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秋葉原や八王子等の事件をみて思うこと

2008年07月26日 | 瑞祥
 このところ,目を覆うばかりの惨事が続いている。秋葉原や八王子等の事件である。傷害を負った被害者の方々や亡くなった被害者の遺族の方々には,掛ける言葉もないくらい気の毒としか言いようがない。もちろん,亡くなった方には,ご冥福をお祈りしたいこと当然である。もっとも,将来,裁判所で審理が開始される可能性があるから,これ以上個別の事件に詳細に立ち入ることは避けざるを得ない。
 しかし,もう一方で,同様の事件がまた起きてしまうのではないかと漠然とした不安も持たざるを得ない。これは,何故であろうか。
 私は,裁判官,法律家であって,精神医学や社会学・心理学等を専門的に学んだわけではないから,何らかの意見を述べても,素人の意見にしかすぎないところがある。その意味では,こんなことをブログを書くのも意味がないのかもしれない。ただ,裁判の現場にいると,上記のような凄惨な事件(多くは刑事事件であろう。)を実際に担当するかはともかくとして,私のように,日常,民事事件や家事事件の担当している人間にとっても,ここ数年,何か日本人が大きく変わってきたように感じられてならないのである。具体的に言うと,民事事件や家事事件,特に家事事件で,心を病んだ人に出会うのが実に多いのである。最近は,ほんの1日でも,特に家事事件の期日指定の日があると,何人かの心を病んだ人,特にうつ病やうつ状態の当事者を見かけることが多い。民事事件でも,10年以上前には感じなかったことであるが,最近,うつ病やうつ状態の当事者を見かけることがちらほらある。これは,いいようのない不安を覚える大きな原因であり,凄惨な事件が続いていることとどこかでつながっているような気がするのである。もちろん,うつ病やうつ状態で全てが説明できるわけではないことは当然であり,多様な分析が必要で,原因は当然一つではないし,病気とはいえないものもあるのであるが,うつ病やうつ状態の人の多さは,日本人の変化を何か象徴しているような印象を持っているということなのである。
 若い人と話した時に,その若い人の友人には,うつ病やうつ状態の人は沢山いると耳にしたことがある。裁判所に来られる人だけではなく,世間の人の中にはストレスなどからうつ病やうつ状態に陥り,苦しんでおわれる方々が数多くおられるのであろう。統計的なことは正確にはわからないが,欧米に比べると,まだまだ日本人にはうつ病やうつ状態少ないようではあるけれども,急速に増えているような感じがしてならない。
 私たちは,裁判の現場で,そうした心を病んだ人の事件を,個別にどう考えるか,というアプローチをせざるを得ないのであるが,それだけでは時に無力感に襲われることがある。心を病んだ人を少しでも減らせるようにするにはどうしたらよいかと考えてみるが,原因が複雑に絡まっていて,到底答えが出せるわけではないし,素人の個人の手には余るというのが正直なところである。ただ,裁判の現場で経験していることが,何か解決に役立たないのか,他の専門家と協力すれば,一助になれることがあるのではないかなどとふと思う今日この頃である。
 おそらく,同じ思いをしている法曹の人は案外多いのではなかろうか。(瑞祥:なお,こういう内容の時には,このペンネームは気が引けるのが正直なところである。)