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千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

“生命”の未来を変えた男~山中伸弥・iPS細胞革命~

2010-09-19 15:57:54 | Nonsense
ダンカン・ジョーンズの映画『月に囚われた男』は、地球に必要なエネルギー源を採掘するためにたった一人派遣させられた男、サムの物語である。3年の契約期間の任期が修了する2週間前、事故に遭遇したサムは自分しかいないはずの月で、もう一人の男に出会う。自分と全く同じ体格と同じ顔をした男サムに・・・。もう一人のサムはクローン人間。それでは、自分はいったい誰なのか。。。

毎度、映画でクローン人間を観るといつも違和感を感じるのは、或る日、突然、自分と同じ顔をした同じ年齢の、しかも記憶まで共有するクローン人間に遭遇することは、それこそタイムマシン制作クラスの、どんなに科学が進歩しても殆ど不可能な発明の成功以外にありえない。クローン人間とは、自分の一卵双生児なのだから、忽然と成人した人間をつくれるわけがないのである。もっとも『月の囚われた男』を派遣したルナ産業が、生まれたばかりのサムの頭髪から、ips細胞をつくってクローン人間を何体も密かに育成していたとしたら別なのだが。

そう、ips細胞だったら自分のコピーを何体も作れるばかりか、同性愛者のカップルとの間にこどもが誕生することもありえる。そんな近未来のSF小説を見るかのようだったのが、NHKスペシャル「“生命”の未来を変えた男~山中伸弥・iPS細胞革命~」だった。2006年、新聞の二面の片隅に掲載された山中伸弥教授のips細胞樹立の小さなニュースを見つけ時のインパクトを今でもはっきりと覚えている。「サイエンス」のような論文誌に掲載される発見が報道される中でも、これはあきらかに別格。「これが本当だったら、このセンセイ、ノーベル賞だな」とたまげたのだった。山中教授の写真が掲載されるには、まだ数日待たなければならなかったのだが、あれから4年、次々と世界的な賞を受賞した山中教授の論文と彼が生んだips細胞は世界中で利用されている。

さすがにNHKスペシャル、立花隆さんと国谷裕子キャスターという強力な聞き手を用意して、超多忙な山中教授をつかまえて5時間ものロングインタビューを行った。これはわかりやすく本にしてもよいのではないか、というくらい内容の濃い番組だった。山中教授がips細胞によってめざしているのは、「再生医療」と「創薬」である。人間の体は、200種類以上の60超個の細胞でできている。病気や怪我で損なわれた細胞を健康で元気な細胞を移植することによって復活する可能性がある。その基となるのがips細胞なのだが、番組では現実にips細胞からの治療を希望をもちながら待っている筋萎縮性側索硬化症の患者を紹介。ハーバード大学の研究室では、ips細胞を使って健康な神経細胞の発達に比較して、アルツハイマー患者では細胞そのものが消滅していく現象を見つけた。勿論、彼だけはなく、今や何千もの科学者がips細胞を利用して、パーキンソン病などの難病の解明や治療に役立てようと取り組んでいる。そこには、莫大な利益という報酬がぶらさがっているからだが、今回の番組ではそこにはあまりふれていなかった。

”山中ファクター”と呼ばれる4つの遺伝子を使って細胞を初期化、皮膚からとった細胞から別の臓器ができる可能性が生まれた。いみじくも立花隆さんが「不可逆の過程にヒトは生きていると思ったが、細胞が”タイムマシン”のようになる」とおっしゃたのは名言である。しかし、臓器再生も失敗すれば癌が発生し、脳に腫瘍ができて頭部が腫れた異様なマウスの画像も紹介される。そのためだろうか、山中氏の構想では、実用化にあたっては、全身に使うよりも薬を使う方法を考えているそうだ。今、一番のダーゲットは糖尿病。オーダーメイドの治療の時代がやってくるのも、そう時間がかからないかもしれない。

また慶応大学ではips細胞を使ってヒトの精子と卵子をつくる研究を学内の倫理審査委員会に申請したそうだが、米国では、男性同士のカップルがふたりの遺伝子をもつこどもの誕生に期待を寄せている。可能性としては、髪の毛だけでサムのこどもが大勢つくれる状況がやってくるかもしれない。大切なわが子を失った場合のコピーとしても?

患者にとっては福音をもたらすのips細胞だが、使い方次第では悪夢を生むのも諸刃の科学だ。当初、番組のタイトルは「パンドラの箱を開けた男」だったそうだが、確かにパンドラの箱を開けたのは山中教授だが、これでは開けてはいけないパンドラを開けてしまったというニュアンスの方が強くでてしまい、功績よりもマイナス面の方が大きくなってしまうから、それは山中教授に対して失礼ではないだろうか。
さて、番組ではなんとマウスとラットのキメラ動物も登場。一見、毛色がツートンカラーのただのねずみに見えるのだが、キメラだと説明されると妙に気持ちが悪いものである。山中氏は将来は豚を使ってヒトの内臓をつくることも考えているようだが、そこには非常に大きな倫理的な問題がある。あの国谷さんは顔をしかめて思わず首をふったのだが、立花氏は「怖いから止めましょうというと、日本はプリミティブな国になってしまう。ヒトと動物の混合について研究はやるべきだと思う。」とはっきり明言した。ヒトと動物の混合というと誤解を招きやすいが、別に豚の顔をした人間をつくるわけではない。立花さんが主張したいのは、「批判があっても、基礎研究はやらなければいけないことがものすごくある」ということだ。これには私も同感。

最後に山中教授は、再分化しても自己複製するプラナリアのように、人間にも復活する秘めたる能力があるかもしれない。そして研究者にもわかっていないことだらけで、実験や治験をありのままに受け入れた方がよいのではないだろうか。今まであきらめていたこともできるようになるのではないか、と語ってしめくった。
山中伸弥教授は、現在48歳になったばかり。いや、もう48歳なのか、と驚くくらい若々しい。番組の最後は、時間がもったいない、とエレベーターがくる前にリュックを担いで階段を早足で颯爽と一気にかけあがっていく姿が印象に残った。その姿には教授自身の研究活動が、激化する国際競争の中で世界最高をめざしてかけのぼる願いが重なってみえた。

■いろいろあったアーカイヴ
ES細胞のあらたなる研究成果
ips細胞開発の山中教授 引っ張りだこ
「ips細胞 ヒトはどこまで再生できるか?」

■その後、緊急出版されたそうだ
「生命の未来を変えた男」

「白熱教室」課外授業 雇われ助っ人の代理母

2010-09-12 22:29:58 | Nonsense
今月の3日、50歳を迎えた野田聖子議員が政治資金パーティの席で来年2月に出産することを発表した。胎児は、事実婚している7歳年下の男性と米国女性の提供された卵子の受精卵だそうだ。この猛暑の中、ビール党にも所属している野田さんは禁酒して、つわりすらも妊娠の喜びとして語っているそうだ。この諸々おめでたい報道で思い出したのが、大野和基氏の著書「代理出産」でも紹介されたベビーM事件である。マイケル・サンデル氏の「これからの『正義』の話をしよう」でも第4章、雇われ助っ人ー市場と論理で代理出産契約と正義ではベビーM事件がとりあげられている。

ベビーM事件の概要は、次のとおりになる。1985年メアリー・ベス・ホワイトがスターン夫妻と不妊センターを介して代理母となる契約を結んだ。胎児の精子はスターン氏で卵子と子宮はメアリー。(野田さんの場合は遺伝学的には胎児とは全く他人だが、妊娠、出産と育児の点では母親になる。)妊娠したら一切の薬の服用は禁止、羊水診断を受信して胎児に障害があった場合は中絶して報酬はなし。流産、死産には1000ドル。無事に健康なこどもを出産したら1万ドルの報酬とひきかえに親権を放棄して養子契約にサインをするというものだった。ところが、代理母が翌年3月に出産した女児の引渡しを拒否、赤ちゃんの養育権をめぐって裁判になり、ニュージャージー州上位裁判所では代理母契約を有効としてスターン夫妻に親権を認め、代理母には親権も養育権も認めず契約の履行を命じたが、最高裁では逆転して契約を無効とし父親をスターン氏、母親をメアリーとしてスターン氏の方に親としての適格性を認めたが彼女の訪問権を許可した。

マイケル・サンデル教授によると代理出産契約を支持する論拠として2種類の正義がある。リバタリズムと功利主義だ。ふたりの成人が合意した契約なのだから、それを支持することは彼らの自由を尊重することになる。一方、功利主義の観点からこのような契約を擁護するのは、契約が全体の幸福を促進しているからだ。誰にも迷惑をかけないし、双方にメリットがあり、お互いにハッピーになるからいいじゃないか。しかし、代理出産契約については、教授によるとふたつの反論がある。

反論その1:瑕疵ある同意
メアリー・ベス・ホワイトヘッドによる契約への同意が、本当に自発的なものと言えるのだろうか。不当な圧力、たとえば金銭的に困っていた場合は本当の意味での”自由な選択”が可能とはいえない。数年前、代理出産を依頼して双子の親となった日本人夫婦が話題となったが、この時の代理母の夫は2万ドルの負債を抱えて自己破産していた。自宅のローンも抱えていた彼女は完全に自由な選択として、代理母になることを望んでいたのだろうか。

反論その2:人を貶めることと、より高級なもの
人間は尊敬に値する存在であり、利用の対象ではない。赤ちゃんや妊娠をあたかも商品として扱うのはそれらを貶めることにつながる。道徳哲学者のエリザベス・アンダーソンによると代理出産は、こどもを愛情や世話に値する者として慈しむのではなく、利益をもたらす道具として利用していると反論している。尊敬に値する人間と自由に利用できる物体との違い、これらは道徳的な違いとしたのがカントだ。

その後のベビーM:かってベビーMとして知られたメリッサ・スターンは、最近ジョージ・ワシントン大学を卒業した。ベビーMちゃんの時代は、子宮と卵子のパッケージを買う必要があったが、現在では特定の遺伝形質をもつ卵子と特定の性格をもった女性の子宮を探すことが可能となった。代理母の供給も増えたが需要も増え、代理出産全体の費用は75000ドルから80000ドルと言われている。円高でよかった?経費を削減するならインドのアマンダへ行こう。費用は25000ドルで、現在、50人以上の女性が代理母として妊娠中。彼女たちの報酬は4500ドルから7500ドルだが、年収の15年分を超え、住宅購入資金や教育費になる。イギリス人夫婦に子宮を貸している26歳のスーマン・ドディアさんのメイド時代の賃金は、1ヶ月にわずか25ドルだった。「自分のこどもを妊娠した時よりも、ずっと気を遣っている」と話す彼女にとって経済的メリットは明らかだが、果たしてこれを自由と言えるのだろうか。

教授は問う。自由市場で我々が下す選択はどこまで自由なのか、そして、市場で評価されなくても、金では買えない美徳やより高級なものは存在するのだろうか。

□そう言えばのアーカイヴ
出産もインドに「アウトソーシング」
「代理出産」大野和基著
代理出産ビシネス

カストロとガルシア=マルケス 革命が結んだ友情

2010-08-13 16:58:46 | Nonsense
【カストロ前議長、84歳の誕生日を迎え再び表舞台に】
キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が13日、84歳の誕生日を迎えた。 フィデル前議長は2006年に腸の手術のため第一線を退いたが、最近になって度々公の場に姿を現し、健在ぶりをアピールしている。

キューバ政府は7月、同国のカトリック教会とスペインとの間で、フィデル・カストロ前議長時代に収監された52人の政治犯の釈放に合意した。この発表の数日前には、は国営テレビのインタビューの中で米国の外交政策を批判し、核戦争勃発の可能性を警告したが、政治犯の釈放や弟のラウル現議長の経済改革については触れなかった。
また、フィデル前議長は7日、トレードマークのオリーブグリーンの軍服を着て、国会で12分間の演説を行った。その際、前議長はいつも座る弟のラウル現議長の隣の席には座らず、リカルド・アラルコン議会議長の隣に座ったため、政権内の力関係や兄弟の関係についてさまざまな憶測を呼んだ。

未熟な経済、増え続ける借金、慢性的な品不足などさまざまな問題を抱えるキューバでは、ラウル議長が限定的ではあるが自由市場要素を取り入れつつある。しかしフィデル氏は国内問題についてはほとんど触れず、あくまで外交問題専門のコメンテーターに徹している。
ハバナ(CNN) 


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今日は、南米キューバ、フィデル・カストロ前国家評議会議長の誕生日。国会では定番のカーキ色のミリタリー・ファッションで登場して、彼にしてはとても短いわずか12分のスピーチをこなして健在ぶりをアピールした。カリブ海に浮かび別名”緑のオオトカゲ”は、この長身で野球が得意な議長が、長い政権を維持できた独裁者と、大国の米国からの支配に抵抗を続ける革命家という異なる肖像画の間でゆらめくように、その歴史も不思議な色合いを帯びている。

20世紀のラテン・アメリカが生んだ革命家のフィデル・カストロより、ほんの数ヶ月遅れて誕生し、同じくラテン・アメリカが生んだノーベル賞作家のガブリエル・ガルシア=カストロ(通称、ガボ)の友情を書いた「絆と権力 ガルシア=マルケスとカストロ」が話題をよんでいる。なじみのないラテン語の地名や人名に苦労しながらも私もようやく半分ほど読み終えたのだが、感想を文書化する前に情報誌「選択」で掲載されていた傑出したふたりの熱い友情の予告編を上映したい。

ふたりが本格的に出会う前に最も接近したのは、1948年4月コロンビアの首都ボコダで最有力大統領候補だったホルヘ・エリエセル・ガイタンが暗殺されて勃発したボダコソ事件だった。その日、ガイタンと会見する予定だった学生団の代表者カストロと無名の作家志望のガボは同じ大学の法学部に学ぶ学生、文学を愛好する政治家と権力に愛着する文豪が後に出会った時、カストロがボコダ騒動を回想してタイプライターを壊している男を目撃したエピソードを披露すると、ガボは作家らしく創意溢れる答えを返した。
「フィデロ、そのタイプライターの男は僕だ」

67年、こうしてカストロは「百年の孤独」で作家として成功したガボと、共通の「ボダコソ」の思い出を友情の原点と確認しあい、82年にガボがノーベル文学賞を受賞すると益々友情を深めていった。友情の深まりは、同時に作家としてのガボにその際立つ文才を政治家のように世界をかえる政治的な能力にかえる夢をもたらすようになった。ガボはカストロの密使としてコロンビアの二大ゲリラ組織とコロンビア政府との和平交渉を設定し、82年にはフランスのフランソワ・ミッテラン大統領とカストロの間を仲介して、キューバの獄中にいた詩人アルマンド・バジャダレスの釈放も実現させた。それにも関わらず、バジャダレスは米国に亡命するや恩人を「ガボにとってキューバは、礼賛する友人フィデルが持ち主の広大な荘園」と揶揄し、ガボをカストロの密告者と批判する。

そうは言っても、ガボはカストロとの友情の絆を大切にしながらもキューバの現体制を全面的に支持しているわけではない。「族長の秋」「迷路の将軍」の主人公にはカストロが反映されていると受け止められているが(実際、世界的ベストセラー「族長の秋」は長らくキューバでは出版されなかった)、権力者であってカストロではないというのが真相のようだ。しかし、大国と南米の大陸に浮かぶ島で起こった革命が、若者たちに唯一信じられる現象だったというガボの主張を考えれば、権力好きだけでは説明できないカストロへの忠誠と友情もうなずける。

文学大好きカストロは「ラテンアメリカでは作家はフィクションをさほど必要としない。現実が虚構をはるかに凌いでいるからだ。(中略)ガボは私に、来世はガボのような作家になりたいと思わせた」とコロンビア人作家を讃えると、ガボは2006年に倒れたカストロに「フィデルにとって生きる最大の刺激は危機に立ち向かう情熱であり、閃きで危機に即座に対応する」としながらも「仕事を覚えるのと同様に大切なのは休むのを学ぶこと」と休養をすすめた。このアドバイスがきいたのだろうか、カストロは大手術をのりこえて復活した。
キューバの詩人にこんな歌がある。

 もしも宝石箱から
 最高の宝石を選べと言われたら、
 私は誠実な友を選び
 愛は脇に置いておく

ガボは、もしフィデルが自分より先に死んだなら、カリブ海の真珠とも言われるキューバを二度と訪れるつもりはないそうだ。
「実際、あの島は、ひとつの友情の風景のようなものなのだ」と。

今年も「家庭面の一世紀」より

2010-08-11 23:41:57 | Nonsense
読売新聞の夏の定番シリーズなのか。今年も昨年に続き「家庭面の一世紀」が不定期で連載されている。(今年は「女性と戦争」がテーマ)
中でも7月31日に掲載されている「”軍神の母”求める声高く」は女性として母としても悲しい・・・。

そもそも”軍神”とは何のこっちゃと思ったのだが、記事によると輝かしい武功をたてた戦死者の尊称だそうだ。国のため懸命に戦って華々しい成果を出すのは勿論なのだが、”戦死”して初めて戦士は”神”になれる。当時、真珠湾攻撃で戦死した”九軍神”や”空の軍神”の加藤少将は誰もが知っている神だった。彼らのようなりっぱな働きをした軍神の生家を国民学校(小学校)の校長と少年が訪問する「軍神敬頌派遣団」が発足され、そこで学んだことを校長たちが座談会形式で語った記事が昭和17年から読売新聞家庭面で連載された。

タイトルも「軍神に学ぶ」。
連載にある大尉の話が紹介された。
「(大尉が)『お母さんもし私が死んでもお母さんは泣きはしないでしょうね』と尋ねたところ、『泣くものですか。手柄をたてて死んだのだったら涙ひとつ出しません』と言われ、大尉は涙を流して喜ばれたということであります」

職業軍人が職務を全うするところに美しさはある。また、有事に際し、死を覚悟することもあるだろう。しかし、必ず生きて帰ってくることことよりも、たとえ死しても国のために手柄をたてることの方が優先されるのがこの国である。ここでも個人主義よりも全体主義の思想、国民性が反映されていて、現代に至るまでもカイシャという全体主義につながっていると考えられる。大尉の母は軍人にとって理想の母なのかも知れないが、おおかたの母親の本音とも思えない。

この時期、新聞にはこのような母を礼賛さる記事が1面から社会面まで!掲載された。同年の4月の2面には「良き母あれば戦争は勝つ」という今では論拠のない大見出しが踊る。「日本の兵士が大君の御盾となって散ってゆけるのも、心の網膜にやさしい母のまなざしが生き生きと輝き、慈母観音のように見守っていてくれるからだ」と海軍大佐が語る。慈母観音をひきあいにだし、母を絶対的な存在に位置づけて母が国のために死になさいということで、子は安心して死んでいけるという論調が続くようになる。新聞、マスコミが総力をあげて母親の愛まで動員して戦場へ向かう決意を鼓舞するのはどこのお国でも同じかもしれないが、自分のこどもは陛下からお預かり申し上げているという信念をうえつけるのは我が国の決定的な違いである。翌年には、日本の女子教育の伝統回復の記事も掲載され、女性の高等教育と婦人参政権論者は批判された。

「軍神の母」を求めるのは男性である。この頃から女性の論者は家庭面から姿を消して、男性ばかりの意見が掲載されるようになった。男性優位の圧力に女性の意見は押さえ込まれた。日比谷公会堂で開かれた九軍神とその母をたたえる会では、集まった3000人の女性は泣いたそうだ。

昨年の「家庭面の一世紀」より100年前の婦人の貞操論

「カラヴァッジョ」と「ハーツ・アンド・マインズ」

2010-06-18 23:49:20 | Nonsense
洪水のような大量の情報の渦の中でおぼれかけつつ、まさに自分が興味と関心をもっていたことに関わる事柄や事件が、まるであらかじめ”自分のために”用意されたかのようにあらわれることがある。こんなことはおそらく誰にでも経験があるのだろうが、朝刊と夕刊で気になった話題をふたつ。

【カラバッジョ】
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伊バロックの巨匠カラバッジョ、遺骨ほぼ特定
イタリアの専門家グループは16日、同国の画家カラバッジョ(本名・ミケランジェロ・メリジ、1571~1610)の遺骨をほぼ特定した、と発表した。
伊ANSA通信などが伝えた。伊中部で昨年見つかった人骨をDNA鑑定したもので、これまで謎とされてきたバロックの巨匠の埋葬地が没後400年を経て、確認されたことになる。
この人骨は、カラバッジョが死去したとされる伊中部トスカーナ州ポルトエルコレの地下聖堂で発見された頭骨や大腿(だいたい)骨など。伊ボローニャ大の人類学者らは今年に入って、カラバッジョの出身地の伊北部で、血縁者とみられる「メリジ」姓の住民のDNAを採取、人骨と照合した結果、共通性を確認した。人骨からは、バロック期の顔料に含まれていた水銀や鉛が高濃度で検出され、炭素同位体による年代測定でも没年の1610年前後のものと判明。人骨のDNAの劣化で完全な証明はできないが、「85%の確率」で本物と確認できたという。ただ、暗殺や病死など諸説ある死因については、特定できなかった。


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春にアンジェロ・ロンゴーニ監督による映画『カラヴァッジョ』を観てから、すっかりこのバロック時代の天才画家に魅せられた。血と暴力に満ちた文字通り波乱万丈の人生の軌跡にも驚かされたが、やはり作品から感じられる敬虔で深い精神性に満ちた魂にこそこの画家の最大の特徴であろう。粗暴で野卑な行動と高潔で深い精神の矛盾は、現代のカラヴァッジョ研究の隆盛に向かっているとは宮下規久朗氏の著書「カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン」でもふれられていたが、本国のイタリアではとうとう遺骨発掘捜査活動まで行われていたのかっ。もっともカラヴァッジョがポルト・エレコレで亡くなったのは事実であり、遺骨から死因が特定できないのであれば、これまでのカラヴァッジョ研究に今回の発見はそれほどの貢献はないものと思われる。ご苦労なことだ。

・・・がっ、もっとおろろいたのが、あの女性問題がらみのスキャンダル大統領のイタリア、ベルルスコーニ首相が、1600~01年に制作されたカラヴァッジョの「聖パウロの回心」を購入するというニュースだ。作品はローマのオデスカルキ家が所蔵し、保存状態も非常に良好で宮下規久朗鑑定団によるとこのお宝はまず100億円はくだらないだろうということだ。大富豪でもあるベルルスコーニ首相の資産は米経済誌フォーブスによると90億ドル(約8200億円)で、この作品に1億ユーロ(約112億円)以上を提示しているそうだ。もし首相が1億ユーロでこの絵画を購入できたらとても幸福だろう。しかし、回心が必要なのはベルルスコーニ氏ではないかと考え、つらつら回心が改悛、首相の顔を思い浮かべたら”回春”といただけない連想になってしまった。

そして夕刊の映画の話題で見過ごしてしまいそうな小さな記事で紹介されていたのが映画『ハーツ・アンド・マインズ』である。

【ハーツ・アンド・マインズ(心と精神)】

そもそも1975年のアカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したこの映画を知らなかった。何もアカデミー賞受賞という権威で本作に価値を認める気持ちはさらさらないが、今愛読している「深代淳郎の天声人語」(昭和50年8月23日の「天声人語」掲載分)にこの映画の感想が書かかれている。タイトルは「恥ずかしい国」で、欧米では一般に公開されている映画が採算がとれないという理由で日本では公開されないことに深代氏は苦言を呈している。怒りの対象は、映画配給会社ではなく我々日本人である。

「一時あれほでベトナム反戦で燃え上がった日本で、お客がこないとはどういうことだ」と。

そう、この映画はベトナム戦争を俯瞰でとらえた記録映画である。日本では劇場で未公開だったが試写を観る機会があった深代氏の名文をもう少し紹介しよう。

「評判にたがわず、見事な映画だった。全編は記録映画だけであり、余計な注釈も解説もない。人間の情緒ではなく知性に訴えて、この映画は感動を誘いだす。「ベトナム戦争」とは、米国の中の闘いであり、各人の良心との格闘であったことを教えてくれた。」

わずか3年弱の短い期間に、朝日新聞誌上に奇跡のような珠玉の「天声人語」を産みだした最高の名文家、深代氏が唯一とりあげたこの映画を観たい!と思ったら、東京では2010年6月19日(土)~7月16日(金) 東京都写真美術館で上映される。偶然とはいえ、不思議な気持ちがする。

満身創痍の「はやぶさ」が帰ってくる

2010-06-08 23:15:11 | Nonsense
宇宙航空研究開発機構は5日、小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還が確定したと発表した。

軌道調整のエンジン噴射がほぼ完了した。燃料漏れや通信途絶、エンジン故障など度重なるトラブルを乗り越え、60億キロ・メートルを旅してきた探査機は、日本時間13日午後11時ごろ、大気圏へ突入し、試料カプセルがオーストラリアのウーメラ砂漠に落下する。
月より遠い天体に着陸し、地球へ戻るのは世界初。カプセルには、小惑星イトカワの砂などが入っている可能性があり、太陽系初期の様子を知る貴重な手がかりとして期待されている。

はやぶさは、3日午前から50時間連続して噴射し、ウーメラ砂漠へ向かう軌道に入った。地球からの距離は現在約360万キロ。宇宙機構は、微修正の最終噴射を9日に行い、2000平方キロ・メートルの落下予定範囲へと正確に導く。カプセルは、パラシュートを開いて砂漠に着陸する。カプセルが出す電波を頼りに回収隊が捜索する。はやぶさ本体は、地球まで4万キロ・メートルのところでカプセルを分離した後、自らも大気圏へ突入し、燃え尽きる。

はやぶさは2003年5月に地球を出発、05年11月にイトカワに着陸し、砂などの採取を試みた。エンジンの大半が故障し、「満身創痍(そうい)」の状態で飛行を続けている。(2010年6月6日 読売新聞)

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女の日々は多忙である。仕事、買物、読書、映画鑑賞に音楽鑑賞、旅行の準備、、、とそのあいまにハートを周囲にふりまき、気がつけば「はやぶさ」と「イトカワ」の天使の距離をブログにアップしたのは、今から5年も前の話。一時は行方不明だの、帰還は絶望的かと心配しつつすっかり忘れた感のあった「はやぶさ」だがようやく!いよいよ地球に帰って来ることになった。
「放蕩息子の帰還」並みに「はやぶさ」は満身創痍のぼろぼろ状態らしいが、カプセルには「イトカワ」の砂が入っていると期待される。本当に楽しみだ。

■こんなアーカイヴも
「はやぶさ」と「イトカワ」の天使の距離
「やんちゃな独創」糸川英夫伝

Googleの中国撤退

2010-05-24 23:50:47 | Nonsense
2009年12月25日、北京市第一中級人民法院(地裁)は、反体制作家・劉 暁波氏に国家政権転覆扇動罪で懲役11年の判決を言い渡した。
その主な罪状は、08年12月9日にインターネット上に発表された「08憲章」を中心になって起草したことによる。この08憲章とは、共産党の独裁体制を批判して、民主主義への移行、言論の自由や人権擁護などを訴える内容で、知識人や作家、大学教授ら303人が署名して、発表後の4日間で約7000人もの人々が署名していたにも関わらず、その後、あらゆる削除から徹底的に削除された。

08憲章は、本来、世界人権デーの12月10日に発表する予定だったのが、一日繰り上がったのも劉 暁波氏の公安局による身柄逮捕にある。劉氏は発表後に身柄を拘束されるのは覚悟していたそうだが、細心の注意をはらい極秘にすすめていたXデーの前日に連行されたことには、別の衝撃がある。今回署名した多くの人々が利用していたのが、ユーザーの秘密保護で評価の高いGメールだった。Gメールから08憲章計画がもれたという証拠はないが、Gメールを利用する知識人や民主活動家へのハッカー攻撃が頻発していたこと、そして劉 暁波氏への重すぎる判決にGoogleが中国から撤退した理由がありそうだ。

中国政府は、ネットの普及を奨励しながら、監視システムの整備も怠らなかった。”有害情報”を阻止する金盾プロジェクトには、ハード・ソフトの両面からチェックを行い、その運用人数も5~10万人にも及ぶというからそら恐ろしい。その成果は、天安門事件、民主化、人権運動の単語や人名が検閲で網羅され、体制や指導者への批判は禁句。ユーチューブもアクセス不能というありさまだ。その一方で、ネット世論のプロバガンダも推進している。ネット情報員とネット評論員を全国に設置して、党の指導のもと、党の意向をくんだ書き込みをする報酬が、1本あたり5角(7円)。そのおかげで言論の自由を推進していたはずのGoogleが、いつのまにか「米国の価値観の宣伝道具」になってしまった。

ことは、一外国企業の問題なのか、米中のサイバー覇権にまで及ぶのか。中国側はGoogleに中国でやりたいのは、ビジネスか政治かと問いただし、ビジネスだと答えるとそれなら他の外国企業と同じように中国の国内法に従うよう交渉したそうだ。その結果の中国市場からの撤退とあいなった。そこには、「核のない世界をめざす」オバマ政権の中国との協調路線の思惑から米政府のバックボーンがえられないとの観測もある。ネットを制するものは、世界を制するのか。
ただ私は、イーユン・リー著の「さすらう者たち」で娘が処刑される朝、「何かを書いたからって、あの子が死ななきゃならないなんて」と声を押し殺しながら泣く母の心情を思う。

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(ニュースサイトより)
米国と中国は13日、2年ぶりとなる人権対話をワシントンで再開した。2日間にわたって、宗教や表現の自由などの諸課題を非公開で話し合う予定。中国当局による検閲などを理由に米インターネット検索大手グーグルが中国本土から撤退した問題なども議題になるとみられる。
人権対話は昨年11月の米中首脳会談で今年2月までの再開が合意されていた。しかし、米国による台湾への武器売却決定に加え、オバマ大統領が2月にチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世と会談したことに中国側が反発、実施が先延ばしとなっていた。
13日の対話には米国からポズナー国務次官補(民主主義・人権・労働担当)、中国からは陳旭外務省国際局長が出席している。クローリー米国務次官補(広報担当)は声明で、「率直かつ突っ込んだ議論を期待している」と米中関係の進展に期待感を表明した。
2日間の対話で米国は、チベット問題や中国政府による人権派弁護士など民主活動家の弾圧にも言及するもようだ。

ノーベル賞よりも億万長者(ビリオネラ)

2010-05-20 22:31:57 | Nonsense
You can not get wealthy by salary.

今や売れっ子の分子生物学者の福岡伸一氏が、90年代初めにハーバード大学で研究員をしていた時に、ボスのジョージ・シーリー博士からこう言われたそうだ。福岡氏のサイエンス・エッセイ「動的平衡」のプロローグはこのようにはじまる。エピローグのジョージ・シーリー博士のわずか10ページの物語は、私の心に落葉樹を渡るようなしめやかな風をもたらした。

ハーバード大学と言ったら世界で最も有名な大学であり、毎年大学ランキング1位に輝く大学である。シーリー博士の師匠は、ロックフェラー大学で細胞内タンパク質が規則正しく移動する経路とメカニズムを明らかにした研究成果により、74年ノーベル医学・生理学賞を受賞。また兄弟子にあたるギュンター・ブローベルは、その研究をさらに発展させてタンパク質が細胞から外部へ分泌される機構について研究を進めて、分泌されるタンパク質にはシグナル配列という特殊な構造をもっていて、それが荷札として識別されて細胞内にとどまるタンパク質と外に分泌されるタンパク質を仕分ける研究で99年にノーベル賞受賞。ふたりのノーベル賞受賞に寄与したシーリー博士の業績は、人がうらやむくらいに優れていた。事実、研究者の競争に勝ち抜いてハーバードで自分の研究室をもつようになった。

ところが米国の場合、大学と研究者の関係は貸しビルとテナント店舗の関係である。研究者は、米国の厚生省にあたるNIHに研究費を申請したりして、研究予算をぶんどってくるしかない。その中からポスドクまで含めて給与を支払い、ショバ代を大学に納めることになる。ハーバードのような超一等地の貸しビルは激戦地区。福岡氏がいたほんの数年でさえ研究者の転出、転入が繰り返されたそうだ。終わりなき研究費獲得競争に疲弊したシーリー博士は、93年、ハーバード大学医学部のポストを辞して、なんとベンチャー企業をたちあげた。当時、福岡氏とともに研究していた遺伝子データを基本特許に薬品開発につなげる化合物をほりあてるのが、起業の目標だった。とは言っても、本音は営利目的の企業の収益は、本来の研究のための基礎研究の受け皿として必要だったからだ。しかも博士によると、これまで免許とりたての博士は、ポスドクという修行時代を経て、大学に職を求めていたが、最近のポスドクは大学の二倍の報酬にひかれて、またストックオプションをえるためにもベンチャー企業に流れているそうだ。
彼らのスローガンは
「ノーベル賞よりも億万長者」

2000年6月、福岡氏は米国中の知性と富が集まる米国西海岸の小さな町ラ・ホイア(スペイン語で「宝石」を意味する)にあるシーリー氏のベンチャー企業を訪問してインタビューをした。ソーク生物研究所など超一流の研究教育機関が集まるラ・ホイア。青い空、太陽、潮風。そこはまた新しい技術を生み出すセンター・オブ・エクセレンスとしても機能する町だった。福岡氏も共同研究に携わり特許もとったフレックスという技術をつかって完全長遺伝子のコレクションを組織ごとにはじめて遺伝子の在庫を約500万個を保管しているアルファ・ジーン社は、順調そうにみえる。もし会社が上場されたら博士はどれくらいお金持ちになるのか、という質問に秘密だが9桁を期待しているとうちあけた。

世界初のバイオ企業ジェネンテック社が設立されたのは今から30年ほど前。同社の株が公開されるやいなや、研究者たちは一夜にして億万長者となった。福岡氏も共同開発者のひとりとしてアルファ・ジーン社の初期株式25万株ほど分けていただいていたそうだ。しかし、星の数ほど勃興したバイオ関連企業で実際に成功したのは数万社のうちほんの5社にも満たない。しばらく健闘していた同社も、ほどなく投資家からの支援が途絶えて流れ星となって燃え尽きていった。勿論、福岡氏の株式もただの紙くずとなった。生命現象を扱う研究が、そもそも商売として成り立つのか。基礎研究のための熾烈な研究費獲得の戦いに何の意味があるのか。

インタビューしたその日、福岡氏はシーリー博士のオフィスの棚に人目にふれないようヴァリアムの小瓶がおかれていることに気がついた。ヴァリアムは精神安定剤である。
現在、全く別の人生を歩くシーリー博士が、アルファ・ジ-ン社の興亡を語るまでには傷が癒されていないそうだ。

コンサバ化する女子学生たち

2010-04-25 15:59:10 | Nonsense
もうとっくにお蔵入りになっている話題だが、当代随一の美形歌舞伎役者と民放アナウンサーの婚約記者会見の報道写真を見て考えさせられるものがあった。
歌舞伎の中の”名門”という意味が私にはよくわからないのだが、名門とうたわれる梨園の若旦那、人気役者と、(私はユーチューブで初めて拝見したのだが)とてもとても美しく清楚なニュースキャスターの女性が並んだお写真は、おふたりの芸能界でのゴージャスな”大物感”と”高級感”のオーラがまばしいくらいに感じた。このように金屏風を背負って、歌舞伎役者らしい紋付袴、辻が花染の総絞りの振り袖、興奮気味の報道人にいやみなく披露する左手薬指の3.3カラットのダイヤモンドの婚約指輪は、閉塞感だたよう日本で久々にあかるい話題だった。歌舞伎役者との婚約で、ひとくくりに女子アナと芸のないタレント並み扱いだった彼女も、「小林麻央さん」になりちょっとした皇室の方クラスの昇格だと思われる。
麻央さんのブログを訪問してあらためて感じたのだが、彼女は単に容姿が美しいだけでなくいかにも良家のお嬢様らしいファッション、決してとがった先端の服やチープなファストファッションを着ることなく、上質だがいかにも高そうなブランドものでもなく誰からも好感がもてるコンサバ系。髪型もそれにふさわしくショートでもロングでもない肩にかかるくらいの長さでゆるくウエーヴがかかっている。歌舞伎界きってのモテモテ男のプレイボーイを見事に陥落させた「おっとりとして、それでいてきちんとしたお嬢様」の求心力の大きさをまさしく見せつけられたと感じる女性が多かったのではないだろうか。

精神科医の香山リカさんが、おふたりの婚約報道を次のように分析している。
自己主張の強いイメージのある女優たちと浮名を流した海老蔵さんの落ち着き先が控えめな麻央さんだったことから、マスコミはふたりの恋を美しく語り、「結局、男性はこういう女性を選ぶ」と暗に示す。すると結婚願望の強い女性は、「やっぱりね」とコンサバキャラに走り出す。香山さんは精神科医として勤務のかたわら、女子に人気ある某私大の心理学部で講義をされてもいるのだが、ここ数年で女子学生はすっかり保守化しているそうだ。専業主婦志向が強く、せっかく総合職につける能力がありながら「それじゃモテないから」という理由だけで、一般職に腰掛就職しようとする女子学生も少なくないとのこと。しかし、今の時代、そもそも正規社員で働ける一般職の椅子などあるのだろうか。女子大生の企業での雇用体型は、エリア型、もしくは地域型の”総合職”で、従来からの一般事務のお仕事は派遣社員が担っているのではないだろうか。歌舞伎の世界で求められる妻像は、職種の関係で万事控えめで夫を支えられる保守的な女性でなければいけないから、今回の海老蔵さんの選択を一概に世の中の男たちの好みに当てはめるわけにはいかないとは思うのだが、リカさんの意見でもっともだと思ったのが、「そのときどきにメディアが流す”トレンド”に振り回されるのは危険だ」ということだ。

しかし、トレンドはともかく、今時の若者の保守化もそれなりに理由がありそうだ。
勤務先の女性社員たちを遠くから眺めていて思うのだが、一般職から転勤のない総合職への転換に伴い、当然ながら仕事への責任や求められる役割が重くなっている。不景気でぎりぎりの人員体制で、正社員から派遣社員へのシフト、いつやめられるかわからない非正規社員に囲まれて、結婚、子育てとの両立はなかなか厳しいと思われる。かくして、仕事もでき人柄もよい女性は、次々と結婚して退職していく。残っているのは・・・。

人気モデルの田波涼子さんがファッション雑誌でそのおしゃれな暮らしぶりを写真とともに紹介する記事でコメントも掲載されていたのだが、「主人の好みは・・・、主人が・・・・」と、夫をしきりにたてる良妻イメージの演出が伝わってきた。そういう雑誌ではないぞ、とも思ったのだが、素敵な彼女の口から夫よりも”主人”という名称が出てくるところで生活のクラスの高級感がアップしている。結婚が永久就職と言われたのは、昭和の時代でおわった。離婚も増えたし。とはいえ、こんな厳しい時代では、専業主婦はひとつのこころがやすらぐという意味では安定した就職先にみえてくる女子学生にも同情するものもる。

そんな女の子たちを養わなけれいけない男たちも大変だ。
山田昌弘さんがその著書「なぜ若者は保守化するのか」で、フランスの経営大学院の日本視察団と、日仏の労働状況について懇談したそうだ。
彼らは日本の最低賃金を聞いて驚き、また、200万人を超すフリーター数を聞いて驚いたそうだ。「そんな賃金ではまともな暮らしができないではないか、どうして日本の低収入の若者はデモや暴動を起こさないんだ」と山田さんに質問してきた。私が日本の若者は学卒後も親と同居して生活を支えてもらっているから低収入でも暮らしていけるというと、「日本の経営者がうらやましい。母国語を話せて文句も言わない若者がそんなに低賃金で雇えるんだ」と言っていた。
非婚率が高くなるのも道理。