もろい日本経済② 身動きできない日銀
群馬大学名誉教授 山田博文さん
インフレ・物価高に襲われた各国中央銀行は、政策金利を引き上げ、量的緩和(QE)を縮小し、金融緩和から引き締め政策に転換しました。中央銀行の本来の役割はインフレを防止する「物価の番人」だからです。
アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、政策金利を3月に0・25%引き上げました。今後連続利上げを予定し、来年半ばには3・5%超の水準に達しそうです。また、8兆9000億ドル(約1100兆円)に膨らんだ資産を来年末までに約2兆ドル圧縮する予定です。
イギリスの中央銀行(BOE)は昨年末から連続して利上げし、現在0・75%になりました。欧州中央銀行(ECB)も利上げを予定しています。
しかし、この肝心な時に、日銀は「物価の番人」として身動きできない事態に追い込まれています。アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の悲惨な末路です。
日本銀行本店=東京都中央区
金利格差拡大
日銀はマイナス0・1%の政策金利に固執し、世界各国との金利格差は拡大する一方です。日米の長期金利格差は2%超に拡大しました。日銀が長期金利を目標値の0・25%以下に抑え込むために、長期国債を利回り0・25%の指し値オペで無制限に買いまくっているからです。
利益を求める世界の投資マネーは金利の高い金融商品に向かうので、日本からの資本逃避が進み、円安が加速しました。日本の対外金融資産残高は外貨準備や直接投資分を除いても796兆円に達しています。4月に入り、20年ぶりに1ドル=129円台の円安になりました。経済界からも、現在の為替水準は「日本が独り負けしていることの象徴」で、「大変大きな問題」との声が上がっています。資源・エネルギーの輸入コストが高騰し、企業収益に打撃を与えているからです。ただ、大企業は一時的に受けるこの打撃を商品価格に転嫁することで軽減しています。
円安が日本経済を活性化させる時代は去りました。かつて対外輸出で貿易黒字を稼ぎ出していた大企業の多くが海外に生産拠点を移転したからです。貿易黒字大国だった日本は貿易赤字国に転落しています。
アベノミクスによる日本経済の脆弱化と格差拡大
国際通貨基金「World Economic Outlook Database」、日本取引所グループ「市場別時価総額」、財務省「国民負担率の推移」などから作成。大企業内部留保金は20年のデータ
円安で生活苦
円安はむしろ、国民生活を苦しめる事態を引き起こしています。原油・天然ガス・原材料・食料を海外に依存する日本の輸入物価を高騰させ、高騰した輸入物価が企業物価を押し上げ、それが一番川下の消費者物価に転嫁されるからです。円安が進めば進むほど、国内の物価が上がり、生活は苦しくなる悪循環に陥っています。
こんな状況にもかかわらず、日銀が身動きできないのは、アベノミクスの負の遺産に縛られているからです。異常な低金利水準を維持しないと、財政破綻や株式バブルの崩壊を引き起こし、場合によっては日本発の大恐慌が発生するからです。
安倍元首相の強力な推薦で総裁になり、アベノミクスの「第1の矢」異次元金融緩和政策を担った黒田東彦日銀総裁が、目前のインフレ・物価高や円安間題よりも重視しているのは、以下の事柄だと考えられます。
第1に、国債金利の低位固定化(国債の加重平均金利は0・83%)を継続し、日本政府の財政破綻を先延ばしすることです。日銀が異次元金融緩和で国債を買いまくり、国債は大増発されました。国債発行残高は約1000兆円に達し、日本は世界トップの「政府債務大国」となっています。もし国債金利が上昇するなら、政府の国債利払い費用は数兆円規模で増え、財政危機が深刻化する恐れがあります。
第2に、バブルの夢を見続けることです。異次元金融緩和政策は国債・株式などの金融資産バブルを起こしました。大企業・富裕層・内外投資家に巨額の利益をもたらし、経済界から支持を集めました。この夢から覚めたくないのでしょう。国民には格差拡大の悪夢でしかありません。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年4月22日付掲載
利益を求める世界の投資マネーは金利の高い金融商品に向かうので、日本からの資本逃避が進み、円安が加速。
経済界からも、現在の為替水準は「日本が独り負けしていることの象徴」で、「大変大きな問題」との声が。
円安が日本経済を活性化させる時代は去りました。かつて対外輸出で貿易黒字を稼ぎ出していた大企業の多くが海外に生産拠点を移転。貿易黒字大国だった日本は貿易赤字国に転落。
こんな状況にもかかわらず、日銀が身動きできないのは、アベノミクスの負の遺産に縛られているから。異常な低金利水準を維持しないと、財政破綻や株式バブルの崩壊を引き起こし、場合によっては日本発の大恐慌が発生するから。
群馬大学名誉教授 山田博文さん
インフレ・物価高に襲われた各国中央銀行は、政策金利を引き上げ、量的緩和(QE)を縮小し、金融緩和から引き締め政策に転換しました。中央銀行の本来の役割はインフレを防止する「物価の番人」だからです。
アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、政策金利を3月に0・25%引き上げました。今後連続利上げを予定し、来年半ばには3・5%超の水準に達しそうです。また、8兆9000億ドル(約1100兆円)に膨らんだ資産を来年末までに約2兆ドル圧縮する予定です。
イギリスの中央銀行(BOE)は昨年末から連続して利上げし、現在0・75%になりました。欧州中央銀行(ECB)も利上げを予定しています。
しかし、この肝心な時に、日銀は「物価の番人」として身動きできない事態に追い込まれています。アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の悲惨な末路です。
日本銀行本店=東京都中央区
金利格差拡大
日銀はマイナス0・1%の政策金利に固執し、世界各国との金利格差は拡大する一方です。日米の長期金利格差は2%超に拡大しました。日銀が長期金利を目標値の0・25%以下に抑え込むために、長期国債を利回り0・25%の指し値オペで無制限に買いまくっているからです。
利益を求める世界の投資マネーは金利の高い金融商品に向かうので、日本からの資本逃避が進み、円安が加速しました。日本の対外金融資産残高は外貨準備や直接投資分を除いても796兆円に達しています。4月に入り、20年ぶりに1ドル=129円台の円安になりました。経済界からも、現在の為替水準は「日本が独り負けしていることの象徴」で、「大変大きな問題」との声が上がっています。資源・エネルギーの輸入コストが高騰し、企業収益に打撃を与えているからです。ただ、大企業は一時的に受けるこの打撃を商品価格に転嫁することで軽減しています。
円安が日本経済を活性化させる時代は去りました。かつて対外輸出で貿易黒字を稼ぎ出していた大企業の多くが海外に生産拠点を移転したからです。貿易黒字大国だった日本は貿易赤字国に転落しています。
アベノミクスによる日本経済の脆弱化と格差拡大
項目 | 2012年(A) | 2021年(B) | B/A |
名目GDP | 6.3兆ドル | 5.1兆ドル | 0.8倍 |
世界経済に占める割合 | 8.3% | 5.3% | 3ポイント縮小 |
日本の株式時価総額 | 300.7兆円 | 753.0兆円 | 2.5倍 |
大企業の内部留保金 | 333.5兆円 | 466.8兆円 | 1.4倍 |
国民負担率 | 39.8% | 48.0% | 8.2ポイント増 |
政府債務総額 | 1131.5兆円 | 1421.6兆円 | 1.2倍 |
円・ドル相場(年間平均) | 79.7円 | 118.5円 | 38円の円安 |
円安で生活苦
円安はむしろ、国民生活を苦しめる事態を引き起こしています。原油・天然ガス・原材料・食料を海外に依存する日本の輸入物価を高騰させ、高騰した輸入物価が企業物価を押し上げ、それが一番川下の消費者物価に転嫁されるからです。円安が進めば進むほど、国内の物価が上がり、生活は苦しくなる悪循環に陥っています。
こんな状況にもかかわらず、日銀が身動きできないのは、アベノミクスの負の遺産に縛られているからです。異常な低金利水準を維持しないと、財政破綻や株式バブルの崩壊を引き起こし、場合によっては日本発の大恐慌が発生するからです。
安倍元首相の強力な推薦で総裁になり、アベノミクスの「第1の矢」異次元金融緩和政策を担った黒田東彦日銀総裁が、目前のインフレ・物価高や円安間題よりも重視しているのは、以下の事柄だと考えられます。
第1に、国債金利の低位固定化(国債の加重平均金利は0・83%)を継続し、日本政府の財政破綻を先延ばしすることです。日銀が異次元金融緩和で国債を買いまくり、国債は大増発されました。国債発行残高は約1000兆円に達し、日本は世界トップの「政府債務大国」となっています。もし国債金利が上昇するなら、政府の国債利払い費用は数兆円規模で増え、財政危機が深刻化する恐れがあります。
第2に、バブルの夢を見続けることです。異次元金融緩和政策は国債・株式などの金融資産バブルを起こしました。大企業・富裕層・内外投資家に巨額の利益をもたらし、経済界から支持を集めました。この夢から覚めたくないのでしょう。国民には格差拡大の悪夢でしかありません。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年4月22日付掲載
利益を求める世界の投資マネーは金利の高い金融商品に向かうので、日本からの資本逃避が進み、円安が加速。
経済界からも、現在の為替水準は「日本が独り負けしていることの象徴」で、「大変大きな問題」との声が。
円安が日本経済を活性化させる時代は去りました。かつて対外輸出で貿易黒字を稼ぎ出していた大企業の多くが海外に生産拠点を移転。貿易黒字大国だった日本は貿易赤字国に転落。
こんな状況にもかかわらず、日銀が身動きできないのは、アベノミクスの負の遺産に縛られているから。異常な低金利水準を維持しないと、財政破綻や株式バブルの崩壊を引き起こし、場合によっては日本発の大恐慌が発生するから。