お久しぶりにテレビで最初に映った五嶋みどりさんのアップのお顔に、思わず”ふつうのおばさん”になったな~!っ、とまっさきにもらしてしまったのが、正直な私の感想。世界的なヴァイオリニスト、本当に世界の第一線で活躍している五嶋みどりさんは、11歳でデビューして今年で30周年を迎えたことを記念に、『五嶋みどりデビュー30周年特別プロジェクト』として全国のツアーを行った。ご本人曰く、復興・平和への願い、感謝の気持ちを込めて、将来にわたり継承していく文化財である世界遺産に登録された寺社・教会を中心に、日本全国で、バッハ作曲「無伴奏ソナタ&パルティータ」全曲演奏に取り組む企画だそうだ。今夜は、その模様をドキュメンタリー番組として放映された。
まず最初のツアーの会場、長崎県の五島列島にある青砂ヶ浦天主堂でのコンサートの模様を映す。離島という地形のために、この地では生のクラシック音楽を聴く機会が殆どないそうだ。小さなお子さんからお年寄りの方まで、それほど広くない堂内に普段着のTシャツでバッハの音楽に耳を傾けている。ヴィブラートをおさえ、弓を短めにもって一心不乱にバッハが演奏される。厳しさの中にも崇高で、これぞバッハ!という音楽に、会場の観客はどんな印象をもたれたのだろうか、ちょっときいてみたい気がする。
ツアーの会場は、他にも京都の西本願寺対面所、太宰府天満宮、善光寺本堂、日光東照宮本殿、平泉中尊寺本堂、函館カトリック元町教会など、日本を代表するような歴史ある場所でもあり祈りの場でもある。特に西本願寺の対面所の前にある能舞台は国宝だが、五嶋みどりさんだからと特別に使用許可されたそうだ。通常の音楽専用ホールとは全く異なり、ある時はバッハの旋律にせみの声が重なり、又、ある時には雨の音がバッハの音楽にとけこんでいく。自然、生命と音楽。みどりさんのシルバーのドレスにも戸外の夏の盛りの木々の緑が映えて淡いグリーンに染まっている。
番組は演奏している姿だけでなく、移動中の素顔のみどりさんも追っている。移動は公共の乗り物、地味で簡素な服装、宿泊ホテルはビジネスホテル。いつでも億単位のヴァイオリンを手離さず、背負っている楽器の金額に反比例するかのように予想外に質素な暮らしぶりに驚いたのは私だけではなかった。
「いつもビジネスホテルに泊まるのですか。」
思わずたずねるテレビ側の人の質問に、淡々とそうだと答え、できるだけ自分で移動して、自分の荷物は自分で持ち、洗濯物のランドリーに出さずに自分で洗濯すると答えるみどりさん。実際、ホテルの前にあるコイン・ランドリーで、夜、洗濯しているみどりさんの年齢相応の平凡な中年女性の後姿が映る。
現在、みどりさんは南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校弦楽学部で学部長もつとめている。ホテルのロビーで大学図書館に購入希望の楽譜を優先順位をつけてリストアップするみどりさんに、大変ですねと声をかけられると、これが私の仕事なのです、ときっぱりと微笑む。ツアーの途中でも、半年先のコンサートで弾く曲の練習に余念がなく、あいまにテレビ局や雑誌のインタビューが入り、とても多忙な日々が続く。
一般的に五嶋みどりさんクラスのヴァイオリニストになれば、高価なドレスに身を包み、移動はファーストクラス、美食で高級レストランの常連というイメージがつきまとう。しかし、みどりさんはそんな華やかなイメージと自分が理想とする音楽家のイメージとのギャップに悩み苦しんだそうだ。20代になり、一時拒食症になり、音楽好きの人の間では、再起不能なのかとひそかにささやかれたこともあった。しかし、彼女はそれを克服して自分の道を歩む決意をして、音楽家になることも決めたという。そして、こどもの頃からの旅から旅へのツアー生活が続く。今日も、明日も、ずっと見知らぬ街を訪問する暮らし。そんなツアーは好きですかと聞かれると、私は好きとか嫌いの感情で判断しませんときっぱり。
考えてみれば、みどりさんは小さい頃から特異だった。間違いなく天才で、幼い頃から高名な音楽家や教師すら驚かせるさまざまなエピソードをもつ。その音楽的才能をモンスターとまで絶賛されたみどりさんは、今、音楽をこえたさまざまな活動にひろげ、ストイックに、普通の生活者の日々を慈しみながら年を重ねている。私の感想のふつうのおばさんは、みどりさんのこうありたいと考える音楽家の姿だったのだ。
まず最初のツアーの会場、長崎県の五島列島にある青砂ヶ浦天主堂でのコンサートの模様を映す。離島という地形のために、この地では生のクラシック音楽を聴く機会が殆どないそうだ。小さなお子さんからお年寄りの方まで、それほど広くない堂内に普段着のTシャツでバッハの音楽に耳を傾けている。ヴィブラートをおさえ、弓を短めにもって一心不乱にバッハが演奏される。厳しさの中にも崇高で、これぞバッハ!という音楽に、会場の観客はどんな印象をもたれたのだろうか、ちょっときいてみたい気がする。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/61/9c63295a7a9be34c19dc7b18a7961ce7.jpg)
番組は演奏している姿だけでなく、移動中の素顔のみどりさんも追っている。移動は公共の乗り物、地味で簡素な服装、宿泊ホテルはビジネスホテル。いつでも億単位のヴァイオリンを手離さず、背負っている楽器の金額に反比例するかのように予想外に質素な暮らしぶりに驚いたのは私だけではなかった。
「いつもビジネスホテルに泊まるのですか。」
思わずたずねるテレビ側の人の質問に、淡々とそうだと答え、できるだけ自分で移動して、自分の荷物は自分で持ち、洗濯物のランドリーに出さずに自分で洗濯すると答えるみどりさん。実際、ホテルの前にあるコイン・ランドリーで、夜、洗濯しているみどりさんの年齢相応の平凡な中年女性の後姿が映る。
現在、みどりさんは南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校弦楽学部で学部長もつとめている。ホテルのロビーで大学図書館に購入希望の楽譜を優先順位をつけてリストアップするみどりさんに、大変ですねと声をかけられると、これが私の仕事なのです、ときっぱりと微笑む。ツアーの途中でも、半年先のコンサートで弾く曲の練習に余念がなく、あいまにテレビ局や雑誌のインタビューが入り、とても多忙な日々が続く。
一般的に五嶋みどりさんクラスのヴァイオリニストになれば、高価なドレスに身を包み、移動はファーストクラス、美食で高級レストランの常連というイメージがつきまとう。しかし、みどりさんはそんな華やかなイメージと自分が理想とする音楽家のイメージとのギャップに悩み苦しんだそうだ。20代になり、一時拒食症になり、音楽好きの人の間では、再起不能なのかとひそかにささやかれたこともあった。しかし、彼女はそれを克服して自分の道を歩む決意をして、音楽家になることも決めたという。そして、こどもの頃からの旅から旅へのツアー生活が続く。今日も、明日も、ずっと見知らぬ街を訪問する暮らし。そんなツアーは好きですかと聞かれると、私は好きとか嫌いの感情で判断しませんときっぱり。
考えてみれば、みどりさんは小さい頃から特異だった。間違いなく天才で、幼い頃から高名な音楽家や教師すら驚かせるさまざまなエピソードをもつ。その音楽的才能をモンスターとまで絶賛されたみどりさんは、今、音楽をこえたさまざまな活動にひろげ、ストイックに、普通の生活者の日々を慈しみながら年を重ねている。私の感想のふつうのおばさんは、みどりさんのこうありたいと考える音楽家の姿だったのだ。