自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

地域ミュージアムで考える(32)

2016-10-31 | 随想

おもしろくって,「なるほどー!」と思わずうなずいてしまう,そんな工夫が館内のあちこちにあれば,来館者はこころがくすぐられます。「へぇー,そうなのか!」と見入ってしまう工夫があれば,来ただけの値打ちがあったと思っていただけます。日々,そういう積極的な仕掛けづくりを忘れたらおしまいだと気を引き締めています。

仕掛けは新しい価値を「つくる」行為そのものです。わたしがミュージアムづくりの柱にしている,3C(「クリエイト(創造)」「チャレンジ(挑戦)」「コミュニティー(地域)」)の1つにあたります。

「つくる」といっても,大きなものでなく,まずはささやかな工夫を描いています。工夫は館内に新しい風を呼び込みます。新しい風は来館者を刺激します。

近頃の小さな工夫を1つご紹介しましょう。

壁面に直径60cm程の円い穴が開けられたところがあります。館ができた当初からあるもので,設計上のデザインによります。そこを子どもが通り抜けることがしばしばあったようで,それを防ぐために段ボールで蓋をしていました。展示の関係で,そこを通られると支障があるのです。そうかといって,段ボールが貼られたままでは無粋に思えます。「このままではこの壁面は勿体ない。なんとかしなくては……」と,わたしなりに思案を重ねていました。つまり,「近いうちになんとかしたい」という気持ちだったのです。

地球科学をテーマにしたミュージアムなので,いっそ太陽系を構成する星々の大きさを表示してはどうかと着案。だれでも思いつきそうな素朴な案です。

それで,段ボールを使って直径65cmの円をつくりました。もちろん,太陽です。できた円に赤い絵の具を塗って仕上げました。

途中でスタッフの提案があり,各惑星は太陽をもとにして比例した大きさで印刷して貼ることに。これはスタッフが担当しました。円形に切る作業も任せました。太陽の直径を65cmにすると,いちばん小さな惑星「水星」は直径2mm! この小ささを円で切り抜くのは,視力がよくなくてはうまくできません。

こうして,水星から金星,地球,……,海王星がすべて揃いました。それらを一列に貼り,名前シールを貼って完成。地球の直径は6mmです。太陽の直径の109分の1なので,大きさの比例はぴったり。


この仕掛けはベンチの背面にあります。太陽系を感じていただける一助になるでしょう。


これを見たスタッフの声。「まちがいなく,地球を109個並べると太陽になります」(メジャーで計りながら)。「絵の具がいかにも太陽が燃えているようですね」「ミュージアムの展示物らしくって,いいですね」。簡単な手づくりでも,力を発揮しそうです。

スタッフには,このあと提案を1つしておきました。多くの人が「あっ!」と驚く展示内容かと思います。近く実現しそう。いずれ報告しましょう。 

 


ホトトギス,花の構造

2016-10-30 | 

ホトトギスの花の咲き方はおもしろいなあと感じます。多年草なので,一株植えるとどんどん殖えます。どんどん殖えるので,花がわんさか咲きます。これだけ花がさくのだから,相当結実するだろうと思うのですが,それがさっぱりなのです。株は頑固なほどに丈夫です。株がしっかりしているのだから,実がほとんどならなくてもよいのです。

その代わり,他家受粉で結実することを理想としているはずなので,ときに実ができる程度でじゅうぶんなのだと思われます。大した度胸の持ち主です。 

花が開き始めました。色でアピールしているのでしょう,わたしの花では匂いはまったく感じません。

 


花弁がパァーッと開きました。花弁は6枚。1つおきに同じ大きさの花弁が配列されています。花弁根元にある黄色い斑点は,蜜源に昆虫を誘うための戦略と思われます。 


真上から見ましょう。花弁の大きさ・かたちの配置がよくわかります。オシベは6本。メシベ先の柱頭は3つに分かれています。ホトトギスの花は基本数が3なのです。 

 
オシベはメシベを包むようにしてあります。その先,葯を見ると,花粉が見えます。あふれるほどの量には見えません。ずいぶん控えめだなあと感じます。

 
オシベは役目を果たすと,メシベから離れて落ちていきます。

 

 
すると,メシベの根元にある子房が現れます。

 


この中に胚珠が入っているので,確かめてみました。部屋は3つに分かれていて,1つの部屋に行儀よくたくさんの“種子の赤ちゃん” が並んでいます。

 

 
でも,ほとんど結実せずに落下します。わずかな数だけ熟しても,ずいぶん多くの種子ができるので,そう慌てる必要はなさそうです。

運よく受粉が成った子房がありました。確かに生長しています。観察を続けていきます。

 

 


キクと昆虫たち(3)

2016-10-30 | 昆虫と花

10月25日(火)。クロヒラタアブの幼虫をまた発見。すでに食したと思われるアブラムシの死骸がからだに付いていました。ごく小さいからだ付きなのに,なんとも獰猛なスタイル!


どのように餌であることを察知するのかなと思いつつ,しばらく見ていました。下方からアブラムシが近づいて来て(なにも知らない!),そして幼虫のからだに触れた途端の出来事! 幼虫はぱっと振り返ってからだを後方に曲げ,もう,アブラムシを獲物として口にしていたのです。瞬間の出来事で,あまりの素早さに驚きました。


10月26日(水)。別の株でクロヒラタアブの幼虫を2個体発見。


卵を探しても見つからなかったのに,幼虫のすぐ近くに卵があるのを発見しました。すでに孵化済みのものでしたが,探せばあるということです。成虫はちゃんとアブラムシの存在を確認して「ここがよい」と判断して産付したのです。その察知能力はお見事!

 
でも,よく見るとすでに殻だけになっていました。 

 


イノコズチの葉と昆虫(3)

2016-10-29 | 昆虫と花

(前回からのつづき)

だって,葉を見たら,あったはずの葉がなくなっていたのですから。おかしいなと思いながら,地面を探しました。そしたら,落ちていたのです。しかも,前と違って葉の縁が閉じ合わされ,中が見えにくい状態です。イモムシのしわざです。主脈を食べていたのは,食いちぎって葉を落とすためだったというわけです。さながらオトシブミ!


そのことがわかってきて,またしばらくして見ると,今度は完全に閉じられていました。これにはびっくり。イモムシは,葉が枯れることを承知で身を潜めて蛹になろうとしているのでしょう。


「それなら,他にも同じような葉が地面にあるだろうな」と思い,探すと,あったー! それも,いくつも!


1つだけ開けて中を見てみました。思ったとおり,イモムシがいました,いました。それも,頭部を内側にして丸まって! 生々しい糞もあります。やはり,ここで蛹になると思われます。写真の幼虫は,この後すぐ動き始めました。申し訳ないことをしました。


そうすると,羽化はいつ頃になるのでしょうか。今秋? それとも,それ以降? これは成虫への道を探る値打ちがありそうです。

正体を調べていくと,どうやらマエウスキノメイガのようです。  

 


ルリタテハ,卵から羽化まで(19)

2016-10-29 | ルリタテハ

どの個体も羽化済みだとばかり思っていたら,あと1頭見逃していました。地面に落ち,翅の一部が傷んだ状態だったので,飛べないまま。「うーん,これは気の毒に」。そう思ってみても,どうしようもなし。


画像記録だけは残しておこうと思い,頭部辺りを接写することに。トラブルのせいで動きの止まったいのちを撮るのはちょっと気が引けるのですが……。

からだを覆う毛が目を引き付けます。紺青が鮮やかに色を放っています。「これが瑠璃かぁ」と感じ入ります。


もっと近づくと,複眼の毛も確認できます。よくよく見ると,個眼も。


前方から見ると,お椀状に膨らむ眼がこの生きものにとってどれだけ大事な意味を持つものか,想像がつきます。


ルリタテハの気持ちに近づこうと思えば,このアングルがぴったりです。


胴部分を見ると,毛の覆われ方のスゴイこと!


雨に打たれても,少々の水滴が襲って来ようが,なにかが接触しようが,これだけの毛があれば,対策がじゅうぶんといったところでしょう。このしくみが,生き延び戦術の大きな要素になっていることは,一目瞭然です。

 


イノコズチの葉と昆虫(2)

2016-10-28 | 昆虫と花

イノコズチの葉を見ていて,妙な幼虫の,特異な行動が目に飛び込んできました。幼虫の体長は10mm。成虫になるとどんな昆虫になるのか,まったくわかりません。

その幼虫,つまりイモムシが葉を綴っていたのです。1本の糸をつくるのに,頭を何度も左右を往復させて束ね,少しずつ太くしていきます。太さの加減はどうやって計っているのか,ふしぎでしかたありませんでした。


1本の糸が完成すると,下をくぐって移動。そうしてすぐ近くで別の糸を綴り始めました。


時間が経ってから見ると,向きを変えて3本めの糸をつくっている最中でした。

しばらくすると,イモムシは茎と葉の付け根に近い主脈を食べ始めました。動きはバリバリ貪り食べているといった様子。


なぜそんなに夢中になって,その箇所にこだわってそんな行動をするのか,またふしぎでした。しばらくして,その謎が解けてきました。(つづく)

 


地域ミュージアムで考える(31) 

2016-10-28 | 随想

多面体の地球モデルづくりは,わたしの遊び心に沿ったものです。そうなのですが,モデルは地球と宇宙を結び付ける強力な助っ人になるでしょう。だから,そこにこだわり続けているのです。

今回仕上げたのは正三角柱のモデル2種。奇抜なかたちだといえば,その類いかもしれません。1つは底面が一辺20cmの正三角,高さ20cmの柱。もう1つは底面が一辺30cmの正三角形,高さ60cmの柱。

立体そのものは,制作はむずかしくはありません。面がたったの5つなのですから。ただ,地図の展開図を描くのに多少手間がかかるだけです。描いた展開図の1つは以下のとおりです。これは高さが60cmのモデル用です。

 


それを,完成した三角柱に転写します。できたら,着色していきます。どの立体地球でも赤道表示は欠かせません。そうしないと,倒れていたときに南北がわかりづらいからです。赤道は地球を眺める際,たいせつな“ものさし“になります。

 
方向を変えて見てみましょう。


完成したものが下の写真です。

 

 
一方,高さが20cmのモデルは下のものです。こちらは小さな子どもなら座れます。


まだまだ立体地球づくりは続きます。順にご紹介することにしています。 

 


ホトトギスと訪花昆虫

2016-10-27 | 昆虫と花

ホトトギスの花が満開です。花全体が白地に赤紫の斑点模様がちりばめられ,なんとも清々しい姿をしています。 こういうの,わたしは好きです。この斑点模様が,鳥類のホトトギスの胸部と似ているので名付けられたとか。

どんな昆虫が訪れるのか注目しているのですが,ハナアブのなかまが時には来ても,あっさり去って行きます。どうも訪花昆虫がよくわからないし,結実したのを見た記憶もありません。ふしぎな花です。

確かに花を目当てにしてやって来たのはスズメがのなかま,ホシホウジャク。ブゥーンと大きな羽音を立てて,蜜を吸い回ります。蜜源があることは確実です。

 
長く伸びた口吻が蜜に達しているのでしょう。スズメガにすれば,ありがたい餌のようです。

 
動きが素早いので,フラッシュ撮影をせざるを得ません。

 
口吻の様子を観察していると,これは送受粉にはちっとも貢献しているようにはみえません。まるで,蜜泥棒のよう。

そんな花のしくみをこの際きっちり画像に残しておこうと思い,撮った写真を以下3枚だけ。

ワァーッと開いた花弁,蕊の集合体が優雅です。まるで花火のよう。


メシベの先,つまり柱頭が3つに分かれ,さらにそれぞれが二股になっています。そして,表面に腺毛突起が並び,その先に丸い受容体があります。それらが効率よく花粉を受け取るのです。メシベの周りには,やや下方にオシベがあって,メシベを包むようにしています。先に付いた葯は下向き。これは明らかに自家受粉を嫌っているのです。 

 
受粉が成ったかどうかは不明ですが,オシベが落下しています。柱頭が大きく湾曲しているのは熟し切ったからでしょう。さて,受粉したのでしょうか。

 
この花については,もう一度撮り直したくなっています。だって,見れば見るほど謎めいて来て魅力的ですから。

 


ラッキョウの花

2016-10-26 | 

ラッキョウの花が咲く季節です。ラッキョウは漢字で書くと,『辣韮』『薤』『辣韭』。わたしには到底覚えられません。中国で使用する漢字の雰囲気がすると思ったら,てっきり原産地がチベット,中国らしいです。学名が Allium chinense,英名がRakkyo。やはり,アジア原産という雰囲気が強い野菜です。

ラッキョウの,植物としての分類はラッキョウ属ヒガンバナ科。

畑で栽培しているラッキョウでも花が付きかけました。赤紫の可憐な花は昆虫を招くのに威力を発揮するはず。これから注目しておきましょう。

 


せっかくなので,花のつくりをちょっとだけ拝見することに。メシベを取り囲む6本のオシベ,そのうち3本が長くて熟しており,残りの3本はまだ葯から花粉がこぼれ出ていません。長短の配置と熟し方を見ると,なにやら意味がありそうな。 

 
突き出した葯と,短い柱頭の距離に目を付けると,わざわざ受粉を嫌っているように見えます。オシベ先熟型のしくみは原則的には近親交配を避けるためです。いまここに昆虫が訪れたとすると,すでにからだに付着している花粉が柱頭に付き,この花の花粉が昆虫のからだに付いて他に運ばれていくというストーリーになります。

 
では,短いオシベはどうなのかという話が残ります。下写真のオシベはすべてもう役目を終えています。ふしぎなことに,柱頭が前よりも長く伸びています。柱頭が長いと,花粉が受け取りやすいと考えるのが順当でしょう。

 
あくまでわたしの勝手な解釈なのですが,次のように推測するとどうでしょうか。基本的には他の花から花粉が運ばれて来るのを待って,メシベは3本のオシベよりも遅れて成熟する。この戦略は多様な遺伝子を残すのに役立つ。しかし,場合によってはそれが期待できない事態も起こりうる。そのときに備えて,保険代わりに3本のオシベを遅れて熟させる,つまりメシベの成熟とタイミングを合わせるように熟する。これによって,最悪の場合でも自家受粉によってとりあえず種子を残すことができる。

真実からは程遠いかもしれませんが,自由に想像してみるのもおもしろいものです。 

 


キクと昆虫たち(2)

2016-10-26 | 昆虫と花

早朝,見かけたのがヨモギハムシ。 


ペアもできていました。 


反対側から見てみると……。 


カタツムリの幼体がいました。おやおや,何を求めてやって来たのでしょうか。 

 
アブラムシの付いた茎が数本あります。「もしかするとヒラタアブの幼虫がいるかもしれない」と思って観察を続けて来ましたが,なかなか目に付かないままでした。ところが,この日,偶然目にすることに。クロヒラタアブの幼虫です。アブラムシを捕らえて食べている最中でした。

 


方向を変えて撮りました。 

 

 
しばらくしてからまた見ると,別のアブラムシを捕らえていました。大きなアブラムシを口で持ち上げていたので,びっくり! 怪力であるのに加え,なんと旺盛な食欲ぶり!



餌を見つけて捕らえるしくみを知りたくなりました。嗅覚がはたらいている? 触覚かな。それとも? おもしろいドラマがまだまだ見えて来そうです。