千の天使がバスケットボールする

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映画「小さいおうち」

2020-03-08 15:44:01 | Movie
吉岡秀隆さんが恋愛映画の相手役って、、、マジっすかっ?
確かに、彼が現代日本を代表する名優であることには全く異論はございませぬ。
しかし、しかしですよ、そうは言っても吉岡さんの名優の軌跡にうかぶ「北の国から」の純や「男はつらいよ」の満男。何となく優柔不断で頼りなくも情けない男子。いまひとつ、恋愛映画の男としての魅力に欠けてないか。しかも青年なのに、もう40代だよね。
そんなわけでいまひとつモチベーションにかけていた映画「小さいおうち」を鑑賞。
物語は、ひとりの老いた女性タキの葬儀と彼女の回想からはじまる。雪深い田舎から上京してきた布宮タキ(黒木華)は、郊外の赤い三角屋根の小さなおうちで女中として働くことになる。当時の中産階級では、自宅に住み込みの女中をおくのは一般的だった。主人は、玩具会社の役員の平井雅樹(片岡孝太郎)と妻の時子(松たか子)に息子の恭一。まだのどかで平和な日々だったが、昭和11年正月のこと。ひとりの新入社員の青年が、挨拶に赤い三角屋根のちいさなおうちを訪問する。商売ともうすぐ開幕する東京オリンピックに向けて勇ましい談笑が続く応接間の雰囲気から、ひとり浮いているその人は芸大出身のデザイナーの板倉正治(吉岡秀隆)。男たちの威勢の良い会話からぬけた板倉と時子は、指揮者ストコフスキーと彼が出演した映画「オーケストラの少女」で意気投合して心を通わせていくのだったが、戦争の軍靴の音ともに時世も変わっていき、やがて・・・。
しばらく恋愛映画にご無沙汰していた私の心を潤し、気が付けば遠く過ぎ去った想いに涙を流していたではないか。山田洋次監督の抜群のキャスティングに感嘆させられた。吉岡さんだけでなく、物語の登場人物の推測年齢よりはずっと年上の俳優ばかりがキャスティングされているのだが、違和感なく、それぞれがとても良い味を醸し出している。今時のテレビドラマとは別格の豊かな世界が映画にはある。女中タキの日々の丁寧な手仕事に平和であたたかい暮らしぶりを感じ、小さいおうちの、小さいながら、小さいからこそ、文化的で密やかながら情熱的な思いが、赤い三角屋根に象徴されている。
但し、この映画は万人向けではない。私にとっては、5つ★の映画なのだが、感性に合わない方には、本作の真価を理解できないかもしれない。

原作は未読だが、渡辺淳一さんの批評によると恋愛にはそれほど比重がないらしい。ただ、戦争がはじまり戦局の悪化とともに人々の心は変わっていく。いや、正確には変わっていく人が多勢で、なかにはお国の言うことに従うことが正義で他人に“正論”をふりかざし攻撃的になっていく人もいる。近頃の新型コロナウィルス騒動の世の中の風潮に、不図、この映画を製作した山田監督の反戦の思いに触れたような気がする。
果たしてサントリーホールでのコンサートまで中止にする必要があったのか、こんな時こそ文化や芸術が大事だと、けれども何となくそんなことを大きな声で言えない雰囲気を感じているのは私だけだろうか。
板倉の下宿先の階段を登る時子役の松たか子さんの、着物の裾からのぞく白い足に日本女性の色気を感じ、一瞬躊躇する彼女を自室に招きいれる板倉の腕がとても清潔で美しかった。誰が何と言っても、本作の重要な板垣役を演じられるのは、吉岡さんしかいないのである。顔よし!スタイルよし!、それで演技力抜群の若手俳優がめじろ押しの中で、この役を清潔感と存在感があり、こだわりの強い女子が入り込める“恋愛映画”にできるのは、やはり彼しかいないのである。

原作:「小さいおうち」中島京子著
監督:山田洋次
出演:松たか子 吉岡秀隆
2014年製作

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