尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「声をかくす人」他-最近見た新作映画

2012年12月21日 00時15分58秒 |  〃  (新作外国映画)
 選挙の話は終わってません。でも、遅く帰って来て11時過ぎからパソコンを見るような日には、時間がかかるので書いていられない。また週末にまとめて書きたい。

 19日は昼間はウディ・アレンの「恋のロンドン狂想曲」を見ていた。ウディ・アレンは1935年生まれで、この作品は2010年製作だから、75歳の作品。そう考えると驚くほど若い。まあ定番の恋愛コメディだけど、ニューヨークを離れてヨーロッパを舞台にして若返った作品の一つと言える。しかしなあ、ヨーロッパ系はいくつになっても元気でカップル幻想に浸っているなあ。みな、年金とかどうなってる?「おひとりさま」で生きて行く人はいないのか。そう思ってみると、不思議。公開が後先になったけど、この後がアカデミー賞脚本賞を取った「ミッドナイト・イン・パリ」である。まあアカデミー会員の喜びそうな通好みの趣向で、20年代パリの文学、美術などの知識があることを前提にした高尚なスノビズム(俗物趣味)を楽しむ作品。ガートルード・スタインの名前を知らない人は楽しめない。ブニュエルやダリを知らなくても見てられると思うけど。ウディ・アレンもほとんど見てきたけど、だんだん詰まらくなったのがヨーロッパへ行って少し持ち直し、ここまで来たらずっと見てあげるという感じ。

 「声をかくす人」と言う映画をやってるけど、ロードショーは21日まで。これはあまり評判になってないけど、とても考えさせられる映画だった。アメリカ歴史版「死刑弁護人」だった。リンカーン大統領暗殺事件の犯人一味とされ死刑判決を受け、アメリカで死刑を執行された最初の女性になった人の物語。頼まれて北軍の軍人だった弁護士が弁護を引き受けるが、なんで敵を弁護するんだと非難され友人も離れていく。しかし誰でも弁護を受ける権利があると頑張り通し、無実をほとんど証明したかに見えたが…。ロバート・レッドフォード監督作品。ロバート・レッドフォードは、もちろん優れた俳優だが、意外なことにアカデミー賞主演男優賞は受けてない。その代り「普通の人々」で、アカデミー賞監督賞を受けているのである。(ちなみに「スティング」「クイズ・ショー」で主演男優賞ノミネート。)その「クイズ・ショー」を初め、「リバー・ランズ・スルー・イット」などの素晴らしい監督作品がある。この作品もレッドフォードの力量と、人権感覚や勇気をよく感じられる快作。

 その「普通の人々」はそれこそ「フツー」の家庭の冷え冷えとした崩壊の状況を描きだした冷徹な映画だったが、アメリカには時々「家族映画」の注目作が出てくる。最近では、皆が壊れてる「アナザー・ハッピー・デイ」と言う映画が面白かった。副題が「ふぞろいな家族たち」と言う、そのままの映画。先夫との間にできた長男が結婚するので、実母が男の子二人と車で実家に向かう。この子どもたちは、車の中でも映像を撮っていて、「空気が読めない」発達障害っぽい。先夫との間にはもう一人女の子があって、長男はその妹を付添い人に頼んでいる。でもこの子はリスカ少女で、大学で心理学を専攻しているが心理的に不安定。という、僕なんか会ったことのあるような子どもたちばっかり出てくる。違うのは、アメリカでは広々とした庭にテントを立て、結婚式やパーティをすること。だから何日もかかるし泊まり込みで行かないと。しかも皆再婚して異母異父兄弟が多くて、最初はなかなか人間関係が判らない。ホテルみたいなとこでやって、二次会に行きたけりゃ好きな人で行けばいい日本はだいぶ楽だ。ついてきた次男が言うには、皆の混乱ぶりをみて「家族が結束するのは結婚ではなくて、死なんだ」とのたまう。「国で考えても、9・11の時はまとまった」という。監督・脚本はサム・レヴィンソンと言う若手で、バリー・レヴィンソン(「レインマン」の監督)の子供。

 日本映画ではタナダ・ユキ監督「ふがいない僕は空を見た」が良かった。高校生映画としては「桐島、部活やめるってよ」も良かったけれど、この映画もいい。原作の感触がほぼそのまま映画化されている。あの原作は映画化が難しいと思うけど、視点の変化がきちんと映像化されている。セックス場面満載で誰にでもおススメではないかもしれないが、現在の日本の「格差」が見事に形象化されている。日本映画の注目大作群がいくつもあるが、そのうち見ればいいと思っているうちにどんどん終わっていく。まあそのうち見ればいいでしょう。高倉健が出た「あなたへ」は最近見た。90年代以後の降旗康男監督作品はほとんど好きになれない映画ばかりだったけど、この映画はまあ割と良かった。岩井俊二監督の新作「ヴァンパイア」はカナダで作った全編英語の映画。蒼井優が留学生役で出てるけど、基本はみなヨーロッパ系。変な吸血鬼映画で、ネットの自殺希望者サイトで自殺希望者を募って、血を抜いて先に死なせてあげるというアイディアで血を集める高校教師。それでもいいのか、吸血鬼は。冷え冷えとした感触が悪くはないけど、「ラブレター」が懐かしいなあ。

 むしろ旧作を見てるわけだけど、「私が棄てた女」を久々に見て感じるところが多かった。その話はまた別に書きたい。
コメント
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