【奈良県立図書情報館で7月5日まで】
古都奈良をこよなく愛し、多くの歌や書を残した歌人・書家の会津八一(1881~1956)。その短歌のイメージを写真で表現する「秋艸道人(しゅうそうどうじん)賞写真コンテスト」の入賞入選作品展が奈良県立図書情報館(奈良市大安寺西)で開かれている(23日~7月5日)。「秋艸道人」は八一の雅号。コンテストは八一の生まれ故郷、新潟市にある「公益財団法人会津八一記念館」の主催で、「八一の歌をモチーフに万人の心に響く心象風景を映像化してほしい」と2006年度から始まった。今回で8回目。
募集作品は同記念館発行の『会津八一 悠久の五十首』に掲載されている50首の中から1首を選んでテーマとしたもの。今回は全国から107点の応募があり、その中から入賞作7点、入選作22点が選ばれた。最優秀の秋艸道人賞は渡辺繁雄さん(新潟市)の作品(㊤)。「船人ははや漕ぎ出でよ吹き荒れし 宵のなごりのなほ高くとも」という歌をテーマとし、打ち寄せる怒涛をものともせず3羽の鳥が飛翔するたくましい姿をとらえた。
早稲田大学会津八一記念博物館賞に選ばれたのは今村克治さん(新潟県胎内市)の作品(㊧)。完熟ザクロの割れ目から姿を見せる真っ赤な粒々の実が艶かしい輝きを放つ。テーマの歌は「空ふろの湯気たちまよう床の上に 膿にあきたる赤きくちびる」。入賞作は最優秀も含め7点中6点が新潟県内在住者の作品だった。唯一県外からの入賞者は澤戢三さん(奈良県三郷町)で、「天地(あめつち)にわれひとりいて立つごとき このさびしさを君はほほ笑む」の歌をテーマとした作品(㊨)が審査員特別賞(高倉健氏追悼記念)に選ばれた。
八一が初めて奈良を訪れたのは20代後半の1908年。奈良の仏教美術に強い関心を抱くとともに、この旅行が俳句から短歌へ移るきっかけになったといわれる。その後、奈良を度々訪れた。八一の歌碑は全国に約50基あるそうだが、そのうち20基ほどが奈良県内にある。奈良県は八一の縁で3年前、新潟市と「歴史文化交流協定」を結んでいる。入賞入選作品展は今年1月から新潟市を皮切りに巡回しており、関西では奈良県立図書情報館のほか、いかるがホール(奈良県斑鳩町)、相国寺承天閣美術館(京都市)でも開催。(八一原作の短歌はすべて平仮名書きだが、記念館発行の『会津八一 悠久の五十首』は読者・応募者が理解しやすいように漢字交じり)