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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

麻生発言「若者の政治的無関心は悪いことではない」を考える

2020年09月16日 22時32分51秒 | 政治
 「N高等学校」というのがある。最初に目にしたのはずいぶん前のことだが、てっきり略称かと思った。紀平梨花や池田美優(みちょぱ)のように、スポーツ選手や芸能人が卒業(在籍)しているので、イニシャルで報道してるのかと思ったのである。しかし、これは「学校法人角川ドワンゴ学園」が設立した通信制私立高校の正式の名前である。本校は沖縄県うるま市伊計島にあり、開設申請時には沖縄県当局も略称で申請したのかと思ったらしい。首都圏、近畿圏を中心に各地に通学キャンパスを設置し、1万人以上が在籍している。

 そんなN高校に「政治部」というのが出来たという。部活ではなく、特設授業コースみたいな感じらしい。書類選考で20〜30人の生徒を選び、さまざまな政治家の話を聞いたり質問したりしてレポートを書くなどの活動をするらしい。担当の特別講師が国際政治学者の三浦瑠麗氏で、9月9日の初回授業では麻生太郎副首相がゲスト講師だったというから、どうも何か怪しい感じがしてしまう。最初が与党側でもいいけれど、もっと違った人選にすればいいのに。その様子はYouTubeなどで公開されているというが僕は見ていない。
(9月9日の麻生講演)
 そこで麻生氏が語ったのは、「若者の政治的無関心は悪いことではない」という言葉だ。僕は東京新聞9月12日付「こちら特報部」の記事で知った。ここでもその記事から引用することにする。「新聞記者なんかがよく言うセリフは「若者は政治に関心がねぇ」って。いかにも悪いかのごときに言う人はいっぱいいるけど、間違っていると思います。政治に関心がないっていうのは、そんなに悪いことじゃありません。政治に関心がなくても生活が出来るぐらい、いい生活をしているんですから。」というのである。

 麻生氏は以前アフリカで暮らしたことがあるという。そういうところで生まれた子は間違いなく政治に関心がある。嫌でも政治に関心がないと生活できないから。「政治に関心を持たざるを得ない国にいるよりは、政治に関心なくても生きていられるところにいる方がよっぽどいい」というわけだ。いかにも麻生流の皮肉で「上から目線」を感じさせる発言である。ちなみに麻生氏は九州の炭鉱王だった麻生財閥の御曹司に生まれ、アフリカで暮らしたというのは麻生財閥の仕事でシエラレオネでダイヤモンド採掘に関した仕事をしたという。1970年代初頭の話で、帰国後に麻生セメント社長となり、モントリオール五輪にクレー射撃の選手として出場した。
 
 「日本は政治に関心がなくても生活が出来る」という認識自体に問題があると思うが、それ以上に「世界全体を見れば、政治に関心を持たないと生きていけない国がある」と認めているのに、日本の若者は政治に無関心で良いとする「差別心」や「想像力の欠如」に僕はゾッとする思いがした。「アフリカ」で子どもたちが大変な思いをしていても、「日本の若者」は何も思わないのだろうか。もしそうだとしたら、それでいいのかと語りかけるのが大人の役割ではないのか。

 つまり「アフリカ」(政治に無関心では生きていけない地域)と「日本」(政治に無関心で生きていける地域)に世界を二分して、君たちは後者に属しているから「政治を考えなくてもいい」と世界を分断する。それが麻生氏の世界観なのである。これは「若者が政治に無関心」というのとはちょっと違うと思う。まさに「これが政治」だと思う。「日本はアフリカじゃなくて良かったね」というのが「政治」じゃなくて何だろう。日本に生まれたことを幸せに思って、「これからも日本内部で何も考えずに生きていきましょうね」という愚民教育論だ。
(N高校政治部)
 そんなことをしている間に、世界はどんどん変わっていく。若い政治家がリーダーになり、新しい社会を作ってゆく。日本だけが取り残されてゆく。日本は決して「政治に無関心で生きていける国」ではない。非正規雇用が増え、学生は高い奨学金を抱えて結婚も出来ない。シングルマザーになったら大変すぎるし、長時間労働を強いられて自分の時間も持てない。高齢男性が支配し続けている間に地方は衰退し、少子化が進行し人口がどんどん減っていく。そんな社会で「若者が政治に無関心」だったら、国が滅んでしまうし、実際に滅びつつあるじゃないか。

 それと同時に、これは通信制高校生に向けて語るべき言葉だろうかと思ったのである。N高校は新しい試みをやろうとする学校をうたっている。実際に有名大学に進学する人もいるらしいし、スポーツ・芸能・囲碁将棋などで若くして活躍している人もいるだろう。しかし、世の多くの中学生は全日制高校に進学するのに、どのような生徒が通信制に行くのか。それは中学で不登校だったり、集団になじむのが大変だったりする生徒が多いんだろうと思う。その背景には障害貧困があるかもしれない。性的マイノリティのため制服が嫌なので全日制を避ける生徒もいるだろう。そういうことを考えると、今後日本社会で生きていく時にハンディを負っている生徒が多いのではないかと推測できる。

 そういう生徒像を想定すると、言うべきことは変わってくると思う。麻生氏の母校である学習院に招かれたのとは違うのである。若者が政治に無関心だとするならば(実際10代の投票率は低くなっている)、それは「教育」や「報道」の自由を長年の間に自民党内閣が奪ってきたことが一番大きいと思う。「政治を批判する」ことは怖いことだとすり込まれてしまったのである。大人がすでにそうだろう。そして何が起こっても、どんな暴言をしても、決して辞めることのない麻生氏の存在自体が「日本では何を言ってもムダ」と思わせている。
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