神保町シアターで原節子没後1年の追悼上映が始まった。「母の曲」(総集編)という戦前の映画は見てないので、今日はこれを見ようと思ったら、売り切れ満員だった。さあ、困った。そこで早稲田松竹に行って、台湾のホウ・シャオシェン監督2本立てを見ることにした。「風櫃(フンクイ)の少年」(1983)と「冬冬(トントン)の夏休み」(1984)。日本では「悲情城市」と同じく1990年に公開された。「風櫃」はついこの間、台湾映画特集で見直したばかりなんだけど、「冬冬」は26年ぶりということになる。

旧作を、それも名画座で見直しても、普段はあまり書かないことにしている。名画座上映はすぐ終わってしまうし、映画ファンなら知っているような映画が多い。でも、今回は「こういう映画だったか」と感銘を新たにしたこともあるし、ぜひ多くの人に知っておいてほしいと思って書いておくことにした。ホウ・シャオシェン監督は台湾映画の巨匠で、ヴェネツィア映画祭でグランプリを取った「悲情城市」が断トツのベストだと思う。でも、子どもたちを描いた「冬冬の夏休み」ほど、見たものに幸福感を抱かせる映画も少ないだろう。素晴らしい映画を見たという記憶を、僕も四半世紀の間、ずっと持ち続けてきた。それは今回見ても同じなんだけど、でも印象はずいぶん違った。
この映画は、母親が入院している間、台北の小学生兄妹が田舎の祖父の家(病院)に預けられる話である。なんだか記憶の中では、自然の中で幸せに遊びまわった「奇跡の夏」をささやかに描写した小さな宝石のような作品だと思い込んでいた。まあ、そういう側面もないわけではないけれど、今回見直すと「オトナの事情」もしっかりと描かれていた。冬冬は小学校を卒業し、田舎の子どもたちともすぐ仲良くなるが、同時に大人の世界をも垣間見ている。そういう存在だった。第一、「母の不在」という影が全編を覆っている。ギャングもいれば、村の「知恵遅れ」の娘をめぐるあれこれの騒動もある。叔父の結婚をめぐるドタバタ騒ぎもある。
「子どもの目」に徹しているので、大きく取り上げられていないが、性や犯罪、親子や夫婦の葛藤…などもしっかりととらえられていた。そのことは見ればすぐに判るんだけど、これほどの「子ども映画の名作」は少ないので、記憶の中ではだんだん幸福な夏休みの側面だけが定着してしまったんだろう。川で水遊びするシーンなど、今の日本ではできないうらやましい場面。色彩デザインも計算されていて、とても感性に深く訴えかけてくる映画である。主人公が「冬冬」(トントン)という愛称なのも、おかしい。夏休み映画にあるまじき命名ではないか。
冬冬と妹が住むことになる家は、祖父の病院である。これは明らかに日本統治時代の建物だろうと思ったけど、調べてみたらやはりそうだった。建物が主役と言ってもいい映画で、2階の廊下で滑っていて、祖父に怒られるシーンなど忘れがたい。脚本の朱天文の母方の祖父の家だそうである。場所は銅鑼(どうら)というところで、台湾北西部、台北と台中の間にある。冬冬の父を台湾映画のもう一人の巨匠、楊徳昌(エドワード・ヤン)が特別出演している。叔父さんの恋人は、「風櫃の少年」でも恋人役だった林秀玲という女優で、あ、また出てるという感じだった。冒頭の小学校卒業式で「仰げば尊し」が流れ、ラストでは「赤とんぼ」が出てくる。
映画ファン、台湾ファンだけでなく、すべての子どもたちに一度は見せたい映画。今回上映のデジタル・リマスター版はまだDVDが出てないようだけど、注意していれば今後様々な劇場上映もあると思う。「夏休み」というのは、ドラマの絶好の設定で多くの映画が作られている。アメリカの青春映画では、高校を卒業すると夏休みだから、この期間の映画はものすごく多い。フランスではバカンスだから、エリック・ロメールなんかのバカンス映画が思い浮かぶ。でも、子どもたちの夏休み映画といったら、「冬冬の夏休み」が最高傑作ではないだろうか。ナント三大陸映画祭グランプリ、キネマ旬報ベストテン4位。


旧作を、それも名画座で見直しても、普段はあまり書かないことにしている。名画座上映はすぐ終わってしまうし、映画ファンなら知っているような映画が多い。でも、今回は「こういう映画だったか」と感銘を新たにしたこともあるし、ぜひ多くの人に知っておいてほしいと思って書いておくことにした。ホウ・シャオシェン監督は台湾映画の巨匠で、ヴェネツィア映画祭でグランプリを取った「悲情城市」が断トツのベストだと思う。でも、子どもたちを描いた「冬冬の夏休み」ほど、見たものに幸福感を抱かせる映画も少ないだろう。素晴らしい映画を見たという記憶を、僕も四半世紀の間、ずっと持ち続けてきた。それは今回見ても同じなんだけど、でも印象はずいぶん違った。
この映画は、母親が入院している間、台北の小学生兄妹が田舎の祖父の家(病院)に預けられる話である。なんだか記憶の中では、自然の中で幸せに遊びまわった「奇跡の夏」をささやかに描写した小さな宝石のような作品だと思い込んでいた。まあ、そういう側面もないわけではないけれど、今回見直すと「オトナの事情」もしっかりと描かれていた。冬冬は小学校を卒業し、田舎の子どもたちともすぐ仲良くなるが、同時に大人の世界をも垣間見ている。そういう存在だった。第一、「母の不在」という影が全編を覆っている。ギャングもいれば、村の「知恵遅れ」の娘をめぐるあれこれの騒動もある。叔父の結婚をめぐるドタバタ騒ぎもある。
「子どもの目」に徹しているので、大きく取り上げられていないが、性や犯罪、親子や夫婦の葛藤…などもしっかりととらえられていた。そのことは見ればすぐに判るんだけど、これほどの「子ども映画の名作」は少ないので、記憶の中ではだんだん幸福な夏休みの側面だけが定着してしまったんだろう。川で水遊びするシーンなど、今の日本ではできないうらやましい場面。色彩デザインも計算されていて、とても感性に深く訴えかけてくる映画である。主人公が「冬冬」(トントン)という愛称なのも、おかしい。夏休み映画にあるまじき命名ではないか。
冬冬と妹が住むことになる家は、祖父の病院である。これは明らかに日本統治時代の建物だろうと思ったけど、調べてみたらやはりそうだった。建物が主役と言ってもいい映画で、2階の廊下で滑っていて、祖父に怒られるシーンなど忘れがたい。脚本の朱天文の母方の祖父の家だそうである。場所は銅鑼(どうら)というところで、台湾北西部、台北と台中の間にある。冬冬の父を台湾映画のもう一人の巨匠、楊徳昌(エドワード・ヤン)が特別出演している。叔父さんの恋人は、「風櫃の少年」でも恋人役だった林秀玲という女優で、あ、また出てるという感じだった。冒頭の小学校卒業式で「仰げば尊し」が流れ、ラストでは「赤とんぼ」が出てくる。
映画ファン、台湾ファンだけでなく、すべての子どもたちに一度は見せたい映画。今回上映のデジタル・リマスター版はまだDVDが出てないようだけど、注意していれば今後様々な劇場上映もあると思う。「夏休み」というのは、ドラマの絶好の設定で多くの映画が作られている。アメリカの青春映画では、高校を卒業すると夏休みだから、この期間の映画はものすごく多い。フランスではバカンスだから、エリック・ロメールなんかのバカンス映画が思い浮かぶ。でも、子どもたちの夏休み映画といったら、「冬冬の夏休み」が最高傑作ではないだろうか。ナント三大陸映画祭グランプリ、キネマ旬報ベストテン4位。
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