引頭佐知(いんどうさち)の料理ブログ

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心に残るだし取り教室の思い出。NO.2飛び入り小学生篇

2012年03月16日 | 出汁教室エピソード

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拙著「引頭佐知さんのだしとり教室」114ページより。

小学5年生の「だしとり」の感想文です。

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2010年10月、近所の私立和光小学校で、だしとり教室を

催し、とっただしで、さぬきうどんのうどんつゆをつくりました。

5年生38人が6班に分かれて、だしとりをしましたが、

わたしのデモをたった1回見たただけで、全班ちゃん

とできました。大人よりも勘がいい。

だし取り、こどもたちにさせてみませんか。

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だしを取って料理する教室NO.2

今回は、仙台市泉区での心に残るエピソードです。

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10月末頃、午前と午後の2部制の教室でのこと。

参加される方の多くが年配の方と聞いてましたので、

煮物は、おからの煮物(卯の花炒り)に決めました。

おからの煮物は、だしをたっぷり使いますからね。

年配の方なら、きっと喜んでいただけるはず、と。

そして、おからを選んだもうひとつの理由は、

おからが産業廃棄物というおかしな事実。

とんでもないことです。

すぐれた栄養価はもちろんのこと、

おいしさをわかっていただきたかったからです。

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飛び入り小学生、だし取り料理教室

さて、

午前の部が終り、ティー・ブレイク中のこと。

「いい匂いがするけど、なにしてるんですか」

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背後から声。

ふりむくと、

窓の外から5~6人の女の子がのぞいています。

「お料理教室してたの」と、窓に近寄ると、

窓枠まで背の足りない小さな子を合わせて

約10人の女の子たちがいました。

会場の近所のY小学校の生徒で、

今日は運動会。

午前中で修了し、帰宅途中とのこと。

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「お料理したーい」

「入っていいですか」

「どーーぞ」と応えると、

「わーーい」と駆け足で入り口に向かいます。

入り口に入ると並列に並び、声を揃えて、

元気よく「こんにちはァ」と挨拶し、入室。

リーダー格の体格のよい子が、1人、1人の

学年と名前を紹介してくれます。

「この子ね、チビだけど6年生」

「4年生と同じぐらいなんだ」

「この子ね、1年生。お父さんの転勤で先月ニューヨークから

来て、来月は福岡に行くの。福岡行きたくないのよね?」

「うん、仙台がいい。もう知らないところ、行きたくない」

1年生2人、2年生2人、4年生2人、5年生2人、

6年生2人の計10人。

紹介された子達は、1人、1人、ぺこっと頭を下げて、

にっこりしたり、照れたり。

みんな、口々に「お料理おしえてください」と言って、

目が輝いています。

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わざわざ年配の方向きに、と、

おからの煮物を選んだのに、

子供たちが飛び入りしてくるとは。

ま、材料には余裕があるし、

「よっし、OK!、じゃ、お料理しようか!」と、わたし。

「やろう!、やろう!」

「なに、つくるんですか?」

「ごはんは、さっき炊いたのがあるから、

おからの煮物、豚のフライ(豚肉の梅香揚げ)、

とろろ昆布のお吸物ね」。

「おからって?」

「おからの煮物、給食で食べたことない?」

「ないですーー」「ないよね」

「そう?へんだな、

これがおから。

お豆腐をつくるときのしぼりかすなんだけど、

お豆腐よりも栄養があるし、食物繊維もあるしね。

女の子はしょっちゅう食べてると美しくなるのよ。

家では食べない?」

「おからの煮物って聞いたことないです」

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「わかんないけど、わたし、つくってみたいです」

と、4年生の子。

「よーし!

おからと一緒に煮る材料をみんなで切ってね。

材料が揃ったら、あとは、炒めて煮るんだけど、

1人でつくる?」

「はい、やります」

「炒めて、煮ればできるからね」

「はい!」」

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リーダー格の子(以下リーダーの子)が

「これからやることをわたしに説明してください。

わたしがみんなにやらせますから」

レシピを見せて、プロセスを伝えたら、

見事に、能力に応じて、下級生に指示してくれました。

とくに、低学年の子が飽きないように、

常にかんたんな仕事を与え、

失敗したら、落ち着いて、さりげなく手を出して

助けるという姿勢に、感動。

4年生の子といい、リーダーの子といい、

こんなにすてきな子達が日本にいるんだ、

と嬉しくなりました。

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おからの煮物

おからの煮物の作り方の手順は、

①煮だしと調味料を小鍋に合わせてひと煮たちしておく。

②下ごしらえした干し椎茸、にんじん、むきえび、ごぼうを

ざっと炒めて、香りが出てきたらバットに移す。

②同じ鍋に、サラダ油を入れて熱し、おからを加え、

全体に油がまわって、しっとりするまで炒める。

④鍋に、②を戻しいれて、①の煮汁を加え、

約20~30分、煮汁がほとんどなるまで煮る。

子供たちなので、ここで出来上がりにしておきました。

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4年生の子は、仲間に話しかけられても一切乗らず、

ひたすらお鍋と格闘。

わたしが、

「はい、フライパンに火を点けて」

「はいッ」

「はい、ここでおからを入れて炒めるの」

「はいッ」

「木べらを大きくつかって炒めるのよ」

「え?」

「底の方から、おからを起こすように混ぜるの」

「はいッ」

と、猛特訓?(笑)。

できあがったとき、

彼女は、ちいさな声で「できた・・・」と、にっこり。

「疲れた?」

ちいさな声で「楽しかった」と、また、にっこり。

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「お皿きめてください!」

料理ができあがりそうになると、リーダー格の子から声が。

3品できあがり、盛り付けも配膳も子供達。

いただきます、のあと、

「おから初めて!」と言いながら食べはじめました。

最初の1~2口目までは、味を確かめるという感じでしたが、

3口目くらいから「おいしい」「おいしい」と言いはじめ、

残さず食べました。

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食事中、リーダーの子が

「おから初めてだけど、おいしいです。

さっきから考えてたんですが、

この味は、きっとお父さんが好きな味だと思います。

今日は日曜日だからお父さんいるんです、

お父さんに食べさせてあげたいので、

お鍋に残ったの、少しだけ貰ってもいいですか?

なんでかって、こういうの、

うちのおかあさんには、絶対つくれないから」

「絶対つくれない、ってどうして?」

「おかあさん、フィリピン人なんです。

だからパイナップル料理が多くて・・・・・・。

お父さんの好きな、おばあちゃんちで出てくるような、

こういう味のは、絶対つくれないです。

持って帰ったら、お父さん喜ぶと思います」

「あなたの動きを見ていると、お料理してるってこと

わかるんだけど、ときどきつくってるの?」

「はい、おかあさんも働いてるし、

土・日は、ぐったり疲れてるので、代りにつくります。

あ、つくるといっても、スパゲッティくらいです。

妹や弟がスパゲッティ食べたいって言うんで。

今日の、つくり方書いたの持って帰れますか?

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結局、全員がおからの煮物をお父さんにお土産に

することになりました。

お鍋を囲み、

「お父さん、喜ぶよね」

「つくったって言ったら、びっくりするよね」

「これでビール飲むよ、ぜったい」

「ぜったいだよね」

ほんとうに楽しそうに容器によそう子供たち。

わたしが「みんな、お父さん好きなのねーー」と言うと、

「好き~~!」

「大好き~~!」

「お母さんより好き~~!」

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帰るとき、全員がまた入り口に並列に並び、

「なんか、不思議、夢みたい!」

「お料理つくりたい、また会いたいな」

「今度いつ来るの?」

4年生の子は、ずっとわたしの顔をみつめていました。

その顔が、

ちょっぴり大人びてみえました。

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レシピ片手に、いつまでも振りかえっては手を振る

子供たち。

たったの2時間でしたが、忘れられない濃密な時間を

過ごしました。

おからの煮物、

おとうさんに喜んでもらえたでしょうか。

中高生になっても「お父さん大好き!」って言うのかな。

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わたしにとっても夢のような、すてきなハプニングでした。

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コメント
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