ナスの花の受粉は,考えてみれば謎を秘めています。ネットで調べると,自家受粉だとか昆虫を媒介とした受粉だとかあるのですが,どうも自家受粉が圧倒的に優勢です。実際,昆虫との関係を調べると,皆無といったほどなのです。
なかには,蕾のときにネットを被せるとどうなるか,問題になっている例があり,ナスは自家受粉なのでネットで覆っても結実する,と結論づけています。そこは間違いでないにしても,とても一面的な見方,解釈だと思われます。
花を見るとき,花弁があるものはまずは原則的に虫媒花とみなすことが重要です。花の存在を虫にアピールするために,花弁の形や大きさ,色を進化させてきた遠大な生命誌を見逃してはなりません。ナスの花は立派な花弁を有しています。これは典型的な虫媒花構造をもっていることを示しています。
しかし,じっさいには昆虫が訪れているのを見かけるのは稀です。ほんとうに! にもかかわらず,結実率のとても高い野菜です。この謎についてここで触れるのは割愛します。ただ,自家受粉(近親交配)は子孫を残すのに最終手段として保険をかけた状態であること,多様な遺伝子を残すには当然他家受粉が有利なこと,品種改良には人工的に他家受粉を行っていること,これらの視点を欠いた自家受粉唯一論のような説明は困るということなのです。
ハウスでナスを栽培している農家ではマルハナバチの類を飼育して受粉率を上げ,健康でおいしい品づくりに知恵を絞っています。同じナス科のトマトでも同様の工夫がなされています(わたしの友人はこのトマトハウスで働いていました)。近頃ではハナバチが激減していて,収穫量を確保するのがたいへんだそうです。
そんなことを思いながらわたしはナスを観察し,収穫を続けています。そんななか,これまでにいくつかの昆虫が訪れているのを目撃しました。ツマグロキンバエもその一つです。ネットでは報告例がないようなので,めずらしいのかもしれません。
柱頭を舐めています。葯の先端に穴が開いているのは,花粉がこぼれ落ちるように,だとか。
別のツマグロキンバエがやって来て二匹に。
別の花を見ると,ハナグモがいました。クモがいるのは訪花昆虫がある証拠でもあります。
意識的に観察していれば,もっと昆虫が見つかるかもしれません。ハナバチが筆頭でしょうか。