![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/32/745931899bb2c89bd8e51b1c14e695d6.jpg)
「日本国道路元標。つまり、ここから人々が日本中に飛び立っていく。だから麒麟の背中に翼を付けたんだそうです」
そうか・・・・、加賀恭一郎の説明によると、だから東京駅ではなく日本橋近辺をグーグルの乗換案内はさまよっていたのか。東京の起点は、日本橋の麒麟の像とは。かっては、美しかったであろう日本橋の橋のうえに、高速道路がまたがっている。当時は、成長へのあかるい未来の象徴のような高速道路も、今となってはその美的センスの欠如を悲しむほど、著しく周囲の景観を損ねている。そんなはざまに東京の下町の風情を残した人形町。加賀刑事が挑む事件の今度の舞台も人形町だ。
製造現場における今日的な派遣社員の問題をおりこみつつ、殺人事件のミステリー小説とはいえ、いつもながらの抒情的な読後感を残しているのは、東野圭吾さんの幅広い層のファンをもつ人気作家の秘訣であろう。そして、簡単に周囲の雰囲気に集団で同調するこどもたちの世界を、あざやかにすくいとっている。流行作家という名称が東野さんにふさわしいのは、人の琴線にふれる機微の使い方が上手なのだろう。昔の推理の緻密な謎ときよりも人情にも比重がおかれた作品は、映画やテレビでも人気をはくす。本作も阿部寛さん主演で映画化され、軽く10億円以上の興行収入を突破したそうだ。
それから、東野さんは今月24日に第7回中央公論文芸賞も受賞している。受賞作「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を批評した選考委員は「読者の心をつかんでは外すテクニックが素晴らしく、なるべくして流行作家になった人。新しい世代のための知的な小説」と賞賛している。 東野さんは確かに当代随一の流行作家ではあるけれど、”なるべくして流行作家になった人”とは少し違うと私は思っているのだが。
■アーカイブ
・「容疑者Xの献身」
・「赤い指」
・「夜明けの街で」
・「新参者」
・「使命と魂のリミット」
・「カッコウの卵は誰のもの」
・「流星の絆」
・「プラチナデータ」