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思わず、そうぶらぼぉの拍手ならぬかけ声をあげたくなるのが、もぎぎさんのMuenchen音楽留学時代に覚えたドイツ語にまつわるエッセイである。
ショートエッセイのタイトルはすべてドイツ語の単語。「NHKラジオ ドイツ語講座」に2003年10月から2007年3月まで連載されていたエッセイに加筆修正を加えて改めて出版した備忘録ではなく”忘備録”である。もぎぎさんが、Muenchenで学ばれたのは1981年のこと。携帯電話もパソコンもない、通貨がマルクの古式ゆかしき旧西ドイツ時代の話しであり、だからこその読物としてのおもしろさがあるのだが、これから留学する方への役に立つガイドブックは期待しないでほしい。
実際、今時の若者の留学生活は、”スマート”でおしゃれ、もぎぎさんのように極寒のドイツの早朝、地下室からバケツ一杯の石炭と着火用の薪をせっせと持ち運び暖炉にくべていた・・・が、実は方法を間違えていたというロマンチックでクラシックな笑えるエピソードはないだろう。そこはかとなく郷愁ただよう文脈の中に、音楽、ドイツ語、文化を入れて笑いをとるという芸術業は、この方しかできないかもしれない。特に、ドイツ語が殆どわかっていない状況で、オーボエのレッスンを受ける様子を、調教師と犬にたとえた「von vorne」は、まさに抱腹絶倒ものである。
そうだった!もぎぎさんの趣味は、私の記憶によると落語をが趣味で「古典亭盃呑」を名のっていた。
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改めて矢崎さんの経歴を調べてみたら、上智大学の数学科を中退して東京藝術大学の指揮科に再入学をされていた。数学と音楽。演奏者と違って、実際に音をださない指揮者は、楽譜を詳細に分析して大きな音楽観で積み立てていくという数学者にも通じるような作業だ。深い思索が、つい言葉として誕生してきたような新鮮さがある。
そして、お子さんがいないおとなだけの流れる時間が、馥郁としたフランスの香りのように伝わってくる。仕事柄、国から国へ、街から街へと、常に移動している心身ともにタフでないと続けられないこんな暮らしぶりもあるのだと。そして、矢崎さんは、久しぶりにパリの自宅に戻ると、朝7時に近所のパン屋でフランスパンに濃厚なバターをつけて召し上がることが楽しみだという。前述のもぎぎさんと共通しているのは、車の運転が嫌いでないことと、グルメなことだ。音楽を愛する人は、食べることも大好き。食べることは、生きること。そんなおふたりの対照的なエッセイに6月の心地よい夜を過ごした。
ちなみに、個人的にかなり気に入っている彦太郎さんの名前は、作家の大佛次さんが命名されたそうだ。
■アンコール
・もぎぎさんの「くわしっく名曲ガイド」
・「拍手のルール」