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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

村上春樹、小澤征爾と語り合う-村上春樹をちょっと③

2016年11月19日 23時12分27秒 | 本 (日本文学)
 村上春樹は「作家」として、ほぼデビュー時から読んできた。読みなおした本もあるし、もう一回読みたい本もある。でも、そうなるとかえってハードカヴァーで全部持っているのがめんどくさい。「羊をめぐる冒険」なんか、文庫で買いなおして読んだぐらい。(ものすごく面白かったなあ。)

 翻訳家としての村上春樹も、相当(「ほぼ」と言ったほうがいいか)読んでいるのは、1回目の記事に書いた。違和感を感じた本もないではなかったけど、大部分は大好きな訳だった。僕のお勧めは、レイモンド・カーヴァーの本はすごくいいのと、ティム・オブライエンの本が大好き。「グレート・ギャツビー」やチャンドラーの本は、勧めるまでもなく読書好きなら読んでるだろう。サリンジャーは、僕は野崎孝訳で親しんだから、何も村上春樹じゃなくてもいい気がしちゃう。ノンフィクションのマイケル・ギルモア「心臓を貫かれて」もものすごい本だった。死刑囚の弟が書いた本である。

 という具合に、大体は読んできたんだけど、村上春樹にはライト・エッセイ紀行のような本、絵本絵本の翻訳、あるいは回文集かるたのパロディまである。「うさぎおいしーフランス人」というんだから、人を食っている。およそ、ノーベル文学賞候補に毎年上がるような作家がやることかといった本をいっぱい出している。(ノーベル物理学賞受賞者のファインマンさんだって、冗談みたいなことをいっぱいやってたから、もちろんいいわけである。ちなみに、朝永振一郎と一緒にノーベル賞を受けた人で、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」などが岩波現代文庫から出ている。)

 そんな村上春樹だから、よほどのファンでも全部読んでるという人はいないんじゃないかと思う。僕も長編小説以外は読んでないものがかなりある。(先の回文もかるたも読んでない。)時々文庫になったら買って、まとめて読んだりすることもある。「雑文集」(新潮文庫)が去年文庫化されたので、読んだのをきっかけにちょっとまとめて読んだ。読み始めたのががもう一年前くらいで断続的にいろいろ読んでみた。その中で圧倒的に素晴らしかったのが「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮文庫)だった。2011年に出て、2014年に文庫になったけど、買ってなかった。

 クラシック音楽は、まあ他のジャンルよりはよく聞くけど、もうコンサートに行くことはない。若いときは「一度は聞こう」などと思って、カラヤンもべームも来日公演に行ってるし、フルートやヴァイオリンなんかも聞きに行ってた。だけど、小澤征爾は一度も聞いてない。チケットは高いし、あっという間に売り切れてしまう。松本までサイトウ・キネン(今はセイジ・オザワ松本フェスティバル)に行きたいと毎年のように思ってきたけど、そういう機会は作れなかった。だから、本が出た時も買わなかった。

 でも、最近初めてこの本を読んで、これはすごい本だと思った。クラシック音楽に詳しくない人でも、読んでみる価値がある。最初はベートーヴェンのピアノ協奏曲第三番の話が延々と出てきて、ちょっとどうかなと怖気づくんだけど、第3章の「1960年代に起こったこと」で語られるレナード・バーンステインの「アシスタント指揮者」をしてた時期の話が素晴らしい。大体、アシスタント指揮者ってなんだという感じだが、バーンステインという人もすごいなあと感心する。

 続いて、マーラーの評価の話。70年代ごろから、世界的なマーラー再評価が進んでいくが、その頃のことは何となく覚えている。ケン・ラッセルが映画「マーラー」を作ったのは、今調べると1974年である。マーラーへの関心が高まっていたことを示している。そして、オペラの話。聞いてない曲、聞いたことがない演奏家がいっぱい出てるから、なかなか大変だったけど、充実した読書体験になる。そして、最後に「厚木からの長い道のり-小澤征爾が大西順子と共演した『ラプソディ・イン・ブルー』」という絶対に一度は読むべき文章が掲載されている。大西順子というジャズ・ピアニストがいたことも知らなかったが、本当に圧倒される文章である。いやあ、これだけ読むためでも、文庫を買う意味がある。

 ところで、村上春樹がインターネットで読者からの質問を受け、それに答えたものをまとめた「村上さんのところ」が2015年に出た。安西水丸が亡くなったということで、フジモトマサルがイラストを担当したけど、そのフジモトも2015年11月22日に亡くなってしまった。この本には答えが全部載ってるわけではないけど、4段組み250ページもあって、ずいぶん長い。倉敷の書店に名前を付けたり、小諸の動物園のライオンの話など、ずいぶん有名になった話もある。「原発より自動車の方が危険」という質問への答えもぜひ読んでほしいもの。僕が面白かったのは、「村上さんはヤクルト・スワローズのファンだというのは有名ですが、やっぱり東京音頭に合わせて傘を振ったりして応援しているんですか」といった質問。いやあ、実は僕もちょっと聞きたかった質問だ。答えが気になる人は自分で探してください。
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