安斎育郎さんと考える 放射能汚染⑩ 自然放射能は無害か
福島原発事故による低線量被ばくと自然界にある自然放射線を比べて、“事故の影響は軽い”と印象づける議論があります。これは、事故から教訓を徹底的にくみとって、余計な被ばくをできるだけ減らす重要性を少しも感じさせない、後ろ向きの姿勢だと思います。
そこで、今回は自然放射線について考えます。表にあるように、私たちは多様な自然放射線によって、年間で約2ミリシーベルト程度被ばくしています。これはある意味では困ったことで、本当は自然放射線も少ないにこしたことはありません。1人が年2ミリシーベルトなら、1億2千万人の日本人全体では24万シーベルトも被ばくしていることになります。
前回紹介した国際放射線防護委員会(ICRP)の「10ミリシーベルトの被ばくで1万人に1人ががんで死亡」という危険度の評価に照らすと、年間2千人余が、がんで死ぬ危険を負うことになります。もっとも、年間のがんによる死亡は30万人以上です。自然放射線の影響の割合は1%未満で、統計上はほかの変動要因に隠れてしまいます。
自然放射線による外部被ばくの代表が、宇宙から降り注ぐ宇宙線です。
自然放射線による年間被ばくの線量の内訳
(国連科学委員会の報告から作成)
宇宙線の影響
飛行機に乗ると宇宙線を被ばくしますが、逆に地表から放出される放射線が届かなくなるので、短距離の国内線では、差し引き勘定で地上の場合とほとんど変わりません。ところが地上1万メートル以上を長時間飛行する国際線の場合は、どうしても余分に被ばくします。
表で地球起源核種とあるのは、地球ができてから存在する自然放射能です。天然のウラン238が崩壊して生成するラドンガスが呼吸とともに肺に取り込まれ、内部被ばくだけで0・8ミリシーベルトあります。雨が降ると地中のラドンガスが追い出されて地表に出てくるので、一時的に放射線のレベルが上がります。
これらの自然放射線によって世界平均では2・4ミリシーベルト程度被ばくします。日本では地質に含まれている天然の放射性物質の種類や濃度が違うため、平均1・4ミリシーベルト程度被ばくします。
地域によっても差があります。関東や東北・北海道地方では低く、北陸・関西・中国・四国地方では相対的に高くなっています。関東地方が低いのは、富士山の大爆発でできた関東ローム層が地表を覆っているためです。この層は天然の放射性物質をあまり含んでいません。
「体に良い」のうそ
自然放射線でも、原発事故などに由来する人工放射線でも、同じ線量だけ被ばくすれば、被害の程度は基本的に同じです。細胞にしてみれば、生体細胞中の遺伝子を構成するDNAの鎖を断ち切ったのが自然放射線なのか人工の放射線なのか、区別はつきません。ともに等しく有害なのです。
私たちは、自然放射線も決して無条件に安全ではないことを認識し、その上で人工放射線の被ばくを最小限にとどめる道を求めなければなりません。
しかし、今でも「低線量の放射線は体に良い」と公言する「専門家」がいます。元東京電力副社長の加納時男元参院議員は、事故後に朝日新聞(5月5日付)で、「低線量の放射線は『むしろ健康にいい』と主張する研究者もいる。説得力があると思う。私の同僚も低線量の放射線治療で病気が治った」とのべています。
これは、「放射線ホルミシス」(注)と呼ばれる説です。例えば、普段から少量の放射線を浴びせたショウジョウバエと、放射線を浴びせなかったショウジョウバエに、一度に死ぬほどの放射線を浴びせると、普段から少量の放射線を浴びていたハエの生存率が高かったという実験結果などによるものです。
(注)ホルミシスとはギリシャ語の「ホルモン」と同じ語源です。低線量の放射線を浴びた場合にホルモンと同じような効果があるというものです。
放射線を浴びているとDNAが傷ついたりするので、「修復酵素系」が活性化します。つまり救急体制ができます。そこに死ぬほどの高線量がくると、救急体制ができているハエのほうが生き残る率が高いというわけです。
しかし、毎日少しずつ浴びて原発事故に備える人などいませんし、浴び続ける間にがんの危険は確実に蓄積します。「低線量が体に良い」などというのは無責任な話です。
高い医療被ばく
日本は、世界平均に比べて自然放射線は低いのですが、留意する必要があるのは、高い水準の医療被ばくです。世界の医療被ばくは年間0・4~1・0ミリシーべルトなのに、日本では年間2・4ミリシーベルトあります。CT(コンピューター断層撮影)が普及しつつあり、増加する傾向にあります。
放射線検査は、診断や治療に大きな便益がありますが、被ばく線量はいっそう低くすることが求められます。「不必要な放射線検査はしない」「被ばく線量ができるだけ低い診断技術を用いる」「放射線診断以外の診断方法がないかを検討する」などの努力が必要だと思います。
「しんぶん赤旗」日曜版 2011年10月2日付掲載
ラドン温泉とか放射能温泉の言葉に惑わされて、自然の放射線は体に良いと勘違いさせられているようですね。
でも、自然の放射線でも人間の体の細胞、DNAがうける被害は同じなのです。少ないに越したことはありません。
今はMRAが普及して放射線を浴びるCTスキャンをしなくて済むようになっていますが、体に手術で金属を入れている場合はMRAができません。
その分放射線のリスクが高くなります・・・
福島原発事故による低線量被ばくと自然界にある自然放射線を比べて、“事故の影響は軽い”と印象づける議論があります。これは、事故から教訓を徹底的にくみとって、余計な被ばくをできるだけ減らす重要性を少しも感じさせない、後ろ向きの姿勢だと思います。
そこで、今回は自然放射線について考えます。表にあるように、私たちは多様な自然放射線によって、年間で約2ミリシーベルト程度被ばくしています。これはある意味では困ったことで、本当は自然放射線も少ないにこしたことはありません。1人が年2ミリシーベルトなら、1億2千万人の日本人全体では24万シーベルトも被ばくしていることになります。
前回紹介した国際放射線防護委員会(ICRP)の「10ミリシーベルトの被ばくで1万人に1人ががんで死亡」という危険度の評価に照らすと、年間2千人余が、がんで死ぬ危険を負うことになります。もっとも、年間のがんによる死亡は30万人以上です。自然放射線の影響の割合は1%未満で、統計上はほかの変動要因に隠れてしまいます。
自然放射線による外部被ばくの代表が、宇宙から降り注ぐ宇宙線です。
自然放射線による年間被ばくの線量の内訳
(国連科学委員会の報告から作成)
線量/線源 | 年間被ばく線量(ミリシーベルト) | |||
外部被ばく | 内部被ばく | 合計 | ||
宇宙線 | 0.30 | ― | 0.30 | |
宇宙線によってつくられる放射性核種 | ― | 0.015 | 0.015 | |
地球起源の放射性核種 | カリウム | 0.12 | 0.18 | 0.30 |
ルビジウム87 | ― | 0.006 | 0.006 | |
ウラン系列の放射性核種 | 0.09 | 0.95(うちラドンガスの寄与分が0.80) | 1.04 | |
トリウム系列の放射性核種 | 0.14 | 0.19 | 0.33 | |
合計 | 0.65 | 1.34 | 1.99 |
宇宙線の影響
飛行機に乗ると宇宙線を被ばくしますが、逆に地表から放出される放射線が届かなくなるので、短距離の国内線では、差し引き勘定で地上の場合とほとんど変わりません。ところが地上1万メートル以上を長時間飛行する国際線の場合は、どうしても余分に被ばくします。
表で地球起源核種とあるのは、地球ができてから存在する自然放射能です。天然のウラン238が崩壊して生成するラドンガスが呼吸とともに肺に取り込まれ、内部被ばくだけで0・8ミリシーベルトあります。雨が降ると地中のラドンガスが追い出されて地表に出てくるので、一時的に放射線のレベルが上がります。
これらの自然放射線によって世界平均では2・4ミリシーベルト程度被ばくします。日本では地質に含まれている天然の放射性物質の種類や濃度が違うため、平均1・4ミリシーベルト程度被ばくします。
地域によっても差があります。関東や東北・北海道地方では低く、北陸・関西・中国・四国地方では相対的に高くなっています。関東地方が低いのは、富士山の大爆発でできた関東ローム層が地表を覆っているためです。この層は天然の放射性物質をあまり含んでいません。
「体に良い」のうそ
自然放射線でも、原発事故などに由来する人工放射線でも、同じ線量だけ被ばくすれば、被害の程度は基本的に同じです。細胞にしてみれば、生体細胞中の遺伝子を構成するDNAの鎖を断ち切ったのが自然放射線なのか人工の放射線なのか、区別はつきません。ともに等しく有害なのです。
私たちは、自然放射線も決して無条件に安全ではないことを認識し、その上で人工放射線の被ばくを最小限にとどめる道を求めなければなりません。
しかし、今でも「低線量の放射線は体に良い」と公言する「専門家」がいます。元東京電力副社長の加納時男元参院議員は、事故後に朝日新聞(5月5日付)で、「低線量の放射線は『むしろ健康にいい』と主張する研究者もいる。説得力があると思う。私の同僚も低線量の放射線治療で病気が治った」とのべています。
これは、「放射線ホルミシス」(注)と呼ばれる説です。例えば、普段から少量の放射線を浴びせたショウジョウバエと、放射線を浴びせなかったショウジョウバエに、一度に死ぬほどの放射線を浴びせると、普段から少量の放射線を浴びていたハエの生存率が高かったという実験結果などによるものです。
(注)ホルミシスとはギリシャ語の「ホルモン」と同じ語源です。低線量の放射線を浴びた場合にホルモンと同じような効果があるというものです。
放射線を浴びているとDNAが傷ついたりするので、「修復酵素系」が活性化します。つまり救急体制ができます。そこに死ぬほどの高線量がくると、救急体制ができているハエのほうが生き残る率が高いというわけです。
しかし、毎日少しずつ浴びて原発事故に備える人などいませんし、浴び続ける間にがんの危険は確実に蓄積します。「低線量が体に良い」などというのは無責任な話です。
高い医療被ばく
日本は、世界平均に比べて自然放射線は低いのですが、留意する必要があるのは、高い水準の医療被ばくです。世界の医療被ばくは年間0・4~1・0ミリシーべルトなのに、日本では年間2・4ミリシーベルトあります。CT(コンピューター断層撮影)が普及しつつあり、増加する傾向にあります。
放射線検査は、診断や治療に大きな便益がありますが、被ばく線量はいっそう低くすることが求められます。「不必要な放射線検査はしない」「被ばく線量ができるだけ低い診断技術を用いる」「放射線診断以外の診断方法がないかを検討する」などの努力が必要だと思います。
「しんぶん赤旗」日曜版 2011年10月2日付掲載
ラドン温泉とか放射能温泉の言葉に惑わされて、自然の放射線は体に良いと勘違いさせられているようですね。
でも、自然の放射線でも人間の体の細胞、DNAがうける被害は同じなのです。少ないに越したことはありません。
今はMRAが普及して放射線を浴びるCTスキャンをしなくて済むようになっていますが、体に手術で金属を入れている場合はMRAができません。
その分放射線のリスクが高くなります・・・
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