危機の経済 識者は語る② 資本市場を支える中銀
静岡大学教授 鳥畑与一さん
中央銀行信用に支えられた公的債務膨張は、欧米でも常態化しています。コロナ対応で3兆ドル近い財政赤字となる米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が約2・8兆ドルの信用拡大(うち1・7兆ドルが財務省証券購入)をしています。欧州中央銀行(ECB)もコロナ対応の国債等買い取り枠1・3兆叫を設定し、加盟国の赤字財政を支えます。また民間債券等多様な金融資産を対象にした中央銀行信用拡大が進んでいます。
中央銀行の役割は今、伝統的な「最後の貸し手」から「最後のマーケット・メーカー」または「最後のディーラー」に変貌した(国際決済銀行年次経済報告書2019)といわれます。例えばFRBは、公的債務を支える「政府の銀行」の役割拡大や銀行の企業向け信用枠の支援ばかりか、民間企業の株、社債、コマーシャルペーパー(短期社債の一種)、そして投資信託、証券化商品、さらには州等の地方債まで買い取り対象とすることで「資本市場の銀行」の役割を強めています。
「新しい常態」
短期金融市場の金利操作を中心とした伝統的金融政策は、あらゆる金融資産買い取りを中心とした非伝統的金融政策に移行し、それが新しい常態(ニューノーマル)とされています。あらゆる債務(公的債務+民間債務)の膨張を支えつつ、かつその価格維持(資本市場の安定)が中央銀行の政策目標とされることで、マネーの膨張と投機による大企業・金融機関と富裕層の利益追求が支えられ、それが貧富の格差を一層拡大するメカニズムとして機能しているのです。米・ポストンコンサルティンググループの「グローバル・ウェルス・レポート2020」によれば富裕層の資産74兆ドルの大半は株・債券等の金融資産が占めていますが、トマ・ピケティの『21世紀の資本』が格差拡大の要因とする「r>g」(資本収益率が経済成長率より大きい)を支える仕組みに中央銀行信用が深く組みこまれてます。
コロナ危機とFRBの量的緩和
単位:100万ドル
資料:FRB Factors Affecting Reserve Balances of Depository Institution
注:米国GDPは2007年の14兆776億ドルを採用している。
メカニズム限界
ところがいま、この資本蓄積メカニズムが大きな限界に直面しています。株主重視の経営による貧困と格差の拡大が資本主義社会の持続可能性を掘り崩しつつあり、米国財界のビジネスラウンドテーブルがその見直しを宣言するに至っています。この限界は、貧困化する99%の購買力衰退(需要喪失)による資本側の投資機会の減少(=資本過剰)という形で顕在化しており、量的金融緩和と財政赤字の巨大化にもかかわらず実体経済停滞の長期化として表れています。低金利による景気刺激効果が失われているのは、格差拡大の現実を反映しています。
日本でも「デフレ不況」は貨幣的現象であり、日銀の量的金融緩和でインフレへの転換が可能という「リフレ理論」が流行しましたが、巨額の日銀信用拡大にもかかわらずインフレ目標率2%を達成できない状態が続いています。日銀信用を増やしても、実体経済に信用需要がなければ銀行貸し出しは増大せず、「ひもでは押せない」と例えられる金融政策の限界があらわになっています。そこで中央銀行信用を財政支出で直接需要に転換していく政策が模索されるなかで、「自国通貨での国債は、返済不能にならない」とするいわゆる現代貨幣理論(MMT)が押し出されていると言えます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年7月30日付掲載
労働者の貧困化が進み、購買力の衰退。資本側も投資機会が減ってくる。
利益は金融資産の運用で上げる方向。
そのために、中央銀行は国家財政に資金提供するだけでなく、民間市場にも資金提供。
静岡大学教授 鳥畑与一さん
中央銀行信用に支えられた公的債務膨張は、欧米でも常態化しています。コロナ対応で3兆ドル近い財政赤字となる米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が約2・8兆ドルの信用拡大(うち1・7兆ドルが財務省証券購入)をしています。欧州中央銀行(ECB)もコロナ対応の国債等買い取り枠1・3兆叫を設定し、加盟国の赤字財政を支えます。また民間債券等多様な金融資産を対象にした中央銀行信用拡大が進んでいます。
中央銀行の役割は今、伝統的な「最後の貸し手」から「最後のマーケット・メーカー」または「最後のディーラー」に変貌した(国際決済銀行年次経済報告書2019)といわれます。例えばFRBは、公的債務を支える「政府の銀行」の役割拡大や銀行の企業向け信用枠の支援ばかりか、民間企業の株、社債、コマーシャルペーパー(短期社債の一種)、そして投資信託、証券化商品、さらには州等の地方債まで買い取り対象とすることで「資本市場の銀行」の役割を強めています。
「新しい常態」
短期金融市場の金利操作を中心とした伝統的金融政策は、あらゆる金融資産買い取りを中心とした非伝統的金融政策に移行し、それが新しい常態(ニューノーマル)とされています。あらゆる債務(公的債務+民間債務)の膨張を支えつつ、かつその価格維持(資本市場の安定)が中央銀行の政策目標とされることで、マネーの膨張と投機による大企業・金融機関と富裕層の利益追求が支えられ、それが貧富の格差を一層拡大するメカニズムとして機能しているのです。米・ポストンコンサルティンググループの「グローバル・ウェルス・レポート2020」によれば富裕層の資産74兆ドルの大半は株・債券等の金融資産が占めていますが、トマ・ピケティの『21世紀の資本』が格差拡大の要因とする「r>g」(資本収益率が経済成長率より大きい)を支える仕組みに中央銀行信用が深く組みこまれてます。
コロナ危機とFRBの量的緩和
20年2月末 | 20年4月末 | 20年6月末 | |
総資産 | 4,206,091 | 6,684,611 | 7,097,213 |
連銀信用 | 4,119,491 | 6,597,655 | 7,009,664 |
証券購入 | 3,846,566 | 5,562,498 | 6,115,130 |
財務証券 | 2,465,213 | 3,945,017 | 4,183,368 | MBS | 1,379,007 | 1,615,134 | 1,929,415 |
貸出 | 2 | 121,384 | 93,958 |
MMMF向け | 0 | 47,504 | 23,468 |
CP信用枠LLC | 0 | 0 | 12,797 |
企業信用枠LLC | 0 | 0 | 39,956 |
地方債流動性LLC | 0 | 0 | 16,079 |
中銀流動性スワップ | 45 | 434,253 | 276,697 |
対GDP(21726.8B)比率 | 19.3% | 30.8% | 33.0% |
資料:FRB Factors Affecting Reserve Balances of Depository Institution
注:米国GDPは2007年の14兆776億ドルを採用している。
メカニズム限界
ところがいま、この資本蓄積メカニズムが大きな限界に直面しています。株主重視の経営による貧困と格差の拡大が資本主義社会の持続可能性を掘り崩しつつあり、米国財界のビジネスラウンドテーブルがその見直しを宣言するに至っています。この限界は、貧困化する99%の購買力衰退(需要喪失)による資本側の投資機会の減少(=資本過剰)という形で顕在化しており、量的金融緩和と財政赤字の巨大化にもかかわらず実体経済停滞の長期化として表れています。低金利による景気刺激効果が失われているのは、格差拡大の現実を反映しています。
日本でも「デフレ不況」は貨幣的現象であり、日銀の量的金融緩和でインフレへの転換が可能という「リフレ理論」が流行しましたが、巨額の日銀信用拡大にもかかわらずインフレ目標率2%を達成できない状態が続いています。日銀信用を増やしても、実体経済に信用需要がなければ銀行貸し出しは増大せず、「ひもでは押せない」と例えられる金融政策の限界があらわになっています。そこで中央銀行信用を財政支出で直接需要に転換していく政策が模索されるなかで、「自国通貨での国債は、返済不能にならない」とするいわゆる現代貨幣理論(MMT)が押し出されていると言えます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年7月30日付掲載
労働者の貧困化が進み、購買力の衰退。資本側も投資機会が減ってくる。
利益は金融資産の運用で上げる方向。
そのために、中央銀行は国家財政に資金提供するだけでなく、民間市場にも資金提供。
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