昨年の前田敦子の超ふて腐れぶりが捨てがたい「もらとりあむタマ子」も面白かった。来年は「味園ユニバース」という渋谷すばる、二階堂ふみ主演映画がもう控えている。とにかく要注目の監督で、短編映画なども作るほか、様々な活動をしているようである。こんなトンデモナイ映画もあるんだという意味で、映画に関心がある人はのぞいておいた方がいい。
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