日本裁判官ネットワークブログ
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1 平成20年9月11日(木)に新司法試験の合格発表があった。新試験の合格者数は2065人で,私が関与している大学では先日合格祝賀会があり,私も参加した。合格者は2桁に乗ったものの,結果は厳しいものであったといえよう。昨年はいいとこ勝負をしたライバル校には今年は大差をつけられていた。その理由は真剣に検討するに値するといってよい。

2 法科大学院は2年コースもあるが,多くの学生は3年コースで学んでいる。授業を充実させ,授業における討論を重視する方針であるため,学生達は授業の予習に追われて忙しい生活を送っている。その授業が試験に出題される範囲の内容であれば格別問題はないと思われるが,試験に出題されない内容の科目についても予習に力を入れざるを得ない状況にあるようだ。その予習をしないと授業で発言できないし,場合によってはその授業の単位が取得できないという事態も生じて,卒業ができないことになり,「法科大学院を卒業した」という受験資格を取得できないことになりかねない。

3 そして授業の予習を頑張っていると,受験に役に立つ勉強で,自分で勉強したいところを勉強するための時間が十分取れないというのである。学生達は,授業が盛り沢山で高度な内容を教えられるため消化不良で,必死に頑張って勉強しているのに,思ったほど実力がつかない状況であえいでいるというのである。

4 他方で,合格者から勉強方法を聞いてみると,授業の準備を熱心にした者が合格しているということになる。それ以外の勉強はできない状態なので,当然といえば当然のことである。そこで大学側では現在の授業の方針は正しいと考えているようである。しかしその方針が正しいのであれば,もっと合格者が多くてもよいのではないかという疑問が残る。多くの学生達には今の勉強の方法で本当に合格できるのかという不安が大きいように感じられる。どんな状況にあっても合格できるような優秀な学生だけが合格しているということに過ぎないのであれば,授業のあり方が正しいということにはならない可能性がある。

5 全国的に新司法試験の合格者の質が低いのではないかという声が強いように感じられるが,学生達は基礎を勉強する時間が不足していると思われる。基礎的な勉強が十分なされることなく,盛り沢山に詰め込まれるのであるから,実力が不足しているのも当然といえば当然のことであろう。法律の勉強で何よりも大切なのは基礎をしっかり勉強することであるが,それができない環境にあるのだから,実力がつかないのも最もなことである。

6 法律を勉強していると,あるとき突然勉強が面白くなってくるものであるが,それは基礎がしっかり理解できたときであると思う。どうあっても合格する学生が合格することで満足するのではなく,今のままでは合格出来ないかも知れない学生をどうやって合格させるのかが教師の腕の見せどころではあるまいか。自らの体験からも,いやいやながら嘆息まじりに勉強しているのではなく,法律の勉強が面白くて仕方がなくなれば,必ず合格できると思うのである。どうやって学生達に法律の勉強が面白くて仕方がない状態にさせるのか。それはまず,じっくりと基礎を勉強させることと,その応用として自分でジックリ考えさせることであろう。しかし学生には時間がなく,それは困難な状況にある。学生に自分なりの勉強方法を把握させ,自分が合格軌道に乗っていることを実感させるためのノウハウを,教師がまず編み出すことが必要なのではあるまいか。それは甚だ困難な作業であるに違いないだろう。(ムサシ)


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