【鎌田遵著、集英社発行】
著者鎌田氏は亜細亜大学専任講師、専門はアメリカ先住民研究。高校卒業後に渡米し、23年間にわたって度々アメリカ先住民や非合法移民と寝食を共にしてきた。訪れた先住民居留地は100カ所以上に及ぶ。その体験を基に、先住民はアメリカ発展の陰で長きにわたって「エコサイド」に苦しめられてきたと指摘する。「生態系や環境、そこで生活する人たちの健康や暮らし、文化や伝統までをも根本から破壊する、人間がつくりだした文明の暴力だ」。
2011年の東日本大震災後、被災地や避難所を回って被災者の話に耳を傾けた。そんな中でこのエコサイドという言葉を反芻した。辺境に追われて生きるアメリカ先住民と、放射能によって故郷を追われた福島の人たちが重なり合った。「奪われたのは、先祖から受け継いだ土地で紡いできた文化そのものなのだ」。それは両者に共通する。
アメリカ西部沿岸部の先住民マカ族。もともと捕鯨が貴重な食糧を得る手段で、宗教儀式にも欠かせない営みだった。しかし鯨資源の回復を機に捕鯨を再開したところ、反捕鯨団体などの圧力によって中止に追い込まれた。一方、和歌山県太地町。「捕鯨は太地町の歴史と文化の根幹をなしている」。だが、イルカの追い込み漁に焦点を当てた映画「ザ・コーヴ」の公開以来、欧米の反捕鯨団体による執拗な妨害が続く。
アメリカには「White Man Syndrome(白人男性症候群)」と名付けられた病があるそうだ。その主な症状は自分の知識が常に他人より圧倒的に優れていると確信するあまり、人の話を聞けなくなるという。バージニア大学で教鞭を執る白人男性は「ザ・コーヴ」を典型的な白人男性症候群の産物と指摘し、「白人男性がアジアに行き、正義の味方のように振る舞うのを見ていて恥ずかしくなる」と著者に語った。
紀伊半島の南西端に位置する太地町はかつて原発反対運動で揺れたことがある。一方、マカ族の居留地も半島の突端という辺境に位置し、原発の誘致を打診された。だが「自然との共生」を掲げる部族政府は断固反対を貫いた。太地町はかつて大量のアメリカ移民を送り出した町でもある。2011年に再結成された「在米太地人系クラブ」には約120人が集まったという。
「ザ・コーヴ」は2010年、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を獲得した。著者は「あまりに一面的で排他的な反捕鯨や反イルカ漁を主張するプロパガンダ映画」にその賞が与えられたのは「残念なこと」と指摘する。ただ太地町の町長は「ピンチはチャンス」「映画は町の宣伝になっている」と前向きにとらえているそうだ。その心意気に救われる。