く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか」

2013年12月04日 | BOOK

【トーマス・シーリー著、片岡夏実訳、築地書館発行】

 人類が有史以前からその蜂蜜や蜜蝋などのお世話になってきたミツバチ。そのハチたちは春から夏にかけ分蜂(巣分かれ)し、新天地に新しいコロニーを作る。新居をどこにするかという選択は群れにとって生死に関わる重大事。本書はその場所探しの決定がいかに民主的に行われているかを、長年の追跡調査を基に明らかにした。極小さな脳しか持たないミツバチたちが進化の末に身に付けた〝分蜂群の知恵〟にはただ驚くばかりだ。

   

 著者シーリーは1952年生まれで、米コーネル大学の生物学教授。ドイツのリンダウアー教授が1950年代に始めたミツバチの家探しの研究を引き継ぎ、その研究によりハーバード大学で博士号を取得している。ミツバチの好みを探るために作った巣箱は252個に達し、何千匹ものハチに1匹ずつ背中にラベルを貼って、新しいすみかの探索バチや働きバチの動きを観察してきた。

 ハチの〝尻振りダンス〟は今では広く知られる。蜜源の花を見つけたハチは巣に戻ると仲間にダンスでその方向と距離を伝えるというものだ。その発見は40年前のノーベル生理学・医学賞につながった。分蜂群の探索バチも巣作りの候補地を見つけたらダンスで知らせる。ただ何カ所もの候補地の中から最適な場所をどのように決めるかは分かっていなかった。シーリーはその謎を解き明かした。

 分蜂群は1匹の女王バチと約1万匹の働きバチから成る。元の巣から飛び出ると近くの木の枝などに塊となって数時間から数日間ぶら下がったまま。その間に数十匹の探索バチが山野のあらゆる方向に飛び立ち約5キロ四方にわたって新居の候補地をくまなく探す。ハチは入り口の広さや高さ、空洞の容積などから総合的に評価し、それぞれ巣に戻って仲間にダンスの強さと周回の多さで報告する。

 そのダンスを見たまだ支持する場所のない中立の探索バチは、自ら候補地に行って確かめ評価したうえで、巣に戻り同様にダンスをする。「優れた候補地を支持する探索バチは、劣った候補地の支持者に比べて長く、そして『声高』に支持を表明する」。やがて多くの候補地の中からより良いものがダンスを独占し、最後は全員一致で新しい巣作りの場所が決まる。この後、探索バチは分蜂群のハチたちに〝飛行筋〟のウオーミングアップを促し、体が温まると一斉に飛び立つ。

 著者は「ミツバチの家探しは、意思決定集団が正確な合意形成を行い、なおかつ時間を節約する賢明な方法を示している」「興味深いのは、探索バチはこのすべてを、リーダーによる指図なしでやるということ」「探索バチはみな、どちらかと言えば質が低い選択肢でも、自分の発見したものを遠慮なく主張することも注目に値する」と指摘する。

 新居の場所を知っている僅か数%の探索バチが、1万匹もの分蜂群全体にどう情報伝達し誘導するのかなど謎も残っているものの、その合意形成の方法は多くの教訓を含む。著者自身もミツバチから学んだ意思決定の方法を、大学での月1回の教授会で応用し、その効果を実感しているという。この本を通してミツバチがより身近な愛すべき存在になってきた。

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