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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費性向の低下とエンゲル係数の上昇

2019年03月17日 | 経済
 エコノミストの中には、消費性向が低下して貯蓄が増すと、条件反射のように「将来不安が増大した」と唱える人が居て、「不安を除くには財政再建」と大仰な処方を出したりする。実際の消費性向は、そうした心理で動くものではなく、収入や物価によってマクロ的に決まる。そうでなければ、2014年の消費増税を境に、消費性向が急低下していることの説明がつかない。もっとも、消費増税をしたために、ますます財政再建が不安になったと言うなら別であるが。

………
 家計調査(二人以上の勤労者世帯)には、実収入に占める「非食料消費」の割合が半世紀もの長きに渡り一定を保ってきたという「法則」の存在が知られている。正確には、極めて安定的な中、長期的な景気変動を示す緩やかな下降と上昇を繰り返している。そして、残る「食料消費」は、1997年までは、年を追うごとに低下していた。つまり、経済成長で所得が増えるに従い、エンゲル係数は小さくなり、社会が豊かになった証拠となってきたのである。

 ところが、1997年に大規模な緊縮財政を行い、デフレ経済に転落し、名目成長が失われてしまうと、エンゲル係数は、一進一退の状況へと変化し、2006年以降になると、わずかずつ上昇するようになり、2014年の消費増税を経て、2015~16年に急上昇する。果たして、日本は、貧しくなったのか。「法則」を揺るがすような激しい変化は、なかなか見られないのだから、詳しく分析する価値があろう。

 まず、消費者物価指数の食料は、2014~16年にかけて、+3.9%、+3.1%、+1.7%と急上昇した。総合指数は、消費増税の2014年こそ+2.7%であったが、2015,16年は+0.8、-0.1に止まり、その高さが目立つ。食料は、高騰しても、なかなか量を減らせないので、その消費支出は増加して、2014~16年には+0.9%、+4.4%、+0.6%となった。そんな中、消費支出の全体は、-0.1%、-1.1%、-1.8%と、逆に減っている。この結果がエンゲル係数の急上昇だった。

 こうした消費支出の減少は、収入が減り続けたためではない。「実収入」は-0.7%、+1.1%、+0.2%と推移した。そのため、実収入から「消費支出」と「税・保険料」を差し引いた残差(貯蓄を示す)の割合は、20.5%、21.3%、22.6%と拡大している。すなわち、食費が増大し、消費が減って生活水準は落ちたものの、実収入と貯蓄は増え、名目では、必ずしも家計が貧しくなったわけではない。むろん、実質だと、まったく追いついていないのだが。

(図)


………
 さて、その後の2017、18年はどうだったのか。2017年には、実収入が+1.1%と更に伸び、消費支出が+0.8%となる中で、食料が-0.4%だったことから、エンゲル係数は0.3低下し、残差(貯蓄)の割合が0.3上昇した。そして、2018年には、統計調査の接続の問題もあって、実収入が+4.6%と急伸し、消費は+0.8%、物価高だった食料が+2.0%となり、エンゲル係数は0.3上昇して元に戻るとともに、残差(貯蓄)は+2.7と著増した。

 2018年は、世帯主の収入を見ると、+1.4%と前年並みの伸びに過ぎず、実収入の急伸は配偶者と他の世帯員によるものであるため、調査票の変更による把握範囲の拡大の影響があると考えられる。実態的には、残差(貯蓄)は若干の増加に止まるものと思われる。一方、2017,18年の消費者物価の総合指数は、+0.5%と+0.9%だったので、世帯主の収入の伸びだけで上回っており、わずかにせよ豊かになったとは言えよう。

 長期的に見ると、貯蓄の割合は、1983~98年にかけての景気上昇局面で拡大し、1998~2014年にかけての景気停滞局面で縮小してきた。貯蓄は、税・保険料の負担とは、対称的な関係にもあり、この局面においては、貯蓄減の一方、負担増にもなっている。こうして眺めるなら、消費や貯蓄の割合について、将来不安のような曖昧なもので解釈せず、収入や負担、物価の状況によって動くと考える方が自然である。

 そして、2014年以降の緊縮的なアベノミクスにおいて、貯蓄の割合は大きく拡大した。 これは、景気上昇局面での拡大ということもあるが、消費増税と円安による輸入物価高で、食料を中心に、強引にデフレではない状況にしたために、非食料消費は抑制されてしまったということだろう。しかも、エンゲル係数の拡大には、消費増税分が含まれており、実収入の伸びは、臨時収入・賞与と配偶者や他の世帯員の支えによるもので、経常的支出に結びつきにくい。結局、需要の強さによる物価上昇という、本当の意味でのデフレ脱却にはなっていないのである。


(今日までの日経)
 米で財政赤字容認論が浮上 民主左派が支持、学界巻き込み論争。パート賃金2.82%上げ 小売り・外食、昨年上回る 正社員は微減。

※財政赤字は、次善の策として忌避すべきものではない。すなわち、格差が拡大し、消費性向の低い富裕層に十分な課税ができていない状況なら、容認すべきものである。課税から逃れた上に、資産価格を守ろうと赤字も許さない態度が経済成長を阻害する。


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1 コメント

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Unknown (bnm)
2019-03-17 16:57:32
私のコメントに対して書いていただけたんでしょうか。そうだとしたらありがとうございます。
でも、富裕層に十分な課税があっても財政赤字は容認すべきです。財政赤字=民間黒字(海外部門除く)であり、黒字なしの民間は持続不可だからです。
またそもそもを言えば、次善の策もなにも財政赤字がなければベースマネーは存在せず(ベースマネーは100%政府日銀による発行であり、どこか他所から持ってくることはできないので)、マネーストックも当然存在しないことになります。忌避もなにも財政赤字あってこその円経済です。

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