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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「ニーゼと光のアトリエ」-精神医学とアート療法

2016年12月28日 22時55分44秒 |  〃  (新作外国映画)
 渋谷のユーロスペースで、ブラジル映画「ニーゼと光のアトリエ」という映画が公開されている。これは1940年代のブラジルで、精神科の治療に芸術療法を取り入れた実在の女性医師、ニーゼ・ダ・シルヴェイラを描いた映画である。とても感動的で、自分の問題関心からも大変興味深かった。多くの人に見て欲しい映画。2015年の東京国際映画祭でグランプリと最優秀女優賞を受けた。
 
 冒頭で、ニーゼが精神科医の資格を得て精神病院にやってくる。他の男性医師たちは、ロボトミー手術電気ショックを最善の治療法と信じている。ロボトミーというのは、外科的に前頭葉を切り離してしまう手術のこと。重大な副作用が生じることがあるし、人格そのものを外科的に改変してしまうわけで、今では精神医学史の闇の歴史の象徴と見なされている。しかし、20世紀半ばには画期的な治療法とされていて、1949年にはなんとノーベル生理学・医学賞まで受けている。

 映画では電気ショックを実際にやっているところを見せている。(まあ、劇映画だから実際に電気を流しているわけではないだろうが。だけど、それなら迫真の演技という感じ。)ニーゼはそういう暴力的な治療法に反対するが、そんな彼女の居場所は作業療法部門しかない。そこには医者はいなくて、部屋も汚く整理されていない。そんな場所を掃除するところから、ニーゼの仕事が始まる。

 そこに芸術に関心のある協力者が現れ、患者たちに絵筆や粘土を与えて、彼らが自由に表現できるようにしていく。そこで大事なことは、患者たち(ニーゼは映画内で「クライアント」と表現している)に「自由」を与えることで、医師や看護師がリードしてしまわないように注意している。最初はどうなるかという感じだが、次第に彼らは独自の表現を始めていく。それを「無意識」の表れと理解し、明らかに病気が改善されていると評価する。

 ニーゼの試みは保守的な男性医師によって、いつも妨害されている。病院では動物を飼うなと言われているが、ニーゼは何匹もの犬を飼って、皆が可愛がっている。(それは無惨な悲劇につながるが。)「動物は最高のセラピスト」だとニーゼは反論するが、今では理解されている動物療法もニーゼは試みていたのである。そして展覧会も開いて外部の評価も得た。絵の写真をユングに送ると、なんとユングから返事が来るというエピソードも描かれている。

 今となっては、当たり前すぎる考え方でもあるけれど、当時の様子が生き生きと再現されることで、ニーゼの苦闘がよく伝わってくる。精神疾患、特に統合失調症は人間の病の中でも相当に難治の病である。今は投薬でかなり改善するけれど、完治することはなかなか難しい。薬物で改善されるのだから、体内でなんらかの物質的原因があって発病するんだろうけれど、非常に「奥が深い」感じがする。だからこそ、芸術療法で無意識を解放することも大きな意味があるんだろう。精神疾患に留まらず、広く人間一般にも当てはまると思うけど、アートや動物のセラピー効果の大きさを再確認する映画でもある。ニーゼの勇気ととともに、多くの人に勧める理由。
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