北海道新聞 09/15 05:00
胆振管内白老町に7月に開業したアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」の中核、国立アイヌ民族博物館は、約700点の資料を展示し、アイヌ民族の歴史や文化を伝える施設だ。北日本初の国立博物館でもあるアイヌ民族博物館では、どんなことが学べるのかを紹介する。
博物館の案内を担当する「エデュケーター」の永石理恵さん(31)は「民族の文化や歴史について、大人から子供まで学びやすくなっています」と話す。1階のエントランスホールからエスカレーターで2階の基本展示室へ。大きな窓からはポロト湖や敷地内を一望できる。
基本展示室につながる回廊では、アイヌの長老たちが映像で出迎えてくれる。長老の隣にはニュージーランドの先住民族マオリ、韓国の伝統衣装を着た女性らが並び、それぞれの民族の言語で「こんにちは」とあいさつ。永石さんは「いろいろな文化の人が迎える映像を見て、自分は何の文化の人なのだろうと考えてみてほしい」と話す。
基本展示は「私たち」をキーワードとし、6テーマ構成。入り口を抜けると最初に見えてくるのは「ことば」の展示だ。帯広地方で語り継がれる神謡や旭川の英雄叙事詩、平取(日高管内)の散文説話の映像が、炉に見立てた画面に流れる。
「世界」の展示では自然観や死生観、「くらし」では伝統的な衣食住や価値観を紹介。民族を取り巻く出来事を伝える「歴史」、狩猟・採取から現代の職業まで広く紹介する「しごと」、過去の交易や現在の交わりを紹介する「交流」のコーナーもある。いずれも解説文はアイヌ語を第1言語と位置づけ、日本語や英語、中国語、韓国語を併記している。
永石さんのお勧めは、基本展示室に三つある探求展示コーナー「テンパテンパ」だ。
アットゥシ(樹皮衣)などの伝統衣装をミニチュアで再現した人形や、かつてのコタン(集落)を再現したジオラマなどを展示している。棚の引き出しには、タマサイ(首飾り)やマキリ(小刀)など、さまざまな生活用品が入っている。
「テンパテンパ」は、アイヌ語で「触ってね」の意味。通常、コーナーの展示物は自由に触って見ることができる。現在は新型コロナウイルス感染予防のため、触れないよう規制しているが、近くにいるエデュケーターにお願いすれば、使い方を実演してくれる。
この日は、エデュケーターが伝統的な漁業道具「マレク」(かぎもり)を手に取り、魚をとる様子を再現してくれた。さらに、木の枝で作った鳥を狩る仕掛けわなを使うところも実演。わなは子供が練習に使ったもののレプリカ。枝を組み合わせて作った三角すいのかごにえさを仕掛け、鳥が首を突っ込むと枝が下り、挟んで捕まえる仕組みだ。
エゾシカの活用法を伝えるコーナーでは、シカの人形を使い、クイズ形式で紹介している。人形の角や脚などに番号が付き、展示台にさまざまな品物などがシルエットで示されている。引き出しを開けると「肉は食料に」「腱(けん)は裂いて糸に」「ぼうこうは水筒に」など答えが示され、全体を余さず活用していたことが理解できる。
永石さんは「テンパテンパの周りにある六つのテーマ展示と行き来することで、アイヌ文化への理解が深まる。ぜひ体感してほしい」と話している。
■入場、見学は事前予約制
アイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間」の愛称「ウポポイ」は、アイヌ語で「(大勢で)歌うこと」を意味する。総工費約200億円をかけ国が整備し、運営はアイヌ民族文化財団(札幌)が担う。
アイヌ民族博物館、舞踊を披露する体験交流ホールを備えた国立民族共生公園、各大学などが保管する遺骨を納めた慰霊施設からなる。
公園のコタンには伝統的家屋のチセが4棟建ち、内部を見学できる。コタンに隣接する工房では、伝統的な刺しゅうや木彫りの制作風景を見学でき、職員が解説しながら手仕事を見せてくれる。体験交流ホールでは、古式舞踊が披露される。また、博物館2階には基本展示室のほか特別展示室があり、1階には図書コーナーやシアターが備わる。
新型コロナウイルス対策のため、博物館などを含むウポポイへの入場は事前予約制になっている。博物館見学は別途、ネット上で日時の予約が必要だ。(田鍋里奈)
※「アットゥシ」の「シ」、「マレク」の「ク」は小さい字
◇
■料金
大人1200円(団体・960円)
高校生600円(同・480円)
中学生以下無料
※団体は20人以上。学校行事で教職員が引率する場合は事前に予約すれば19人以下でも団体料金を適用
■開園時間
・9月1日~10月31日は平日午前9時~午後6時、土日祝日は午後8時まで。11月1日~来年3月31日は午前9時~午後5時
■休園日
・月曜日(祝日または休日の場合は翌日以降)
・年末年始(12月29日~1月3日)
■ホームページ
https://ainu-upopoy.jp/
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/460241
胆振管内白老町に7月に開業したアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」の中核、国立アイヌ民族博物館は、約700点の資料を展示し、アイヌ民族の歴史や文化を伝える施設だ。北日本初の国立博物館でもあるアイヌ民族博物館では、どんなことが学べるのかを紹介する。
博物館の案内を担当する「エデュケーター」の永石理恵さん(31)は「民族の文化や歴史について、大人から子供まで学びやすくなっています」と話す。1階のエントランスホールからエスカレーターで2階の基本展示室へ。大きな窓からはポロト湖や敷地内を一望できる。
基本展示室につながる回廊では、アイヌの長老たちが映像で出迎えてくれる。長老の隣にはニュージーランドの先住民族マオリ、韓国の伝統衣装を着た女性らが並び、それぞれの民族の言語で「こんにちは」とあいさつ。永石さんは「いろいろな文化の人が迎える映像を見て、自分は何の文化の人なのだろうと考えてみてほしい」と話す。
基本展示は「私たち」をキーワードとし、6テーマ構成。入り口を抜けると最初に見えてくるのは「ことば」の展示だ。帯広地方で語り継がれる神謡や旭川の英雄叙事詩、平取(日高管内)の散文説話の映像が、炉に見立てた画面に流れる。
「世界」の展示では自然観や死生観、「くらし」では伝統的な衣食住や価値観を紹介。民族を取り巻く出来事を伝える「歴史」、狩猟・採取から現代の職業まで広く紹介する「しごと」、過去の交易や現在の交わりを紹介する「交流」のコーナーもある。いずれも解説文はアイヌ語を第1言語と位置づけ、日本語や英語、中国語、韓国語を併記している。
永石さんのお勧めは、基本展示室に三つある探求展示コーナー「テンパテンパ」だ。
アットゥシ(樹皮衣)などの伝統衣装をミニチュアで再現した人形や、かつてのコタン(集落)を再現したジオラマなどを展示している。棚の引き出しには、タマサイ(首飾り)やマキリ(小刀)など、さまざまな生活用品が入っている。
「テンパテンパ」は、アイヌ語で「触ってね」の意味。通常、コーナーの展示物は自由に触って見ることができる。現在は新型コロナウイルス感染予防のため、触れないよう規制しているが、近くにいるエデュケーターにお願いすれば、使い方を実演してくれる。
この日は、エデュケーターが伝統的な漁業道具「マレク」(かぎもり)を手に取り、魚をとる様子を再現してくれた。さらに、木の枝で作った鳥を狩る仕掛けわなを使うところも実演。わなは子供が練習に使ったもののレプリカ。枝を組み合わせて作った三角すいのかごにえさを仕掛け、鳥が首を突っ込むと枝が下り、挟んで捕まえる仕組みだ。
エゾシカの活用法を伝えるコーナーでは、シカの人形を使い、クイズ形式で紹介している。人形の角や脚などに番号が付き、展示台にさまざまな品物などがシルエットで示されている。引き出しを開けると「肉は食料に」「腱(けん)は裂いて糸に」「ぼうこうは水筒に」など答えが示され、全体を余さず活用していたことが理解できる。
永石さんは「テンパテンパの周りにある六つのテーマ展示と行き来することで、アイヌ文化への理解が深まる。ぜひ体感してほしい」と話している。
■入場、見学は事前予約制
アイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間」の愛称「ウポポイ」は、アイヌ語で「(大勢で)歌うこと」を意味する。総工費約200億円をかけ国が整備し、運営はアイヌ民族文化財団(札幌)が担う。
アイヌ民族博物館、舞踊を披露する体験交流ホールを備えた国立民族共生公園、各大学などが保管する遺骨を納めた慰霊施設からなる。
公園のコタンには伝統的家屋のチセが4棟建ち、内部を見学できる。コタンに隣接する工房では、伝統的な刺しゅうや木彫りの制作風景を見学でき、職員が解説しながら手仕事を見せてくれる。体験交流ホールでは、古式舞踊が披露される。また、博物館2階には基本展示室のほか特別展示室があり、1階には図書コーナーやシアターが備わる。
新型コロナウイルス対策のため、博物館などを含むウポポイへの入場は事前予約制になっている。博物館見学は別途、ネット上で日時の予約が必要だ。(田鍋里奈)
※「アットゥシ」の「シ」、「マレク」の「ク」は小さい字
◇
■料金
大人1200円(団体・960円)
高校生600円(同・480円)
中学生以下無料
※団体は20人以上。学校行事で教職員が引率する場合は事前に予約すれば19人以下でも団体料金を適用
■開園時間
・9月1日~10月31日は平日午前9時~午後6時、土日祝日は午後8時まで。11月1日~来年3月31日は午前9時~午後5時
■休園日
・月曜日(祝日または休日の場合は翌日以降)
・年末年始(12月29日~1月3日)
■ホームページ
https://ainu-upopoy.jp/
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/460241