バショウ紙は“芭蕉紙”と書きます。バショウはバショウ科植物の名のもと。バナナもこのなかまです。
このバショウでできた紙は沖縄県の伝統的な和紙です。沖縄の知人にそれをおみやげとしていただいたとき,薄い褐色をしたなんとも味わいのある紙なので,とても印象に残った記憶があります。わたしが30代の半ばの話です。
そのことが頭にあって,わたしも野草紙の材料の一つとしてバショウを使ってみたいと思うようになりました。それから数年して,バショウを一株譲り受ける機会があり,畑の片隅に植えました。それがどんどん増えて,今は見上げてワァーッとびっくりするぐらい本数を増やしています。しかし,バショウ紙を漉く機会がなく,そのまま放置状態でした。
今回漉くのは,書道作品を書くのになにか野草で漉いてほしいという依頼を受けたことによります。「これならバショウ紙がいい」と思い立ち,それを採取して持ち帰ったというわけです。バショウのからだは,背丈が5mほどでしょうか。複数の葉を大きく広げて日光を受けていますから,それを支える茎は丈夫です。丈夫な茎には,それなりの構造が仕組まれていて,その骨組みの柱になるのが繊維なのです。木のようにボキンと折れることもなく,大きな風を受けても,しなやかに曲がり続けます。
したがって,バショウはあくまで草本植物でありながら,大した繊維の持ち主なのです。
さて,漉くのは葉書サイズからA4サイズまで。毛筆用紙なので,ごく薄く漉くことになります。わたしがふだん使うステンレス網を利用すれば,どんな薄い紙でも漉けるので,その点は大丈夫です。
煮た時間は3時間。繊維が柔らかくなってきました。それをミキサーで細かく砕きます。すると,上質の繊維が取り出せました。これで,紙はできたのも同然。
漉いて,乾かして。
この日は秋晴れの一日だったので,朝漉いて,夕方にはすべての紙が乾いていました。
一日でたくさんの紙が完成しました。依頼を受けた責任が果たせてホッとしています。
付記。この記事を書いているときに思い出したのが,絵本『ミラクルバナナ』。ハイチでバナナ紙をつくる試みが始まって,漉かれたそのバナナ紙からつくられたのが『ミラクルバナナ』。バナナ紙づくりには日本のたくさんの人がかかわっています。バナナ繊維からつくられた紙なので,バショウ紙ときょうだい! 本棚からこの絵本を取り出して,改めて読み返しました。人の営みが見えてくる,とってもすてきな絵本です。