日本裁判官ネットワークブログ
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1 私達夫婦は地元の弁護士会に所属し,二人とも主として弁護士として仕事をしている。その仕事の中に刑事事件の「当番弁護士」というのがある。刑事事件を起こして逮捕や起訴されたが,お金がないので自分の費用では弁護人を頼めないことがある。逮捕された直後の勾留質問の段階で,裁判官に弁護士の面会(接見)を希望すると,1回だけ無料で弁護士の面会を求めることができる。また起訴された後では国選弁護人が選任されることになるし,起訴前でも死刑,無期,長期三年を超える懲役刑等の事件で勾留状が発せられている場合には,被疑者の請求により「被疑者国選弁護人」といって,国の費用で弁護人が選任されることになっている。いずれのケースも順番で当番が回って来る。私達はそのような当番を担当すると申し出て,当番弁護士名簿に氏名が登録されているのである。ざっとした印象では,2~3か月に1回の割合で夫婦それぞれに当番が回ってきているように感じられる。

2 ところで最近,事件の被疑者や被告人が近くの警察署に勾留されている事件は殆ど私達に回ってこず,遠い警察署の事件ばかりが回ってくることに気がついた。夫婦併せて約8割以上の割合で,車で片道40分以上の遠隔地の事件の依頼がくるのである。夫婦それぞれが車を持ち運転できるので,何とか対処はできるのであるが,どうもわれわれは事件の当たり運が悪いようだなどと話していた。以前はそうではなかったと思う。

3 ところが最近どうもおかしいと思うようになった。どうやら遠隔地の事件を当番として割り当てられた弁護士が,拒わっているのではないかと思われるのである。多忙や車を運転できないことによる地理的な事情などで,事件を拒わることがどうしてもやむを得ない場合もあるには違いない。正確な事情は調査していないので,的外れなことを言っているかも知れないが,それにしてもいささか異状である。まるで遠隔地専門の当番弁護士の気分である。

4 何だか頭にきて先日,「われわれもドンドン拒わろうか。」という会話が夫婦間でなされた。しかし拒わる結論にはならなかった。当番を拒わるというのは,余程の事情がない限り弁護士の態度としていかがなものかと思ったからである。「弁護士は愚直たれ」という言葉もあるし,いささか潔しとしない気がする。でも不満な思いも残っている。

5 先日また片道40分の当番が回ってきた。原則として48時間以内に面会することになっている。1日目は仕事の都合で面会に行けなかった。2日目も仕事を終えた夕方,面会に行こうとしたが,空腹だったので夕食の弁当を食べたところ,急に眠くなってしまった。過労状態で居眠り運転の恐れがあり,警察署に電話してもう1日面会を伸ばそうかなどと悩んでいた。すると私と事務員との会話を聞いていた妻がアッシー君を申し出てくれ,私は妻の車の助手席で往復とも眠ることで,何とか切り抜けることができた。
 正直なところ,本気で拒わろうかと迷うこともあるが,それは原則として弁護士には許されないか,好ましくないというのが,当面のわが事務所の結論になった。(ムサシ)
 

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