日本裁判官ネットワークブログ
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1 先日のニュースで,ある大学生がインターネット上に飲酒運転したことについて書き込んだところ,書き込みを見た人から大学に「不謹慎だ」,「学生への指導をしっかりすべきだ」といったメールや電話が18件寄せられ,大学は「大学の名誉を傷つける不適切な行為」であるとして,学生を3か月の停学処分にしたという。学生は,飲酒して帰宅後,簡易投稿サイト・ツイッターで,実は飲酒して自転車に乗ったのであるが,自転車とは書かず,「飲酒運転は久しぶりでハラハラした」と書き込んだので,あたかも自動車かオートバイを飲酒運転したと思わせる内容であった。
2 大学は,停学処分とするに際して学生に弁明の機会を与えた筈であるから,自転車の飲酒運転であることを承知のうえで,3か月の停学処分に処したものと思われる。
 自転車の飲酒運転は道路交通法で禁止されているが,ごく日常的に誰もが行なっている行為であり,一般に格別危険な行為だとは認識されておらず,自転車の酒気帯び運転は強い非難の対象にはなっていないと言ってよいだろう。飲酒のための外出に際して,自転車で出かけるのは止めておこうと考える見識ある人は少ないだろう。
3 道路交通法では,飲酒運転は自転車も含めて禁止されているが(法65条1項),自転車の酒気帯び運転は処罰されず(法117条の2の2第1号),自転車の酒酔い運転は5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることと規定されている(法117条の2第1号)。飲酒した後で酒に酔って自転車に乗ると危険な状態である場合は別にして,普通の人は自転車に乗って帰るだろう。
4 大学は,飲酒運転したのは自動車やオートバイなどではなく,自転車であることを知りながら,ツイッターの記載内容が「大学の名誉を傷つける不適切な行為」であるとして,学生を3か月の停学処分にしたことになるが,私には処分が適切であったとは思えない。世間の人も,自転車の飲酒運転であると分かっておれば,そんな非難はしなかったであろうから,非難する前提が誤っていたのである。学生の行為は世間に誤解を与えたものであり,「不適切な行為」ではあったと思われるが,事実を正確に記載しておれば強く非難されるような行為ではなかったのであるから,停学処分というような重い処分ではなく,口頭注意処分程度のもっと軽い処分でよかったのではあるまいか。
5 この件に関連して六法で道路交通法を調べて遊んでいると,面白い条文を見つけた。何人もしてはならない行為として「道路において酒に酔って交通の妨害となるような程度にふらつくこと」(法76条4項1号)という規定があり,5万円以下の罰金に処せられることになっている(法120条1項9号)。そうなるとウッカリ飲みにも出かけられないことになりそうである。
6 その大学生はおそらくふざけて,敢えて誤解を与えるように「自転車」の飲酒運転であることを書かなかったものと思われるが,事実に反する記載をして世間の批判を受けたというだけで「不適切な処分」をすることになれば,大学自体も見識を問われることになりかねない。「あれは自転車のことらしい」ということになれば,笑い話で済むことである。その程度のことは許してやってもよいのではないか。大学当局も大学自体を守ることに焦って,重い処分を急ぐのではなく,学生をもっと大切にしなければならないと思う。せち辛い世の中であり過ぎても困ったものだという話である。(ムサシ)



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