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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

理研の研究職員600人雇止め 60チーム解散も 日本の科学研究ますます衰退

2022-04-21 07:13:10 | 政治・社会問題について
理研の研究職員600人雇止め 60チーム解散も 日本の科学研究ますます衰退
理化学研究所(理研)が来年3月に約600人の研究系職員の雇い止めを計画しており、約60の最先端研究チームが解散の危機にひんしています。労働契約法の特例で、非正規の研究者は通算雇用期間10年で無期雇用転換権が発生します。しかし理研は、来年3月に期限となる直前に無期雇用転換を逃れるため「上限10年」とされた非正規の研究者296人を解雇の対象にしています。中には研究チーム(ラボ)を率いる責任者も含まれており、ラボが閉鎖されることで約300人のスタッフも雇い止めになります。対象者数は理研全職員の8分の1に及び、現場からは「理研の研究の継続性が危ぶまれる」「日本の研究・技術開発の衰退に拍車をかける」など懸念や不安の声が上がっています。(原千拓)

【理化学研究所】
国立研究会開発法人で、日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理や生物、工学、医科学など広い分野で研究を進めています。



理研の人員の推移を示したグラフ(理研の資料から作成)。2018年度から任期制の職員を無期雇用に転換する制度を導入。理研は研究職員について「厳正な選考の上、無期雇用職員として雇用」としていますが、現場からは「公募分野が非常に狭く審査基準があいまい」、「不透明な選考になっている」などと指摘する声が上がっています。

話し合いなく突然通告
研究室主宰者Aさんは…
理研の研究室主宰者のAさんは、上限10年を理由に今年度末で雇い止めに。突然の通告に「青天のへきれきでした」と話します。「研究評価を考慮せず、プロジェクトの途中でも強行しようとしています。これまで職員との話し合いは一切ありませんでした」
Aさんが10年以上けん引してきたラボは、常勤研究員や技術専門のスタッフなど十数人で運営。工学的もしくは物理学的な見地から、生物や医療の分野の研究を飛躍的に高度化するための最先端の装置や基盤技術を開発する基礎研究を行っており、研究は順調に進んでいました。
現在、当局から執拗(しつよう)に実験装置の撤去や片付け、人の転出を迫られている状況にAさんは「研究は続けていますが、先の見通しが立てられず意欲が上がりません」と訴えます。実験装置の撤去に数千万円かかり、転出ができたとしても移設に1億円かかるといいます。
複数の研究を抱えるAさんのラボは、人材などにかかる経費を理研以外から予算を得て工面してきました。「プロジェクトの中には海外の研究室や国内の大学との共同研究もあり進行中です。それが全部中断するので損害は大きい」
博士課程学生の学位取得も大きな課題です。「指導途中の学生は確実に実験が中断してしまい年限通りに卒業できなくなってしまう可能性が高く、どうしようかと悩んでいます。当局はこのような状況を全く理解してくれません」と怒ります。
今回の雇い止めで理研の生命機能科学研究センターの神戸の施設では、ビル1棟丸ごと解散に迫られています。主に技術開発の基礎研究を10年、20年かけて教授から准教授へ技術を培い伝承して発展していく分野が多いといいます。
「基礎研究は10年どころか倍以上かかることもあります。長年続けてきた研究を断ち切ってしまえばその芽をつぶしてしまいます」とAさん。「残念ながら日本で同じ研究ができる大学はほとんどなく、どこも予算が減っている状況で転出しようとしてもする先がない。
海外にあるかもしれませんが実際には難しい」


予算採択も全て中止に
研究室主宰者Bさんは…
「機械的な雇い止めで研究の継続性と発展が失われてしまう」と訴えるのは研究室主宰者を10年以上続けてきたBさん。Aさんと同様、今年度末で雇い止めに。長年、積み重ねてきた基礎研究の成果が認められ、応用研究へ展開させようとした矢先でした。
「来年度から3年間の科学研究費が採択されているにもかかわらず、一方的な雇い止めでプロジェクトはもちろん、これまでの研究をすべて中止せざるをえなくなります。非常に乱暴なやり方だ」とBさん。「スタッフは上限10年に該当しませんが機械的に雇い止めになり生活に困ります。これまで築き上げてきた研究成果や人材、実験装置などがすべてゼロになってしまう」
Bさんは、光を使ってがん細胞の成長や転移などの生命現象を可視化する技術開発の基礎研究を続けてきました。この技術を使った早期のがん検出などへの応用研究を目指しています。
「アメリカや中国、ヨーロッパと竸争している世界最先端の分野です。ラボにある実験装置は世界に1台しかなく、分解したら元に戻らないし他の研究者には扱えません。研究がストップしたら完全に世界から立ち遅れてしまいます」
今後、上限10年の雇用が続けば成果が出やすい研究をする人が増え、基礎研究をしっかりできる環境ではなくなるとBさんは懸念します。「チームリーダーになっても10年で再任もなく解雇される所に優秀な人材が集まるでしょうか。自分の研究で手いっぱいになり、若手の研究者も残らないし人材育成もできない」
Bさんはオンリーワンの研究を目指すため、世界との競争の中で状況変化に合わせて軌道修正しながら新しい目標をつくってきました。
「理研には研究に集中できるすばらしい環境があります。知の探究や新発見の研究を続けるには精神的な余裕が大事です。雇用が安定しないと基礎研究はできません」とBさん。「理研内の厳しい評価を乗り越えてきた優秀な研究者たちを機械的に切り、ラボを閉鎖させることで研究力の低下を招くと思います。5年、10年後には取り返しのつかない状況が理研だけでなく他の研究機関、大学にも広がるのではないでしょうか」


上限10年納得せず計画の撤回求める
労組など政府要請

要請書を手渡す理研労の金井執行委員長(右から2人目)たち=3月25日、文科省

理研は業務継続や予算の有無にかかわらず、事務系は5年、研究系は10年を超えた契約を行わないとする就業規則を2016年度に導入しました。起算日は改定された労働契約法第18条の施行日(13年4月1日)にさかのぼって適用しました。
理研の研究職員は8割弱が任期制で雇い止めを生む要因になっています。理研の予算は増額しており、法人評価は最高の「S」ランクです。
理化学研究所労働組合(理研労)の金井保之執行委員長は「理研では10年、20年と非正規で研究所を支えてきた研究職や事務職の人たちがたくさんいる。労働契約法の趣旨にのっとれば、みんな無期にすべき。上限10年での雇い止めは理不尽なことで現場は納得していない」と訴えます。
理研労や地域の住民、労働組合などでつくる「理研の非正規雇用問題を解決するネットワーク」は3月25日、文部科学省と厚生労働省に対し、理研に雇い止めを撤回させるよう要請しました。
日本共産党の田村智子政策委員長はこの間題を国会で取り上げ政府の姿勢を追及しました。


じっくり従事できる雇用こそ
「科学・政策と社会研究室」代表 榎木英介さん
研究者の任期制は以前からあり、大学では若い教員も任期制になってきています。次のポストを探しながらの研究では、じっくり取り組むことができません。声を出すにも上げられない人はたくさんいると思います。
2013年の労働契約法改正時、多くの人が指摘した上限10年による雇い止めが起こっています。雇用者の意向で非正規労働者が安心して働く環境作りが阻害されており、研究者や職員の声を反映させる仕組みがないことが大きな問題です。
研究者が安定的に仕事ができず、苦しむ状態が続けば、理研に限らず日本の科学技術の発展、維持が困難になることが考えられます。
現在、日本の科学・研究のレベル、質、量が低下し、科学論文の引用数が減っているなど影響が出始めています。
研究予算では、安定的な予算ではなく、プロジェクト雇用型という時限的な予算が増えており、研究者は成果が出やすい目先の研究計画を立てざるをえません。
また一部の大学だけに手厚く支援する「選択と集中」の予算によって、研究者同士の競争がさらに激化する恐れがあります。このままでは一部の研究分野のみが突出し、周囲はやせ細った状態になってしまいます。不安定な雇用が続けば新たな人材が集まらず人材育成の低下にもつながります。悪循環によって新しい画期的な知見を生み出す研究成果が出にくくなります。
本来はじっくり研究できる任期のない雇用のポストを増やすべきです。一部がとがった山でなく、すそ野が広い分だけ高い山になるように、たくさんの研究者が多様な研究に安定して従事できる環境づくりが重要です。

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年4月18日付掲載


今回の雇い止めで理研の生命機能科学研究センターの神戸の施設では、ビル1棟丸ごと解散に。
「基礎研究は10年どころか倍以上かかることもあります。長年続けてきた研究を断ち切ってしまえばその芽をつぶしてしまいます」
今後、上限10年の雇用が続けば成果が出やすい研究をする人が増え、基礎研究をしっかりできる環境ではなくなるとBさんは懸念。
理化学研究所労働組合(理研労)の金井保之執行委員長は「理研では10年、20年と非正規で研究所を支えてきた研究職や事務職の人たちがたくさんいる。労働契約法の趣旨にのっとれば、みんな無期にすべき」
研究に必要な職員が2000人規模でふてえているのだから、任期制でなくって、期間の定めなしの雇用にすべきです。


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