『ジャコウアゲハ観察記(その236) 』で取り上げた,葉の表側に産み付けられた卵の話をしましょう。
産卵日から7日目のこと。朝6時に,たまたま見てみると,なんと一つの葉で孵化した幼虫が殻を食べていたのです。そうして,もう一枚の葉の卵一つに黒っぽい穴が開きかけていました。「孵化だー!」。そう思った途端に,からだは撮影準備にかかっていました。
鉢を室内に持ち込み,カメラを三脚にセットして撮影開始です。なんとか間に合いました。こういう絶妙のタイミングというのはめったにあるものではありません。徹夜して,その瞬間を写すというのはもう幾度となく経験しましたが,今回は,チャンスが向こうからやって来た感じなのです。チャンスを逃したくありません。それで,じっとファインダーを覗きながら慎重に写しました。
穴を開けるには幼虫の身にすればかなり厚い殻のためか,からだが出るだけの大きさにするには少しばかり時間がかかりました。この一週間いのちを守るのに,それだけの厚みが必要だったということです。
頭がはっきり見えかけました。
頭が出てきました。
からだが半分出ました。
ほぼ全身が現れました。
「おめでとう!」の瞬間です。無事に誕生したのです。何度見ても劇的でもありますし,生命のふしぎな,ふしぎな風景でもあります。
こういう風景に巡り合えると,やっぱり一日がたのしく過ごせます。充実した気分になります。ジャコウアゲハのいのちに深謝。