晴徨雨読

晴れた日は自転車で彷徨い、雨の日は本を読む。こんな旅をしたときに始めたブログです。

がん-4000年の歴史(上下)その3 8/12

2020-08-13 | 健康

2020.8.12(木)
 
 治療と予防に関する歴史が述べられてきたが、わたしが一番知りたいのはがんの真の姿である。がんの本当の原因、転移とはなにか、なぜがんができるのかこの三つがわたしの知りたいことである。
 下巻の中盤からこれらのことが主題になってきた。がんが細胞の過剰な増殖というのは十九世紀中頃には解っていたが、その原因がなぜかというのは解らなかった。十九世紀の後半に染色体が発見され(フレミング、1979年)、その弟子フォン・ハンゼマンによってがん細胞の染色体に著しい異常があることが発見された。がんの原因が細胞の内部、染色体の異常であることが解ったわけだ。その後遺伝子、DNA,RNAなどが明らかになり、突然変異が起こりうることも明らかになって、がんの発生する原因が遺伝子の変異に起因することが解ってきた。X線、ウィルス、タールなど発がん性物質も遺伝子の変異を誘引するものでがんの直接的な原因ではないといえるのだろう。そしてがんは部位によってもひとりひとりによっても少しずつ違うことが理解できる。変異は偶然的に何度も起きるものでがん細胞の遺伝子はすべてが違ったものとなって、人によって部位によって発症の仕方が違うのだ。だから同じ抗がん剤を使っても効果のある人とまるで効果の無い人が出てくるし、あっという間に亡くなる人もあれば、がんが消えてしまうという人もあるわけだ。もちろん患者の側の免疫力、体力、抵抗力などと言う要素もあるだろう。
 がんの原因については本書ではもっと詳しく書かれており、専門的でもありすぐには理解しにくいが、何度も読み返してその概要が解ったとき、がんに対するあらゆる疑問が解けてくるのである。寿命が延びるほどがんが増えてくるのは変異の回数が増えるからであり、がんが難治なのはがん細胞は元々自分の細胞であり、がんの活動というのは自分自身の活動であるということではないだろうか。
 がんの原因が分かればそれに対する治療法というのが随時登場する、本書では最終的に分子標的療法というのが出てくるが、本庶先生の免疫チェックポイント阻害療法はまだ現れない。仲野先生の解説の中にようやく登場するのだが、それらをもってしてもがんは無くならない。仲野先生が「大いなる未完」とタイトルされたのはそういうところなのだろう。がんはわたし達自身なんだから、がんが無くなるということはわたし達自身が無くなると言うことなのだろうか。と段々哲学的な思考に陥ってしまう。
 進化と言うことから考えれば、変異によってより環境に適した形質が残り、生存に有利になっていくのが普通なのだが、自分自身の遺伝子が変異によってがん化しやがては元の身体を滅ぼしてしまうと言うのは矛盾である。常々このように考えていたのだが、本書の最終項に近くなってそのことに書かれている。
 極端な話をすれば、正常の生理機能を絶え間なく模倣し、悪用し、濫用するがん細胞の能力は、何が「正常」なのかという不吉な問題を提起しているともいえる。-中略-がんはわれわれにとっても正常なのかもしれない。われわれはもしかしたら、悪性の終局に向かって歩き続けるよう運命づけられた生き物なのかもしれない。-中略-やがてがんはほんとうにわれわれにとっての新しい正常に-不可避なものに-なる可能性がある。だとしたら問題は、この不死の病に遭遇したらどうするかではなく、遭遇したときどうするか、となるはずだ。
 遭遇したときどうするか、わたしはまだ遭遇していないのだが、バイブルとなるかもしれないだろう一冊を見つけた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする