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コルネリア(ルミニツァ・ゲオルギウ)は、いらだちながら一人息子バルブ(ボクダン・トゥミトラケ)が同棲している恋人の不満を口にする。お相手のカルメンは、離婚暦があるだけでなく、別れた夫との間には娘もいるという。
私の職場には、偶然なのだが一人息子のママたちが多い。彼女たちの一人息子にかける情熱を思い出しながら、一心に育てた大事な一人息子が美しく若いお嬢さまならともかく、こんな女に奪われてしまうのかっ。と、つい、コルネリアの嘆きもわかるような気がしてくるのだが、そんな背が低いが華やかで金髪の母親を否定するかのように、息子が選んだ恋人は彼女と正反対の表情に乏しく黒髪でやせてひょろりとした容姿というのも意味深い。
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そこへ届いた一本の電話。息子が交通事故を起こし、はねてしまった少年は亡くなったという。
人は、ルーマニアというと何を連想するのだろうか。世界遺産があって薔薇が美しい国。私にとってのルーマニアは、大崎善生さんの小説「ドナウよ、静かに流れよ」やノーベル文学賞を受賞したヘルター・ミュラーの「狙われたキツネ」、そして映画『4ヶ月、3週と2日』や『汚れなき祈り』からの印象が描く世界である。一言で言って、暗く貧しく、いつまでも悲しい国。
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ところで、母親としてのふるまいの是非や子育て論を、この映画から展開するのは見当違いであろう。映画の核は、邦題のタイトルである「私の、息子」ただそれだけである。育て方が間違っていようが、子離れできない母親であろうが、母親にとっては永遠に「私の、息子」なのである。先日、身内の者に頼まれて彼女の一人息子を連れてドイツに行ってきたばかりなのだが、中学生の彼のスーツケースを開けると、滞在日数ごとに着る服が清潔にきちんとセットされているのを見て、母親の愛情を感じたばかりだ。彼がメールをすると、日本が真夜中だろうが母親から速攻で返信がかえってきた。かくも深き、大事な一人息子への愛。と話題にしたいところだが、今後、彼が親離れして寂しくなっても、決して「だから、こどもは2人作るべきだ」とは、たとえ身内でも言ってはいけないことだ。
どこの国でもみかける母と息子という何度も繰り返されるテーマーも、ルーマニアを舞台にするとかくも深遠で見ごたえのある作品にしあがるのか。地味で渋いこんな作品に、ベルリン国際映画祭は金熊賞を授与した。
監督:カリン・ペーター・ネッツアー
2013年ルーマニア製作