千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

PMF2013

2013-08-06 22:41:37 | Classic
「継続は力なり」

先日、ご近所の市立ホールを拠点に、クラシック音楽を普及するためにコンサートを企画して演奏者や団体を招聘していたNPO法人が、実はすでに何年も前に解散していたことを知った。理由は、クラシック音楽を聴く人が年々少なくなってきたからだそうだ。最近、コンサートカレンダーを眺めていても、空白が多かったり、電話にかじりついてもチケットをゲットしたい演奏家の名前も少なくなったような気がする。失われた時代は、音楽も失っていくのか。なんとも寂しいかぎりだ。

そんななかで1990年にレナード・バーンスタインによって札幌に創設された国際教育音楽祭PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)は、来年25回目を迎えるという。音楽、人、そして平和を愛したバーンスタインの精神を受け継ぎ、世界中からオーディションで選ばれ、第一線で活躍する演奏家による指導で一ヶ月間みっちり磨かれた若者たちで構成されたオーケストラ。それがPMFオーケストラである。四半世紀もの間、巨星のようなレニーが亡くなった後も、日本という極東の島国で若い演奏家を育てていく趣旨の音楽祭を継続してきたことには、参加する音楽家の卵たちの士気も勿論あってこそだが、関係者の方々の努力やスポンサーの存在、そして支える市民の人々の心も忘れてはならないだろう。

さて、夏枯れの音楽シーンで、このPMFはねらい目のコンサートである。指揮者はトップクラスでソリストも超一流、にも関わらず、営利目的ではなく研修成果を披露するハレ舞台というためか、チケット代金は安価である。何年か前、指揮者がシャルル・デュトワ、ピアニストはマルタ・アルゲリッジという業界セレブ元夫妻による競演という僥倖もあった。そして若々しい情熱を感じられるPMFオケによる音楽も、熟練の洗練さにはない違った魅力もある。

今年は日本人にもおなじみの準・メルクスが指揮をふり、ソリストのヴァイオリニストはワディム・レーピン。天才少年という名前どおりに17歳でエリーザベト王妃国際コンクール優勝で国家旧ソ連の期待に応え、世界的に活躍をはじめるやフランスに移住した小太りの少年は、白髪が渋く輝くスタイリッシュな風格の漂う第一線で活躍するトップクラスのヴァイオリニストに成長していたのだった。かっての少年の体重の貫禄は、本物の王道を歩む音楽家の貫禄に見事に進化していた。

ある小説でブルッフのヴァイオリン協奏曲を大好きな主人公が、友人からこの曲を”歌謡曲”と言われると告白していた。ヴァイオリンを習う者が、チャイコフスキーやメンデルスゾーン、ベートーベンの協奏曲に入る前に練習する協奏曲。あまり演奏される機会がないが、誰がなんと言おうと私も通俗的なこの曲が大好きである。レーピンは、完璧なテクニックと美しく豊かな音楽性で聴衆を魅了した。ここまであらゆる点で高いレベルで演奏されると、この曲の芸術性を再評価してもよいのではないかとまで考える。しかし、レーピンの実力の真価が発揮されたのは、そんな観客に応えるかのように演奏したアンコール曲だった。

演奏した曲はパガニーニによる「ヴェニスの謝肉祭」。パガニーニらしいめくるめくような超絶技巧!若かりし頃は、音楽性の浅さをカバーするようにやたら難曲をアンコールにもってきてテクニックを披露していた感があったレーピンだが、あいかわらず抜群の技術力を安定した土台に華やかに音楽性をひろげ、チャーミングな演奏をしてくる。全く、圧巻の演奏だった。弦でピチカートを入れたリズムの伴奏も素敵だったが、幾重にも重なった花びらの中心に王者の風格で演奏するレーピンには心底感心した。プロをめざすオケのメンバーにも印象に残る一夜になったのではないだろうか。ちなみに現在の使用楽器は、Guarneri del Gesù 1743 “Bonjour”。

そして後半は、ベルリオーズの「幻想交響曲」。多少の荒さは感じられつつも、熱気溢れる若い演奏は幻想交響曲の曲風になじんでいく。音楽にパワーをもらったというそれこそ通俗的な表現をさけたいところだが、実際、猛暑でパワーダウンした私の中に生気がよみがえってきたような気がする。これも彼らの若さの勝利かしら。。。

------------------------------ 7月30日 サントリーホール -----------------------------

準・メルクル(指揮)
ワディム・レーピン(ヴァイオリン)*
PMFアメリカ・メンバー
PMFオーケストラ

演奏曲目
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26*
ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
パガニーニ
:ヴェニスの謝肉祭(ヴァイオリン・アンコール)

ホルスト/田中カレン編
:組曲『惑星』から「ジュピター」(PMF讃歌)