NHK21世紀の潮流アフリカ ゼロ年の第2回「貧困を引き裂くのは誰か~ナイジェリア・石油争奪戦」
カメラは、アフリカの緑深い密林を上空から映していく。大河、樹木、広大な大地。それらが、資源の乏しい日本とは、比較にならないくらいの自然の宝、富を約束している。しかし、資源が豊富という神からの贈り物に恵まれたばかりに、欧米諸国のオイルメジャーに狙われ、moneyに変換された宝物は、汚職・賄賂などのかたよった利益分配と外国に流れ、それがさらに部族間の対立をうんでいる。平和な日本に住んでいると身近なに感じるのは、ガソリン価格の高騰と為替の投機ぐらいだ。しかし、1956年に石油が発掘され、60年に独立したこの地ナイジェリアでは、現在原油輸出量世界第七位、一日の生産量が250万バレル、それらの資源がもたらしたものは、いったいなんだったのか。
ナイジェリアの石油発掘地であるポートハートでは、今夜も原油が盗まれている。パイプラインを知り尽くした捜査官が取りしまっても、こうして盗まれた原油は、タンクローリーに移されて毎晩六億円で売られている。盗むのは、イジョ族。しかし本当に、彼らは盗賊なのだろうか。資源を盗まれたのは、もしかしたら彼らだったのではないか。
ナイジェリアは250以上の部族からなる。そのうち大きく4つの部族に代表されるが、そのひとつイジョ族が住むクラ村は、石油会社NO2のシェブロンの採掘所の対岸にある。この村には電気、ガス、水道、学校もない。近隣の医師にかかるには、手漕ぎ船で3日かかる。川で生活する彼らが一日働いて収穫した油に汚れた巻貝を売っても、わずか70円。目の前で巨大資本のもと次々と溢れるオイル・マネーは、彼らには決して届かない。
「自分たちの未来を買い取られた」
そう憤りを感じる仕事も食料もない彼らは、ロビン・フッドとよばれる「デルタ人民義勇団」を指揮するアサリ・ドクボの元に、結集する。彼らは、盗んだ原油を武器にかえ、富の再分配をもとめて闘う準備をすすめている。
AU(アフリカ連合)で議長を務めるオルセグン・アバサンジョ大統領は、富の分配を見直し、貧困を脱却してアフリカを導く国家にしたい、そう理想を語るが、アフリカの夜明けは遠い。石油生産を自力で育てたいが、技術がなく結局外国だより。年間3兆円もうむ富も、1兆円は外国企業に流れている。特に米国との関係は重要だ。ナイジェリアは、米国にとって石油戦略上重要な地、”チャンスの弧”ともよばれる。ギニア湾の推定埋蔵量は、日本の消費量の25年分。ライス国務長官がかって取締役を務めていたシュブロンが、2兆円を投じて海底油田開発する予定だ。
そんな安定的に石油が欲しい米国は、ナイジェリアに汚職追放、富の平等分配、貧困をなくすことを課題に与えている。つまりナイジェリアのためでなく、自国のために。そんな状況、ワシントンから元世界銀行副総裁オコンジョ・イウェラ女史が、高額な報酬とともにやってきて、財務大臣として采配をふるう。オイル・マネーがうんだ、つまり白人がもたらした賄賂、横領をなくし、1000億円以上の支出見直し、さらに27万人中、4万人の幽霊社員を排除。現職の大臣、高官が次々と逮捕される。そしてサン・アバチャ元大統領の隠し資産、150億円の賄賂が眠るスイス銀行口座をつきとめて凍結した。こうした汚職・賄賂の構図を”ナイジェリア流”と欧米諸国は弁解するが、このような”流儀”をもたらしたのは白人だと経済金融犯罪委員長は批判する。
投資を求める米国と開発資金が欲しい政府は、更なるオイルマネーに利害を一致させようと手を結ぶ。そのためにも彼らは、アサリ達デルタ人民義勇団とも”友好関係”を結ぶ必要もある。そしてその方法と手段にはいろいろある。米国は、民間軍事会社MPRI会社を派遣させ、近代的な戦略をナイジェリア政府軍に指導している。無料で提供されたパソコンで攻撃をシュミレーションする対象は、いったい誰なのか。そしてアメリカの利益を守るための政府は、軍事政権とかわらないと闘志むきだしのアサリたちを牽制するために、11ヶ所の拠点を空爆するという”実戦”も経験済み。
最初に原油が発掘された時、次々と白人が船にのってやってきて、この地をパラダイスにすると約束したが生産から10年で枯れた。残ったのは、醜い残骸、かたつむりのような殻である。中身は白人が持ち帰ったから。かってビアフラ戦争があった。石油をねらって武器をもたらした欧米人によって、この地で200万人もの人々が散った。
そして今。1日1ドルで生活する最貧困層は、10年で1億3000万人減った。しかしナイジェリアでは、2億から3億人に増加している。3人にひとりがナイジェリア人だ。石油収入をあてに欧米が貸したお金は1兆8千億円。その3分の2まで返済するものの、利子や延滞金で借金は逆に3兆円にまでふくらんでいる。
かってデルタ少数民族の権利を訴え、旧アバチャ政権によって処刑された作家ケン・サロ=ウィワは、こう語る。
「わたしたちが住むナイジェリアという舟は、沈没寸前だ。利益のために国家をあやつる者がいる。
国家のために、国民は原始時代にくらす。
ナイジェリアという仮面の踊りには、もううんざりだ。踊り手は我々の資源を奪い、着飾っている。
仮面のひもを握る白人の目的を見極めなければ、仮面をはがすことはできない。」
この作家のことばが、採掘所で燃える赤い炎に重なる。大統領、財務大臣、アサド、彼らが身にまとうアフリカの民族衣装は、色彩豊かで独特の文化を感じる素晴らしさがある。けれども、こころまでひとつになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
今日も米国から譲渡された警備艇四隻が、武器を手にした兵士を乗せて石油採掘所と貧しい村を隔てている川をゆく。
カメラは、アフリカの緑深い密林を上空から映していく。大河、樹木、広大な大地。それらが、資源の乏しい日本とは、比較にならないくらいの自然の宝、富を約束している。しかし、資源が豊富という神からの贈り物に恵まれたばかりに、欧米諸国のオイルメジャーに狙われ、moneyに変換された宝物は、汚職・賄賂などのかたよった利益分配と外国に流れ、それがさらに部族間の対立をうんでいる。平和な日本に住んでいると身近なに感じるのは、ガソリン価格の高騰と為替の投機ぐらいだ。しかし、1956年に石油が発掘され、60年に独立したこの地ナイジェリアでは、現在原油輸出量世界第七位、一日の生産量が250万バレル、それらの資源がもたらしたものは、いったいなんだったのか。
ナイジェリアの石油発掘地であるポートハートでは、今夜も原油が盗まれている。パイプラインを知り尽くした捜査官が取りしまっても、こうして盗まれた原油は、タンクローリーに移されて毎晩六億円で売られている。盗むのは、イジョ族。しかし本当に、彼らは盗賊なのだろうか。資源を盗まれたのは、もしかしたら彼らだったのではないか。
ナイジェリアは250以上の部族からなる。そのうち大きく4つの部族に代表されるが、そのひとつイジョ族が住むクラ村は、石油会社NO2のシェブロンの採掘所の対岸にある。この村には電気、ガス、水道、学校もない。近隣の医師にかかるには、手漕ぎ船で3日かかる。川で生活する彼らが一日働いて収穫した油に汚れた巻貝を売っても、わずか70円。目の前で巨大資本のもと次々と溢れるオイル・マネーは、彼らには決して届かない。
「自分たちの未来を買い取られた」
そう憤りを感じる仕事も食料もない彼らは、ロビン・フッドとよばれる「デルタ人民義勇団」を指揮するアサリ・ドクボの元に、結集する。彼らは、盗んだ原油を武器にかえ、富の再分配をもとめて闘う準備をすすめている。
AU(アフリカ連合)で議長を務めるオルセグン・アバサンジョ大統領は、富の分配を見直し、貧困を脱却してアフリカを導く国家にしたい、そう理想を語るが、アフリカの夜明けは遠い。石油生産を自力で育てたいが、技術がなく結局外国だより。年間3兆円もうむ富も、1兆円は外国企業に流れている。特に米国との関係は重要だ。ナイジェリアは、米国にとって石油戦略上重要な地、”チャンスの弧”ともよばれる。ギニア湾の推定埋蔵量は、日本の消費量の25年分。ライス国務長官がかって取締役を務めていたシュブロンが、2兆円を投じて海底油田開発する予定だ。
そんな安定的に石油が欲しい米国は、ナイジェリアに汚職追放、富の平等分配、貧困をなくすことを課題に与えている。つまりナイジェリアのためでなく、自国のために。そんな状況、ワシントンから元世界銀行副総裁オコンジョ・イウェラ女史が、高額な報酬とともにやってきて、財務大臣として采配をふるう。オイル・マネーがうんだ、つまり白人がもたらした賄賂、横領をなくし、1000億円以上の支出見直し、さらに27万人中、4万人の幽霊社員を排除。現職の大臣、高官が次々と逮捕される。そしてサン・アバチャ元大統領の隠し資産、150億円の賄賂が眠るスイス銀行口座をつきとめて凍結した。こうした汚職・賄賂の構図を”ナイジェリア流”と欧米諸国は弁解するが、このような”流儀”をもたらしたのは白人だと経済金融犯罪委員長は批判する。
投資を求める米国と開発資金が欲しい政府は、更なるオイルマネーに利害を一致させようと手を結ぶ。そのためにも彼らは、アサリ達デルタ人民義勇団とも”友好関係”を結ぶ必要もある。そしてその方法と手段にはいろいろある。米国は、民間軍事会社MPRI会社を派遣させ、近代的な戦略をナイジェリア政府軍に指導している。無料で提供されたパソコンで攻撃をシュミレーションする対象は、いったい誰なのか。そしてアメリカの利益を守るための政府は、軍事政権とかわらないと闘志むきだしのアサリたちを牽制するために、11ヶ所の拠点を空爆するという”実戦”も経験済み。
最初に原油が発掘された時、次々と白人が船にのってやってきて、この地をパラダイスにすると約束したが生産から10年で枯れた。残ったのは、醜い残骸、かたつむりのような殻である。中身は白人が持ち帰ったから。かってビアフラ戦争があった。石油をねらって武器をもたらした欧米人によって、この地で200万人もの人々が散った。
そして今。1日1ドルで生活する最貧困層は、10年で1億3000万人減った。しかしナイジェリアでは、2億から3億人に増加している。3人にひとりがナイジェリア人だ。石油収入をあてに欧米が貸したお金は1兆8千億円。その3分の2まで返済するものの、利子や延滞金で借金は逆に3兆円にまでふくらんでいる。
かってデルタ少数民族の権利を訴え、旧アバチャ政権によって処刑された作家ケン・サロ=ウィワは、こう語る。
「わたしたちが住むナイジェリアという舟は、沈没寸前だ。利益のために国家をあやつる者がいる。
国家のために、国民は原始時代にくらす。
ナイジェリアという仮面の踊りには、もううんざりだ。踊り手は我々の資源を奪い、着飾っている。
仮面のひもを握る白人の目的を見極めなければ、仮面をはがすことはできない。」
この作家のことばが、採掘所で燃える赤い炎に重なる。大統領、財務大臣、アサド、彼らが身にまとうアフリカの民族衣装は、色彩豊かで独特の文化を感じる素晴らしさがある。けれども、こころまでひとつになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
今日も米国から譲渡された警備艇四隻が、武器を手にした兵士を乗せて石油採掘所と貧しい村を隔てている川をゆく。