グローバル経済と女性 フェミニズム経済学の視点 長田華子茨城大准教授に聞く① 差別には物質的基盤がある
多国籍企業が収益を膨張させる】方で生活困窮をきわめる労働者、拡大する先進国・途上国間の格差、侵略と虐殺、気候危機―。地球規模で広がる問題に対し、フェミニズム、ジェンダーの視点で解決を目指す学際的研究潮流があります。「フェミニスト経済学」です。昨年10月に日本初の入門書を共編した茨城大学の長田華子准教授に聞きました。
(聞き手日隈広志)
ながた・はなこ 茨城大学准教授(博士)。専門はアジア経済論、南アジア地域研究、ジェンダー論。お茶の水女子大学院卒。バングラデシュ留学を経験。『990円のジーンズがつくられるのはなぜ』(2016年、合同出版)など著書多数。
フェミニズム
女性差別による抑圧からの解放を目指す思想および社会運動の総称。その歴史は、第1波(19世紀末から20世紀初め)、第2波(1960年代末から70年代前半)に加えて、第3波、第4波があるとされている。
◇
ジエンダー
社会が構成員に対して押し付けた女性や男性の行動規範や役割分担のこと。自然にできたのではなく、国民を支配・抑圧するために政治的につくり、歴史的に押し付けられてきたもの。
―フェミニスト経済学がいま注目を集める理由は何でしょうか。
116、125、118。これらの数字は、「世界経済フォーラム」による「ジェンダーギャップ指数」(GGI)での日本の直近3年の順位です。一連の順位は主要7力国(G7)、経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最低レベルです。
GGIの順位は、ジェンダー不平等な国の経済・社会政策、企業経営を通じて、人々の労働や暮らし、命を脅かす喫緊の問題が生じていることを示しています。
ケアへの無関心
代表例は育児や介護など他者の「生」を支えるケアへの関心の乏しさです。主に家庭内で行われるケアは長らく「女性の役割」とされ、日本の政治・経済での重要課題とはみなされてきませんでした。
その結果、コロナパンデミック(世界的流行)では、看護師ら医療従事者の人数不足、過酷な労働環境、病院のベッド数の不足が大きな問題になりました。ケアに無関心な政府による社会保障関連予算の縮小・削減の弊害が、露呈しました。
毎年減少する出産数の問題の根幹には、「女性活躍」と称して低賃金、不安定雇用で女性の労働力を利用する一方、女性にケアの負担を押し付ける政治、経済、家庭の構造があります。保育士、介護士などケア労働者の待遇改善も放置されたままです。
ジェンダーによる差別や抑圧には、経済的な利害につながる物質的な基盤が存在しているー。この認識に立って、既存の経済学や経済政策を問い直し、問題の解決を図ろうとしているのが「フェミニスト経済学」です。フェミニスト経済学は、マルクス経済学などと並んで異端派経済学の一つとされています。
運動体の要素も
―フェミニスト経済学はどのように発展したのですか。
フェミニズムと経済学の理論の関係性が初めて公に語られたのは1990年の米国経済学会の大会の一つの部会でのことでした。その後、その参加者を中心にフェミニスト経済学会(通称IAFFE)が設立され、理論発展の拠点になりました。研究者は欧州、アジア、アフリカ、ラテンアメリカに広がり、名実ともに国際学会へと発展しました。
国際フェミニスト経済学会の特徴は、経済学のみにとどまらず、社会学や地理学など学際的であること、研究者に加え、活動家や実務家などが参加しており幅広い運動体としての要素を備えていることです。
IAFFEは97年に国連経済社会理事会との協議資格を獲得し、以降、国連の場などで積極的に政策提言を行っています。
また、コロナパンデミックから数カ月後には、IAFFEの研究者がオンラインでつながり、各国の状況や政策を分析し、その問題点を報告し必要な政策提言をしました。その他、イスラエルによるパレスチナ侵攻に対しても学会として声明を発表しています。
この連載では、フェミニスト経済学の中心的な概念とともに、国内・国際経済の諸分野で問題解決の糸口となっているフェミニスト経済学の有効性を紹介したいと思います。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年8月27日付掲載
代表例は育児や介護など他者の「生」を支えるケアへの関心の乏しさです。主に家庭内で行われるケアは長らく「女性の役割」とされ、日本の政治・経済での重要課題とはみなされてこなかった。
その結果、コロナパンデミック(世界的流行)では、看護師ら医療従事者の人数不足、過酷な労働環境、病院のベッド数の不足が大きな問題に。ケアに無関心な政府による社会保障関連予算の縮小・削減の弊害が、露呈。
ジェンダーによる差別や抑圧には、経済的な利害につながる物質的な基盤が存在しているー。この認識に立って、既存の経済学や経済政策を問い直し、問題の解決を図ろうとしているのが「フェミニスト経済学」です。フェミニスト経済学は、マルクス経済学などと並んで異端派経済学の一つ。
国際フェミニスト経済学会の特徴は、経済学のみにとどまらず、社会学や地理学など学際的であること、研究者に加え、活動家や実務家などが参加しており幅広い運動体としての要素を備えていること。
多国籍企業が収益を膨張させる】方で生活困窮をきわめる労働者、拡大する先進国・途上国間の格差、侵略と虐殺、気候危機―。地球規模で広がる問題に対し、フェミニズム、ジェンダーの視点で解決を目指す学際的研究潮流があります。「フェミニスト経済学」です。昨年10月に日本初の入門書を共編した茨城大学の長田華子准教授に聞きました。
(聞き手日隈広志)
ながた・はなこ 茨城大学准教授(博士)。専門はアジア経済論、南アジア地域研究、ジェンダー論。お茶の水女子大学院卒。バングラデシュ留学を経験。『990円のジーンズがつくられるのはなぜ』(2016年、合同出版)など著書多数。
フェミニズム
女性差別による抑圧からの解放を目指す思想および社会運動の総称。その歴史は、第1波(19世紀末から20世紀初め)、第2波(1960年代末から70年代前半)に加えて、第3波、第4波があるとされている。
◇
ジエンダー
社会が構成員に対して押し付けた女性や男性の行動規範や役割分担のこと。自然にできたのではなく、国民を支配・抑圧するために政治的につくり、歴史的に押し付けられてきたもの。
―フェミニスト経済学がいま注目を集める理由は何でしょうか。
116、125、118。これらの数字は、「世界経済フォーラム」による「ジェンダーギャップ指数」(GGI)での日本の直近3年の順位です。一連の順位は主要7力国(G7)、経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最低レベルです。
GGIの順位は、ジェンダー不平等な国の経済・社会政策、企業経営を通じて、人々の労働や暮らし、命を脅かす喫緊の問題が生じていることを示しています。
ケアへの無関心
代表例は育児や介護など他者の「生」を支えるケアへの関心の乏しさです。主に家庭内で行われるケアは長らく「女性の役割」とされ、日本の政治・経済での重要課題とはみなされてきませんでした。
その結果、コロナパンデミック(世界的流行)では、看護師ら医療従事者の人数不足、過酷な労働環境、病院のベッド数の不足が大きな問題になりました。ケアに無関心な政府による社会保障関連予算の縮小・削減の弊害が、露呈しました。
毎年減少する出産数の問題の根幹には、「女性活躍」と称して低賃金、不安定雇用で女性の労働力を利用する一方、女性にケアの負担を押し付ける政治、経済、家庭の構造があります。保育士、介護士などケア労働者の待遇改善も放置されたままです。
ジェンダーによる差別や抑圧には、経済的な利害につながる物質的な基盤が存在しているー。この認識に立って、既存の経済学や経済政策を問い直し、問題の解決を図ろうとしているのが「フェミニスト経済学」です。フェミニスト経済学は、マルクス経済学などと並んで異端派経済学の一つとされています。
運動体の要素も
―フェミニスト経済学はどのように発展したのですか。
フェミニズムと経済学の理論の関係性が初めて公に語られたのは1990年の米国経済学会の大会の一つの部会でのことでした。その後、その参加者を中心にフェミニスト経済学会(通称IAFFE)が設立され、理論発展の拠点になりました。研究者は欧州、アジア、アフリカ、ラテンアメリカに広がり、名実ともに国際学会へと発展しました。
国際フェミニスト経済学会の特徴は、経済学のみにとどまらず、社会学や地理学など学際的であること、研究者に加え、活動家や実務家などが参加しており幅広い運動体としての要素を備えていることです。
IAFFEは97年に国連経済社会理事会との協議資格を獲得し、以降、国連の場などで積極的に政策提言を行っています。
また、コロナパンデミックから数カ月後には、IAFFEの研究者がオンラインでつながり、各国の状況や政策を分析し、その問題点を報告し必要な政策提言をしました。その他、イスラエルによるパレスチナ侵攻に対しても学会として声明を発表しています。
この連載では、フェミニスト経済学の中心的な概念とともに、国内・国際経済の諸分野で問題解決の糸口となっているフェミニスト経済学の有効性を紹介したいと思います。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年8月27日付掲載
代表例は育児や介護など他者の「生」を支えるケアへの関心の乏しさです。主に家庭内で行われるケアは長らく「女性の役割」とされ、日本の政治・経済での重要課題とはみなされてこなかった。
その結果、コロナパンデミック(世界的流行)では、看護師ら医療従事者の人数不足、過酷な労働環境、病院のベッド数の不足が大きな問題に。ケアに無関心な政府による社会保障関連予算の縮小・削減の弊害が、露呈。
ジェンダーによる差別や抑圧には、経済的な利害につながる物質的な基盤が存在しているー。この認識に立って、既存の経済学や経済政策を問い直し、問題の解決を図ろうとしているのが「フェミニスト経済学」です。フェミニスト経済学は、マルクス経済学などと並んで異端派経済学の一つ。
国際フェミニスト経済学会の特徴は、経済学のみにとどまらず、社会学や地理学など学際的であること、研究者に加え、活動家や実務家などが参加しており幅広い運動体としての要素を備えていること。
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