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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

社会保障と新自由主義① ゾンビのようなしぶとさ

2021-12-16 07:14:29 | 予算・税金・消費税・社会保障など
社会保障と新自由主義① ゾンビのようなしぶとさ
新型コロナウイルス危機の下で関心が高まった社会保障と新自由主義の関係について、二宮厚美神戸大学名誉教授に聞きました。(杉本恒如)

神戸大学名誉教授 二宮厚美さん
―岸田文雄氏が「新自由主義からの転換」に言及して首相になりました。どうみますか。
国民生活からみれば、新自由主義の破綻は明らかです。
1990年代後半以降、新自由主義思想に沿って労働法制を緩和した結果、低賃金の非正規労働者が増え、貧困と格差が広がりました。大企業や富裕層の得た利益が庶民にしたたり落ちる「トリクルダウン効果」は起きませんでした。下から上へ富を吸い上げる「ストロー効果」を強めたのだから、起きるはずがありません。
また、新自由主義思想に沿って社会保障費を圧縮し続けた結果、新型コロナ感染症が広がった途端に保健・医療体制が崩壊しました。感染拡大の第4波から第5波にかけて、入院できずに自宅待機とされる感染者が続出しました。大阪では自宅待機中の感染者が毎日毎日、命を落としました。安倍晋三元首相と菅義偉前首椙は立て続けに「コロナ敗戦」に見舞われ、首相の座を放り出しました。



東京の新規感染者数が3177人となったことを伝える電光掲示板=7月28日、東京・渋谷駅ハチ公口

圧力に押されて
誰の目から見ても新自由主義の政策が破綻する中で、岸田氏は総選挙に向けて野党共闘勢力との政策的対決を意識せざるを得ませんでした。著書『岸田ビジョン』で岸田氏が「残念ながら、『トリクルダウン』の現象はまだ観察されていない」と書いたのは、新自由主義の破綻を認めたものです。保育、介護、医療従事者の給与水準の見直しを言い出したのも、野党共闘の圧力に押された結果です。
しかし、発足後の岸田政権の政策をみれば、そうした部分的手直しすら不十分です。雇用や社会保障の分野で新自由主義の枠組みを根本から転換する発想はありません。国民生活との関係で破綻しても、新自由主義は簡単にはつぶれないのです。
―なぜ新自由主義はしぶといのでしょう。
現代の新自由主義を三つの視点から把握すればわかります。
第一は、市場原理主義の教義という性格です。すべての財貨やサービスを市場取引に委ねることが国民生活と経済に最良の結果をもたらすと説きます。この考え方が貫徹すると、市場競争の勝者が利益を総取りし、敗者は生存権すら保障されない、弱肉強食のジャングルの法則が現れます。例えば、等価交換の市場取引ではサービスを受けるために同等の対価を支払わなければなりません。社会保障分野にこの「応益負担」原則が持ち込まれた結果、患者負担や介護利用料が次々に引き上げられ、生存に必要な医療・介護を受けられない事態が生じています。

聖域に風穴開く
第二は、規制緩和と民営化・営利化の推進力という性格です。現代社会では市場原理はむき出しの形では通用しません。市場原理に敵対する人権原理があるからです。人権原理は、市場部門の外に公共部門をつくって営利企業を排除し、教育・福祉・医療・雇用・環境・文化・研究などを守ってきました。これらの「聖域」に規制緩和や民営化で風穴を開ける新自由主義的改革が全国の自治体を席巻した結果、公共部門は空洞化してしまいました。
第三は、福祉国家解体戦略のために体制側が動員するイデオロギーという性格です。多国籍企業に変貌した現代の大企業は福祉国家を邪魔者扱いします。グローバル市場を相手に競争する大企業は、国内需要の不足を大きな問題とせず、総人件費と税負担の削減に明け暮れるからです。生存権・労働権・環境権・教育権などの人権を保障する財源を大企業に求める福祉国家を妨害物とみなし、縮小・解体をたくらむのです。市場原理主義・規制緩和・民営化はそのための戦略とされます。
他方で、福祉国家への諸国民のニーズは繰り返し生まれ、封じ込めることができません。コロナ危機と地球環境危機が大企業への課税や規制を焦点に押し上げたのは典型的事例です。新自由主義は繰り返し破綻しながら、多国籍型大企業の要求に応じて、新たな福祉国家の芽をつぶす戦略として繰り返しよみがえります。これが、新自由主義がゾンビのように生き延びる理由です。
(つづく)(4回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月15日付掲載


大企業や富裕層の得た利益が庶民にしたたり落ちる「トリクルダウン効果」は起きませんでした。下から上へ富を吸い上げる「ストロー効果」を強めたのだから、起きるはずがありません。
すでに破綻しているはずの新自由主義がしぶといのは、第一は、市場原理主義の教義という性格、第二は、規制緩和と民営化・営利化の推進力、第三は、福祉国家解体戦略のために体制側が動員するイデオロギー。
賃金が安いのは本当は非正規労働を推進したからなのに、能力が足りないで片づけられる。
非営利の医療を担っている公立病院の統廃合は、営利優先のため。
医療費・介護費の負担増は、受益者負担の理論。
そこには、寒々しい新自由主義の社会。
コメント
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