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 4月8日木曜日のクローズアップ現代は,名張毒ぶどう酒事件を取り上げ,木谷明・元判事も出演され,参考人聴取も含めた可視化の必要性を訴えておられた。事件に関与した裁判官にも取材していたが,「絶対、間違いないという証拠がある事件はむしろ少ない。(犯人である)確率90%が80%に下がっても有罪とする場合もある。」とまで言い切る裁判官がおられることには,いささか呆然とした。
 http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=2873
 事件の詳細についてはこちらを
 http://www.enzaiboushi.com/600nabariz/
 何よりも驚くのは,この事件の発生が昭和36年3月であることだ。不肖私は昭和36年2月生。奥西・元被告人(マスコミ的に定着したこの呼び方も変なものだが,「死刑囚」と呼ぶよりはいいと言うことかもしれない。しかし,彼が依然として「確定死刑囚」であることには何の変わりもない。)は,49歳の私が物心つく前から半世紀近く拘束されているのである。
 この事件では,昭和36年当時に使用されていた農薬ニッカリンTに関する鑑定が問題となり,再審弁護団は当時流通していた農薬を入手するのに大いに苦労したそうである。幸い農薬に関するウエブページの掲示板に書き込みをしたところ,入手方法のヒントが得られ,当時の農薬が入手できたとのことである。私もさる再審事件弁護団の末席を汚しているが,やはり科学鑑定には悩まされており,その苦労が分かる。
 各都道府県警察本部には科学捜査研究所という付属機関があり,ここで多くの鑑定がなされる(「科捜研の女」というドラマもある)。もちろん警察の機関が行う鑑定全てに問題があるなどと言うつもりは更々ないが,足利事件のDNA鑑定や,時に報じられる鑑定資料の取り違えのようなことがあると,弁護側からのアクセスや条件設定要望も可能とする公正中立な鑑定機関が望まれるところである。かつて警察関係書の多い出版社から刊行されていた先輩刑事の自慢話には,死亡推定時刻とアリバイが問題となったときに,頼み込んで死亡推定時刻を警察側に有利に幅を持たせてもらってホシを逮捕できたなどという恐ろしい話が堂々と掲載されていた。本来であれば,将来的には法テラスあたりが鑑定機関的機能を果たしたり,少なくとも弁護側での鑑定を受託してくれる機関の紹介や,鑑定費用の援助をしていただきたいところであるが,現状ではその道は遠い。
 そもそも従来の弁護士は,文科系の法学部を出て司法試験に合格したものが大多数で,理科系の知識に疎いことは否めない。法科大学院によって目指した法曹養成制度の一つの目標は,理科系も含めた多様な人材を法曹界に迎え入れ,例えば弁護団の中に科学的鑑定の問題点を的確に突くことができる人材を置けるような状況を作ることだったはずであるが,現在では,そうした志願者が大幅に減少しかねない状況であることが悩ましい。

蛇足 間もなく「Q&A 見てわかるDNA型鑑定」発行:現代人文社 定価3780円(税込)という本が発売される。足利事件の誤鑑定を指摘された日本大学医学部押田茂實教授も編著者になっておられ,科学に疎い刑事弁護人の目から鱗が何枚も落ちる内容となっているそうである。鑑定書に添付されるチャート(グラフのようなもの)の見方も解説され,付録に手技が全てビジュアルにわかるDVDがついているのも嬉しい。このあたりが分からないから,弁護人は反対尋問がしにくいし,尋問もかみ合わないのである。
(くまちん)


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