工藤鍼灸院・院長のひとりごと2

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大河ドラマ『光る君へ』の鍼治療を考察する

2024年06月03日 18時23分03秒 | 鍼灸・東洋医学

NHKで放送されている今期の大河ドラマ『光る君へ』、皆さんはご覧になっていますか?とりあえず私は朝ドラと大河だけは習慣的に観るようにしておりまして、『光る君へ』も毎週楽しみに視聴しています。
そんな大河ドラマの昨日6月2日(日)放送第22回「越前の出会い」において、劇中に登場した鍼治療のシーンを鍼灸師の立場から考察してみたいと思います。

では参りましょう!

大河ドラマを観ていない方にもわかりやすく解説する、鍼灸師から見た大河ドラマの施術シーン考証!

まずは周明が薬師(鍼医)だということを知ったまひろが驚くシーン(笑)。そしてお腹の不調を訴える藤原為時のお顔の望診から診察が始まります。これは顔の色艶を診ることで病の予後を知り、顔のパーツの様子を診ることで持って生まれた体質を推測しています。



次に舌を診ています。舌の色艶やかたちを診ることで、主に寒熱や津液(痰飲)の状態を推察しています。



この時代の宋の医学では舌診でどこまで診ていたかは定かではありませんが、少なくとも寒熱の様子くらいは診ているはずです。画質が悪いのではっきりしませんが、為時役の岸谷五郎さんの舌は血色も良く、案外健康的です(笑)。



そして脈診のシーンですが、患者である為時の左手の寸口脈診をしています。このことから、薬師の周明は脾胃の脈を中心とした脈診を行っていることが窺えます。
片手での脈診は中医学の特徴で、日本式の経絡治療では両手の寸口脈診を基本としますから、当然ながら周明は中医学を学んでいる鍼医だということがわかります。



指の当て方は手首に対して直角に診るのが正しいのですが、周明の指は斜めに当たっています。寸口、関上、尺中に正しく指が当たっているかというと、それもまた怪しい。これでは正しい脈診は出来ませんが、本職がドラマの描写にこと細かく文句を言うのは野暮なので、これはこれで良しとします(笑)。



鍼箱は二段になっており、一段目にはてい鍼(刺さない鍼)や三稜鍼(皮膚を切る鍼)など様々な種類の鍼が確認できますね。



そして二段目に豪鍼(一般的な治療鍼)が収められています。



うつ伏せの状態で施術を始めましたが、これにはふたつの理由が考えられます。ひとつは「陰病陽治」の考え方。これは陰の病(内臓疾患)は陽の部位(背部)から施術を始めるという原理原則によるものです。通常は仰向けで手足への本治法から施術を始めますが、前述の理由でうつ伏せの状態から施術を開始することは珍しくありません。



そしてもうひとつの理由は「消化器疾患への狭脊穴への施術」であるという点です。脾兪や胃兪への刺鍼かな?と思って観察していましたが、どうやら背部の足の太陽膀胱経の一行線より内側へ刺鍼しているように見えます。これはおそらく消化器疾患に対する狭脊穴(背骨のすぐ側)へのアプローチなのではないかと推測します。
そして胃腸疾患は急性のものや比較的病歴が浅いものほど背部の上の方に症状や所見が出やすいという特徴があります。肩甲骨の少し下あたりの狭脊穴に刺鍼しているように見えるため、為時の病状はまだ拗れてはおらず、病は比較的初期であると見立てたのだと思われます。



鍼管が発明されたのは日本で、江戸時代のこと。この時代の中国鍼は捻鍼法と言って、鍼を捻りながら直に刺す方法が一般的でした。そして中国鍼の特徴である鍼の響き、いわゆる「得気」を得ることが治療効果に繋がるという考え方があるため、針は比較的深くし刺入します。為時が唸り声を上げたのは、おそらく得気を得たという演出があるからです。



ちなみにですが、鍼の効果自体は響いても響かなくてもさほど変わりません。日本で発達した流派である経絡治療では、患者が得気を得るより術者側が「気が至る」感覚を得ることが大事だとされております。そのため日本式の鍼治療では極細の鍼を用いて痛みや強い響きを感じさせない心地良い施術を行います。中国鍼のように太い鍼を深く刺すことはありませんし、意図的に鍼を強く響かせることもありません。

「得気」と「気が至る」感覚、どちらを重視するかは中国大陸と日本の気候の違い、肌のキメの細かさの違いなどが関連しています。乾燥が激しい中国大陸で鍛えられた肌とは違い、高温多湿の日本の気候で生まれ育った我々日本人の肌はキメが細かく繊細であるため、比較的太い中国鍼で得られる強い刺激よりソフトで優しい極細の日本式の鍼刺激が日本人には合っているのではないでしょうか。

山をどこから登るかという問題と同じで、どのルート(治療法)で登っても頂上(回復)までは行けるわけです。中医学と経絡治療、どちらが良いかは個々の好みの問題も大きいと思います。
都会的で繊細な方は経絡治療、田舎に住む身体が強壮な方は中医学による鍼灸治療がお好みかも知れませんね。

・・・いや知らんけど(;^^)



為時は「良くなったやも知れぬ」「これが宋の医学なのか」と感嘆していましたが、物語の舞台である平安時代には既に朝廷の図書館には鍼灸や漢方(湯液)に関する本が数多く所属されていたそうですし、博学な為時が鍼灸のことを知らなかったとは考えにくいです。おそらく本を読んで鍼については知っていたものの、実際に鍼治療を受けるのは初めてだったのでしょうね。

そりゃ本職の鍼灸師の立場で見ればツッコミどころはあるものの、それを言うのは野暮というもの。概ねとても良く出来たシーンだったと思っています。
クレジットには「しんきゅう指導・周防一平」とありました。北里大学の先生なのでしょうか?NHKの医療監修は素晴らしいですね(^^)b



最後の最後で周明が流暢な日本語を話し、日本全国のお茶の間で「おまえ日本語しゃべれたんかーい」というツッコミの嵐だったのではないかと思われますが(笑)、鍼灸師としては周明がどこで鍼を学んだのかがとても気になるところです(;^^)

テレビで放送された次回予告での会話から、第23回では風邪に犯されたまひろが井穴刺絡をされるシーンがあるのではないかと思われます。こちらも放送後に考察をしますので、どんなシーンになっているか、乞うご期待(笑)。
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