千の天使がバスケットボールする

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神童から脱皮した奇才バイオリニスト・神尾真由子に迫る「情熱大陸」

2014-02-02 23:03:45 | Classic
かっての「神童」からいつのまにか「奇才」という近寄りがたい敬称がついていたのが、ヴァイオリニストの神尾真由子さん。
日本人にしては個性も貫禄もまつげと同じくらい盛られていて、これまでの優等生タイプとは違う規格外の方とお見受けしていたが、スケールの大きい演奏をされる彼女には、世界的に活躍するソリストの王道を歩んで欲しいとかねがね期待しているのだが、どうやら「奇才」というレッテルだけでなく、最近、”人妻”というのも彼女には加わっていたらしい。
今夜の「情熱大陸」は、そんな新生活をスタートした神尾真由子さんが登場!

1986年生まれの神尾さんは、27歳。10歳でソリストとして演奏活動をはじめ、21歳で、「第13回チャイコフスキー国際コンクール」で優勝をさらったのは周知のとおり。着実に実績を積んでいると思っていたら、幼少の頃からのヴァイオリン漬けの生活に少々お疲れになったようで、2011年には半年間の休養をしていたそうだ。知らなかった・・・。その後、昨年の7月8日、同じチャイコフスキー・コンクールで最高位に入賞したロシア人のピアニスト、ミロスラフ・クルティシェフとサンクトペテルブルクで結婚された。

番組は、ヴァイオリニストとしての神尾さんと、人妻となった彼女の素顔を追っている。
パリでもクラシックの殿堂と伝えられるコンサート・ホール、サル・ガヴォーで夫婦での共演を控えている神尾さんと夫のミロさんは、今夜も練習に余念がない。曲目はオール・ブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ」!。日本で神尾さんのこのプログラムだったら、私も絶対に聴きに行きたい。彼女は、この演奏には芸術性だけでなくエンターティメント性もだしていきたい。ソロで演奏する機会の多いミロさんは、つい自分の演奏に没頭しがちで、神尾さんは厳しくそんな夫にダメダシをしていく。そんな妻に”えっ”と不意打ちをくらったかのようなミロさんの表情が、少々お茶目に見える。おまけに、真剣そのもの「白熱教室」のよ妻の演奏に対する注言にも、まるで聞いていないかのように愛する妻の背中をなでるミロさんに、「なんでさわるの」ときつい一言の神尾さん。そう、ミロさんは神尾さんにベタぼれで、でれでれ状態である。一時も離れがたい、いつも彼女に触れていたいという印象だ。

スーパーに行っても卵のパックの中身をちゃんとチェックして買物をし、小さなアパートで、そんな夫のために料理をする。「ミロは、全く家事ができない。飲み残しの紅茶をトイレに流してしまう人なんですよ。」とまで暴露されて、少々情けない感じだ。完全に女房の尻にしかれているのか?しっかりしろ、ミロ、、、と、つい言いたくなってしまう。が、番組は、外出する時は常に手をつなぐふたりを映して、ラブラブぶりを紹介する。

さて、サンクトペテルブルクから3時間半、パリについたふたりを迎える支配人ジャン=マリー・フル二エ氏が、「ようこそマダム」ととても嬉しそうだ。1000人収容の会場は、満席。パートナーをえた神尾さんの演奏に、耳のこえた聴衆だけでなく、プロの演奏家も、ふたりでつきつめたブラームスであり、成熟してきたと好評だった。演奏家だけでなく、番組からは女性としても益々魅力的になっていると感じる。

「兎に角、結婚するしかない」というから結婚したという神尾さん。夏になったらミロが探してきたアパートに引越しする予定だ。100平方メートルで3500万円の新居は、目の前の公園の眺めが気に入ったそうだ。神尾さんは、終の棲家をサンクトペテルブルグに決めたという。

■メモリー
「神尾真由子さんがチャイコフスキー国際コンクールで優勝」

「火葬人」ラジスラフ・フクス著

2014-02-02 15:33:15 | Book
何かを警戒しているかのように、後ろを振り返りながら、髪の長い娘の背中をそっと押す紳士。
なすままに前にすすむ娘の黒いワンピースに純白のレースに、彼女の若さと清楚さが匂うようだが、ひとつにまとめた髪は、何故かぞんざいだ・・・。
この表紙は、本作が映画化された時のスチール写真だという。これほど人の想像力をかきたて、不安にさせる怪しげな写真もそうそうないだろう。映画は、本書のグロテスクな世界を見事に映像化させていて、チェコを代表する傑作映画だそうだ。

さて、この実直そうな中年男性は、1930年代末にプラハに住むコップフルキングル氏だ。優美なる妻、思春期を迎える闊達な娘と少々放浪癖のある14歳の息子と平穏に暮らしている。煙草も酒も嗜まず、浮気とも全くご縁がないのに、念のため友人のユダヤ人医師のところでこっそり性病の検査を受ける細心なところもあるが、家族を思いやり、礼儀ただしい非のうちどころがないような紳士である。職業は火葬人。彼は、自分の職業を誇りにもち、人を使ってサイドビジネスまでもくろんでいる。

時は、ナチスドイツが、スロバキアとともにポーランドへ侵攻し、第二次世界大戦が勃発する。コップフルキングル氏の日常は、そんなチェコの歴史の夜からはじまる。次々と迫害されていくユダヤ人の友人をもつ彼は、温厚な紳士らしく、親切で愛情にも犠牲心にも満ちたユダヤ人を、何故、ヒットラーが迫害するのだろうかと常々思っていた。ところが、そんな彼に擦り寄ってきたのが、ズデーデン・ドイツ党に入党している友人のヴィリだった。ある日、コップフルキングル氏は、その友人から思いがけないクリスマスプレゼントとともに、ひとつのミッションを依頼されたのだったが。。。

コップフルキングル氏は、間違いなく善良なる一般市民である。初めて出会った時から、毎日ずっと、妻を優しく愛し、仕事に誇りをもって決して怠けることなく真面目に働き、礼儀正しくふるまい、信仰心ももちあわせている。けれども、彼の言動には、不思議な奇妙さがロンドのようについてまわる。マダム・タッソーの蝋人形館で、ボクジングの試合会場で、展望台で、パリッとした白襟に赤い蝶ネクタイをした年配の太った男や、黒いドレスを身にまとった頬の赤い娘、長い羽根のついた帽子をかぶり、ビーズのネックレスをした女などが、コップフルキングル氏の行く場所、場所で踊ってまわる。やがて、悪趣味で不快なロンドは、衝撃的な結末でいきなり終止符がうたれる。

いったい、善良なる人々の心は美しく澄んでいるのか。そして強靭な魂をもちあわせているのか。
コップフルキングル氏は、完璧なほど紳士で善良なる人間である。その顔の一方で、彼の心の中を開いてみるとぞっとするほどの空虚さに、私はふるえてしまった。本書は、平凡で瑣末な日常の繰り返しの中に、妻を愛する夫も、こどもを思いやる父親も、優しく親切な友人も、いかようにもきりかわり、崩壊していくのか、という恐怖をグロテスクに描いていく。単純にナチスに感化されていく男とは言い切れない、現代人にも彼の幻影が見えてくるのではないだろうか。

著者のラジスラフ・フクスは、1923年にプラハに生まれる。父親は厳格な警察官で、母親は育児にあまり関心がなかったそうだ。1939年3月15日、ドイツ軍はプラハを掌握し、チェコはこの日以降ドイツの支配下に入った。当時、ギナジウムに通っていたフクスは、次々とユダヤ人の同級生が消えていくという喪失感を体験した。まず、彼らの父親が拘束され、医師、弁護士といった職業も奪われ、公的な場へ入ることを禁止され、ユダヤ系の同級生たちは、強制収容所で生涯を終えた。それのみならず、同性愛者だったフクス自身も、いつか自分も連行されるのではないか、と恐怖に怯えていたであろうことを想像する。

フクスの自伝の中の次の言葉を考えると、日本に紹介されるチェコ作品の水準の高さと芸術性に感服するしかない。

「本当の良質の文学作品の第一の源泉は作者自身の体験と経験」と言い切っている。そして、歓喜であろうと、悲劇的な哀しみであろうと、魂から迸り出るものを心のなかから執筆しなければいけない、と。
上っ面の体験が本質にたどりつくことがない。」

■チェコのアーカイブ
映画『英国王 給仕人に乾杯!』
映画『厳重に監視された列車』
「あまりにも騒がしい孤独」ボフミル・フラバル著