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 原田國男判事の退官記念論文集「新しい時代の刑事裁判」(判例タイムズ社)が刊行されている。刑事裁判の第一線を担っている裁判官が多く執筆しており,全33本の論文のうち,裁判員制度関係が21本,量刑関係が6本を占めているので,裁判員裁判に関心をお持ちの向きには必須の文献であろう。値段が14000円と高いのが玉にきずであるが,裁判員制度関係の論文のタイトルを見るだけでも,「裁判員裁判における科学的証拠の取調べ」,「裁判員が参加する刑事裁判における精神鑑定の手続」,「責任能力判断の基礎となる考え方」,「裁判員裁判における共犯者判決の取扱い」,「被害者及び被害者遺族の処罰感情と刑事手続上の表出方法」,「裁判員裁判における少年法55条による移送の主張について」,「裁判員との量刑評議の在り方 」と言ったホットな問題が並んでいる。量刑関係では,前田雅英教授が「死刑と無期刑との限界」について書かれている。
 そうした中に,「裁判員裁判と刑事裁判修習」,「司法修習生による評議の傍聴について―裁判員制度の実施を契機として」といった論考も載っている。今まで司法修習生は裁判官同士の合議に事実上参加して意見も言えるのが「特権」でもあり,実践的なトレーニングの場であったのだが,裁判員を交えた評議についてどう修習生を扱うかは実は厄介な問題となる。当初はそもそも参加させないという運用が考えられていたようだが,最近は評議室の中に入れるが「気配を消した」状態で傍聴するらしい。「気配を消す」というのは,裁判員の発言に対してうなずいたり首をかしげたりしても評議に影響を与えかねないからじっとしていろと言うことのようだ。意見を言えないという点では「補充裁判員」も同じだが,「気配を消す」のは相当につらい。
 閑話休題。今年の一月に退官直前の原田さんの講演を聴く機会があった。「裁判員裁判における量刑」というタイトルで,既に「量刑判断の実際」(立花書房)といった本を書いておられる方なので,学術的なお話をされるのであろうと身構えていたが,なかなか実務的で「やさしくふかい」話をしていただき,良い意味で期待を裏切られた。原田さんは,一度法廷で,起訴された事実を認めると言って席に下がった被告人が異様に喉仏を上下させているのを見て,もう一度起訴された事実について確認すると否認に転じたという経験を話され,そのせいもあってか,黙秘権の告知は,たとえ自白事件であっても「本当にやってないのならここで言わないと駄目だよ。控訴審や上告審,再審で言ったって駄目だよ」と言うそうである。この講演を聴いた途端,原田さんのファンになり,積ん読になっていた御著書を紐解こうと思ってまだ果たせずにいる。不勉強で怠惰なファンで申し訳ない。
(くまちん)


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