拙著「引頭佐知さんのだしとり教室」114ページより。
小学5年生の「だしとり」の感想文です。
.
2010年10月、近所の私立和光小学校で、だしとり教室を
催し、とっただしで、さぬきうどんのうどんつゆをつくりました。
5年生38人が6班に分かれて、だしとりをしましたが、
わたしのデモをたった1回見たただけで、全班ちゃん
とできました。大人よりも勘がいい。
だし取り、こどもたちにさせてみませんか。
.
だしを取って料理する教室NO.2
今回は、仙台市泉区での心に残るエピソードです。
.
10月末頃、午前と午後の2部制の教室でのこと。
参加される方の多くが年配の方と聞いてましたので、
煮物は、おからの煮物(卯の花炒り)に決めました。
おからの煮物は、だしをたっぷり使いますからね。
年配の方なら、きっと喜んでいただけるはず、と。
そして、おからを選んだもうひとつの理由は、
おからが産業廃棄物というおかしな事実。
とんでもないことです。
すぐれた栄養価はもちろんのこと、
おいしさをわかっていただきたかったからです。
.
飛び入り小学生、だし取り料理教室
さて、
午前の部が終り、ティー・ブレイク中のこと。
「いい匂いがするけど、なにしてるんですか」
.
背後から声。
ふりむくと、
窓の外から5~6人の女の子がのぞいています。
「お料理教室してたの」と、窓に近寄ると、
窓枠まで背の足りない小さな子を合わせて
約10人の女の子たちがいました。
会場の近所のY小学校の生徒で、
今日は運動会。
午前中で修了し、帰宅途中とのこと。
.
「お料理したーい」
「入っていいですか」
「どーーぞ」と応えると、
「わーーい」と駆け足で入り口に向かいます。
入り口に入ると並列に並び、声を揃えて、
元気よく「こんにちはァ」と挨拶し、入室。
リーダー格の体格のよい子が、1人、1人の
学年と名前を紹介してくれます。
「この子ね、チビだけど6年生」
「4年生と同じぐらいなんだ」
「この子ね、1年生。お父さんの転勤で先月ニューヨークから
来て、来月は福岡に行くの。福岡行きたくないのよね?」
「うん、仙台がいい。もう知らないところ、行きたくない」
1年生2人、2年生2人、4年生2人、5年生2人、
6年生2人の計10人。
紹介された子達は、1人、1人、ぺこっと頭を下げて、
にっこりしたり、照れたり。
みんな、口々に「お料理おしえてください」と言って、
目が輝いています。
.
わざわざ年配の方向きに、と、
おからの煮物を選んだのに、
子供たちが飛び入りしてくるとは。
ま、材料には余裕があるし、
「よっし、OK!、じゃ、お料理しようか!」と、わたし。
「やろう!、やろう!」
「なに、つくるんですか?」
「ごはんは、さっき炊いたのがあるから、
おからの煮物、豚のフライ(豚肉の梅香揚げ)、
とろろ昆布のお吸物ね」。
「おからって?」
「おからの煮物、給食で食べたことない?」
「ないですーー」「ないよね」
「そう?へんだな、
これがおから。
お豆腐をつくるときのしぼりかすなんだけど、
お豆腐よりも栄養があるし、食物繊維もあるしね。
女の子はしょっちゅう食べてると美しくなるのよ。
家では食べない?」
「おからの煮物って聞いたことないです」
.
「わかんないけど、わたし、つくってみたいです」
と、4年生の子。
「よーし!
おからと一緒に煮る材料をみんなで切ってね。
材料が揃ったら、あとは、炒めて煮るんだけど、
1人でつくる?」
「はい、やります」
「炒めて、煮ればできるからね」
「はい!」」
.
リーダー格の子(以下リーダーの子)が
「これからやることをわたしに説明してください。
わたしがみんなにやらせますから」
レシピを見せて、プロセスを伝えたら、
見事に、能力に応じて、下級生に指示してくれました。
とくに、低学年の子が飽きないように、
常にかんたんな仕事を与え、
失敗したら、落ち着いて、さりげなく手を出して
助けるという姿勢に、感動。
4年生の子といい、リーダーの子といい、
こんなにすてきな子達が日本にいるんだ、
と嬉しくなりました。
.
おからの煮物
おからの煮物の作り方の手順は、
①煮だしと調味料を小鍋に合わせてひと煮たちしておく。
②下ごしらえした干し椎茸、にんじん、むきえび、ごぼうを
ざっと炒めて、香りが出てきたらバットに移す。
②同じ鍋に、サラダ油を入れて熱し、おからを加え、
全体に油がまわって、しっとりするまで炒める。
④鍋に、②を戻しいれて、①の煮汁を加え、
約20~30分、煮汁がほとんどなるまで煮る。
子供たちなので、ここで出来上がりにしておきました。
.
4年生の子は、仲間に話しかけられても一切乗らず、
ひたすらお鍋と格闘。
わたしが、
「はい、フライパンに火を点けて」
「はいッ」
「はい、ここでおからを入れて炒めるの」
「はいッ」
「木べらを大きくつかって炒めるのよ」
「え?」
「底の方から、おからを起こすように混ぜるの」
「はいッ」
と、猛特訓?(笑)。
できあがったとき、
彼女は、ちいさな声で「できた・・・」と、にっこり。
「疲れた?」
ちいさな声で「楽しかった」と、また、にっこり。
.
「お皿きめてください!」
料理ができあがりそうになると、リーダー格の子から声が。
3品できあがり、盛り付けも配膳も子供達。
いただきます、のあと、
「おから初めて!」と言いながら食べはじめました。
最初の1~2口目までは、味を確かめるという感じでしたが、
3口目くらいから「おいしい」「おいしい」と言いはじめ、
残さず食べました。
.
食事中、リーダーの子が
「おから初めてだけど、おいしいです。
さっきから考えてたんですが、
この味は、きっとお父さんが好きな味だと思います。
今日は日曜日だからお父さんいるんです、
お父さんに食べさせてあげたいので、
お鍋に残ったの、少しだけ貰ってもいいですか?
なんでかって、こういうの、
うちのおかあさんには、絶対つくれないから」
「絶対つくれない、ってどうして?」
「おかあさん、フィリピン人なんです。
だからパイナップル料理が多くて・・・・・・。
お父さんの好きな、おばあちゃんちで出てくるような、
こういう味のは、絶対つくれないです。
持って帰ったら、お父さん喜ぶと思います」
「あなたの動きを見ていると、お料理してるってこと
わかるんだけど、ときどきつくってるの?」
「はい、おかあさんも働いてるし、
土・日は、ぐったり疲れてるので、代りにつくります。
あ、つくるといっても、スパゲッティくらいです。
妹や弟がスパゲッティ食べたいって言うんで。
今日の、つくり方書いたの持って帰れますか?
.
結局、全員がおからの煮物をお父さんにお土産に
することになりました。
お鍋を囲み、
「お父さん、喜ぶよね」
「つくったって言ったら、びっくりするよね」
「これでビール飲むよ、ぜったい」
「ぜったいだよね」
ほんとうに楽しそうに容器によそう子供たち。
わたしが「みんな、お父さん好きなのねーー」と言うと、
「好き~~!」
「大好き~~!」
「お母さんより好き~~!」
.
帰るとき、全員がまた入り口に並列に並び、
「なんか、不思議、夢みたい!」
「お料理つくりたい、また会いたいな」
「今度いつ来るの?」
4年生の子は、ずっとわたしの顔をみつめていました。
その顔が、
ちょっぴり大人びてみえました。
.
レシピ片手に、いつまでも振りかえっては手を振る
子供たち。
たったの2時間でしたが、忘れられない濃密な時間を
過ごしました。
おからの煮物、
おとうさんに喜んでもらえたでしょうか。
中高生になっても「お父さん大好き!」って言うのかな。
.
わたしにとっても夢のような、すてきなハプニングでした。
.