自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

地域ミュージアムで考える(26)

2016-08-31 | 随想

以前にご紹介した『地球風船』は,わたしが原案をつくり細部の調整をスタッフのTさんが入念に行って完成したものです。8月6日の発売以降,順調にお買い求めいただいていて,ホッとしています。それによって,わがまちの知名度がすこしでも高まり,市民参加を志すミュージアムのあり方が広く伝わっていきますように。

発売後,風船について地方紙で大きく取り上げていただきました。これがきっかけで今日(8月31日),ローカルラジオ局の情報番組で紹介できる幸運に恵まれました。時間は20分。聞き手はパーソナリティー,アシスタント,コメンテーターの3人。おなじみの朝の人気番組です。

放送局だからスゴイ部屋がずらっと並んでいるのだろうなと思いきや,そんな雰囲気はちっともなく,スタジオがこじんまりとあって,隣り合った調整室でいろいろコントロールしながら放送しているというふうでした。「なぁんだ,そうなのか」と気持ちが楽になったほどです。


放送が始まると,気が引き締まってそれなりに緊張しました。原稿に目を通しながら,ミュージアムの紹介から入っていきました。

それがすぐに終わると,さっそく本題の地球風船の話です。

これをつくろうとした理由,苦労したことなどを,パーソナリティーのMさんとやりとりしながら語っていきます。原稿なんかほとんど当てにせず,対話しながらことばを選んでいくといったふうでした。その間に,アシスタントのIさんが風船をつくっていかれます。間もなくが終了。

息を吹き込んで見事に完成! たぶん子どもの頃の折り紙記憶がきっちり刻まれているのでしょう。

この風船地球は単独で意味をなすわけでなく,あちこちに置いたサイズとかたちの異なる地球とセットになっているからこそ,意味があるとわたしは考えています。その地球は卵型の“うんちきゅう”であり,球形の竹紙地球であり,はたまた段ボール製の正多面体地球であったりです。そのことについても触れておきました。

宇宙を考えたり,地球を思ったりする軸足はやはり足元にあります。足元にあるのは大地。大地を意識するには地球儀がいちばん。風船地球は,気軽に手のひらで地球をポンポンとつくことができます。地球儀をたのしむことがきっかけで,地球や宇宙への関心が高まればいいなと思うのです。こうした仕掛けによってミュージアムへの来館者が増えればさらにうれしく思います。

番組で紹介したことがわがまちの知名度アップにつながったら,さらにさらにうれしいですね。

今回はよい機会でした。そしてこころに残る20分になりました。放送局のあるまちの空を見上げると,秋が清々しく広がっていました。


感謝。

 


ルリタテハ,卵から羽化まで(5)

2016-08-30 | ルリタテハ

8月26日(金)。朝。卵はほとんどが孵化し終えて,幼虫はすこしが葉の表面に,そして大抵のものが葉の裏にいます。

表面にいる幼虫は葉を食べて穴を開け,裏側に回ります。ですから,穴が開くまでは表側にいるほかありません。食べると,糞をします。糞が新しいと色も新鮮!


裏にいると身の安全がより守れるようになります。


食べるときは裏側から頭を覗かせるようにしてムシャムシャとやります。わたしの手が葉に触れて急に揺れるようなことがあると,幼虫は食べるのをピタリとやめて葉裏に身を潜めます。警戒心があることがよくわかります。


8月27日(土)。午前7時。たぶん,多くの孵化例のうち締めくくりの孵化になると思われる例を撮影しました。

7時15分。頂部に大きな穴が開き,顔がこちらを向いています。



7時23分。顔が左を向いています。卵の中ですこしずつ向きを変えながら穴を大きくしていくのです。


7時33分。おやおや右側,つまり葉の縁に向かって出始めました。


7時34分。からだをぐーっと伸ばして一気に出ようとします。しかし,下には葉の着地面がありません。


7時35分。一番近くの着地面に降りようとします。


7時37分。着地し終えると,葉の縁を歩いて移動。


結局,幼虫はそのまま葉の裏に移動していきました。葉の表面に穴を開け,そこを通って裏側に潜り込むという原則は必ずしも当てはまらないことがわかります。要するに,臨機応変に状況に対応しているということでしょう。

 


カナダからの便り

2016-08-29 | 随想

過日,一枚の便りがカナダから届きました。絵ハガキです。ナイアガラの滝がライトアップされた風景を撮ったもので,向こうには高層ビルやまちの明かりがあって大自然と人の気配が溶け合っているようで,「ああ,一度は行ってみたい」と思わず旅情を誘うすてきなハガキです。

 


びっくりすることに,差出人はNさん! 彼女は,わたしがかつて管理職で勤めていた小学校の在校生でした。わたしの部屋を頻繁に訪れては気さくに話して帰って行くタイプの子どもで,当時低学年。わたしは子ども中心の学校づくりに徹していましたので,気軽にやって来る子どもが後を絶ちませんでした。Nさんもその一人だったのです。今の時代はどうなのでしょうか。管理職によって違うといえばそのとおりなのですが,子どもにとって窮屈な環境でないことを祈っています。

わたしの驚きは,担任してもいないNさんがその後,中学校を無事に卒業したことや年賀状をときどき送って来ていたことです。担任ならいざ知らず,管理職であり直接教科を教えることを通してつながった関係でもないわたしに対して,こうしたかたちで近況を伝える便りを出そうとするこころにただ恐縮するばかりです。もちろん,わたしの部屋を通して,また教室巡りを通して,はたまたわたしの特別授業を通してつながりができていたのでしょうが,いつまでもこころに刻み,わざわざ便りを届けるという行為にすっかり恐縮するのです。

便りにぎっしり綴られた内容は,大学を休学して短期語学留学で来ていること,大自然を見てわたしを思い出したことにかかわっています。内容にこころが打たれるので,以下抜粋してご紹介することにします。きっとNさんは許してくれるでしょう。

  • ずいぶんと多くの生徒さんをみてこられた先生はきっと覚えておられないと思いますが,わたしは鮮明にそのときの事を覚えております。先生からは多くの自然の素晴らしさとそれに触れ合う機会をいただきました。
  • バンクーバーにはたくさんのたくさんの自然があり,休みの日には新しい発見を求めて山や川,海などに行きます。その時ふと思ったのです。この好奇心(自然に対する)は小学生の頃に先生から学んでいなければなかったなと。

現役当時も“自然となかよしおじさん”を自称していましたから,それなりにあれこれ話題を出していたはず。細かなことは覚えていませんが,自然を見たり感じたりするたのしさを全体としては伝えようとしていたでしょう。それがNさんのこころのアンテナにキャッチされて,今も刻み付いているとは。

内容もりっぱだと感じ入りますが,ことば遣いもまことにりっぱだと感じます。語学を志し,母国語である日本語をゆたかに身に付けていっている姿が伝わってきます。これまでの成長のゆたかさが感じとれます。こうして一人の人間として生きる力を育む姿に触れるのは教師冥利に尽きます。

そんな思いを抱きつつ,Nさん宅にご連絡させていただき,Nさんには謝辞とともに,留学目的をしっかり果たして帰国してほしい,そのときは直接お話ししたいなあ,という内容を添えて返信したのでした。

 


地域ミュージアムで考える(25)

2016-08-28 | 随想

ウンチ・ペーパーづくりの二日目。参加者が揃ったところで,さっそく開始。同じ工程をみんながやっていると時間がかかって能率が上がらないので,予めわたしが全工程を実演を交えて説明しておくことにしました。そうして,作業中は必要に応じてアドバイス役に回りました。なお,この企画実施のためにおとなの補助者一人(ミュージアムと歴史資料館の共同事業として企画),子どものボランティアスタッフに一人加わってもらいました。

それでは,順を追って見ていきましょう。

まず,煮終わった状態で鍋に入っている繊維を手でギュッと握ってもらって,柔らかさを確認。皆さんから「柔らかくなったねえ」の声が上がりました。


それに続く工程解説は以下のとおりです。

繊維を全部水洗いします ➡ すこしずつミキサーに入れて細かな繊維にします ➡ 繊維を水洗いします  ➡  紙漉きの要領を説明します(道具の話,粘剤の意味と漉き方)  ➡ 水切りをします

誰もがどの工程も経験することを柱にして,どこからやってもよいことにしました。なお,予めすぐ紙漉きに使える繊維を一定量準備しておきました。結局,このやり方がよかって,どこかの工程で滞るという事態は生じませんでした。それでありながら,参加者の皆さんが常にからだを動かせる状態にありました。

こんな様子で,作業が進んでいきます。


繊維を洗って水に溶いて,粘剤を入れて,そうしてかき混ぜます。 


漉き枠に紙料を流し込みます。溜め漉き法です。 


漉き舟から上げて,縁を整えます。 

 
こんなふうにしてできたものを,立てかけて水切りをして乾かします。葉書サイズから半紙サイズまでのものができました。


これですべて順調にいきました。

おしまいはちょこっと感想を語っていただきました。そこには,子どもは子どもなりに,おとなはおとななりに,ウンチ・ペーパーづくりを体感した味わい深いことばがありました。この分だと,再びいつか試みてよさそうです。すてきな企画になったことをうれしく思います。 

 


ルリタテハ,卵から羽化まで(4)

2016-08-27 | ルリタテハ

8月24日(水)。午後9時。同じ葉で比較的近くに産み付けられた卵を見ると,どちらも孵化間近のよう。どうやら同じ成虫を親とするきょうだいのようです。


今にも殻に穴を開けそうな気配がします。


もう1つもまったく同じ様相を呈しています。


8月25日(木)。午前5時30分。上写真の一方が孵化。ちょうど出終わる頃にタイミングよく出合えました。もう一方の卵は一歩先に孵化済みでした。


一足先に生まれ出た幼虫は,もう食痕を残して休んでいました。葉の表側で休む幼虫がときどきいますが,外敵の狩りバチにでも見つかろうものならたいへん,たいへん。早く裏側に行かなくちゃ。

 

  

  


ジョロウグモとカマキリ

2016-08-26 | 生物

今夏,アゲハの庭園には大きなジョロウグモが数匹居つきました。複数いるということは,それだけ食べものがゆたかに口に入る環境だというしるしなのかもしれません。

ときどきしか観察しなかったのですが,それでも獲物を捕まえている姿を結構目撃しました。なかには,ニイニイゼミのような比較的大きな獲物をがんじがらめにしているのを見たこともあります。

カマキリを捕獲して,糸をぐるぐる巻いて完全に獲物にしているのを見たときは,とても驚きました。これも自然の摂理だなと思いつつも,ジョロウグモの凄さを垣間見たように感じた次第です。それで写真に収めておこうと思い,近寄っていきました。クモは度胸が据わったもので,わたしの動きにはまったく反応しません。これを“度胸が据わった”といい表してよいのか,よくわかりません。とにかく獲物を処理するのに懸命なのです。

せっかくの獲物を絶対に逃さないぞといわんばかりの抱え込み態勢。


カマキリのからだは半分。これだけ糸で包まれたら,降参するほかなかったでしょう。 

 
クモはけっしてじっとしているわけではなく,獲物を抱え込んだり,移動するために放したり。

 
これを見たのは朝。昼過ぎに見ると,カマキリの姿はもうなくなっていました。栄養分を吸いとったあと,意図的に巣から落としたのでしょう。ジョロウグモは悠然とした姿で静止したままでした。 

 


ルリタテハ,卵から羽化まで(3)

2016-08-25 | ルリタテハ

8月24日(水)。午前6時。

前回ご紹介した最後の写真について。今朝,この葉を見ると卵が2つ増えていました。その後チョウが飛来して偶然この葉に産み付けたのです。葉がたくさんあるのに,なぜか同じ葉に。おもしろいものです。


他の卵のようすを確認すると,孵化直前の個体が1つありました。もちろん,誕生の瞬間を激写したいので,カメラをセットして待ち受けることに。このあと地蔵盆行事に参加。帰宅後,撮ったのが下写真。頭と毛が見えます。いかにも窮屈そうな格好です。


午前9時20分。卵の頂部に穴が開き始めました。


9時30分。殻の一部がハッチの蓋のように取り除かれました。


9時37分。穴がすこしずつ大きくなってきました。穴を開ける作業は休みなく続くわけではなく,途中何度も休みが入りました。


10時13分。もういつ出て来てもよさそう。ひととき休んでいました。

 


10時15分。さあ,頭が出て来ました。

 


ほんとうは好きではありませんが,細部を確認するためにトリミングをしてみました。頭部が細かく確認できます。 


10時18分。卵から全身を出して,葉に着地。

 


このあと,卵殻にはまったく関心を示さず,さっさと消えていきました。

こうした誕生ドラマを目の当たりにすると,生きものの種類によらずいのちの引き継ぎの荘厳さをついつい感じてしまいます。そして「自分もヒトとしてこうやって生まれてきたんだなあ」と思ってしまうのです。


 


地域ミュージアムで考える(24)

2016-08-24 | 随想

象のウンチ・ペーパーをつくる本番の一日目がやってきました。時間は午前10時から正午まで。内容は,象糞紙(ザンビア産)及び絵本『ぼくのウンチはなんになる?』(英治出版刊,象糞紙でつくられた絵本)をとおして象が減っているわけを知ってから,糞と対面。それを湯で殺菌後,谷川で水洗い,というふうに展開していきました。その様子を写真でご紹介します。

導入部はわたしがほんもの(紙,絵本)を提示し,説明を加えつつ読んでいくスタイルをとりましたから,写真はありません。皆さん(子ども・おとな),初めての体験なので興味深そうでした。


次は,外に出て糞との出合い。臭いを嗅いで,触ってみます。風に乗って,辺りに糞の臭いが立ち込めます。ゴム手袋をして糞を触ります。ちょっと腰が引ける子がいます。しかたありません。「こんなチャンスはないんだから」と勇気づけます。


準備している湯に,糞を投入します。カボチャの種が出て来ました。


鍋には5個ほとんどが入りました。沸騰してしばらくしてから火を止め,糞繊維をネット袋3つに入れました。これを持って,近くの谷川へ移動。

3グループに分かれ,流水で揉み洗いをしてもらいました。ここはきれいになるまで,徹底してやります。足で踏んで作業をする子も出てきました。糞を恐る恐る見ていた子なのに,ここまで来たらなかなかやりますねえ。なにしろ,糞らしさは消えて草そのものといった感じなのです。


これでおしまいです。1時間半の活動でした。締めくくりに皆さんから感想をいただきましたが,それぞれに納得できる内容でした。

午後,セスキ炭酸ソーダを使って3時間程度煮ました。ウンチ・ペーパーづくりを自由研究にするつもりのRさんがカメラを持って,煮ている様子を写しに来ました。5年生なので,つくる紙を半紙サイズにするようアドバイスしておきました。とても乗り気になっていたので,よかったなあと思いました。


ほぼ煮終わった段階の繊維を水で冷やし,それを手で握ってもらいました。すぐに「やわらかい!」の感想が出て来ました。


3日後に紙を漉きます。おもしろさがどんどん膨らんで来ます。 これがミュージアムとしての仕掛けなんですね。

 


ルリタテハ,卵から羽化まで(2)

2016-08-23 | ルリタテハ

8月21日(日)。朝。影がずいぶんはっきりしてきました。

 
2つの卵の様子を比べると,どうやら同じ成虫が産付したように思われます。

 
明日あたりには孵化しそう。いったん孵りかけると,孵化ラッシュになるでしょう。

8月22日(月)。朝,孵化し終わった幼虫を見ました。すでに葉の表面を食べた跡,つまり食痕ができていました。あちこちに空になった殻がありました。あっちこっちで孵化したのです。


殻の脇に小さな穴が。幼虫がその部分を食べて,葉裏に移動したのです。身を守る行動です。裏側には幼虫がちゃんといました。


とりあえず他の卵を調べていきました。未孵化卵をたくさん確認できました。同一の葉で,隣り合うようにして産み付けられた卵はきょうだいにちがいありません。


夕方近く。夕立があって,卵は水滴に包まれていました。

 


孵化場面は何度も撮影してきましたが,今回も撮影できるのがたのしみ! 飽きません。庭には,出会いたい昆虫が大好きな食草を植えるに限ります。 

 


地域ミュージアムで考える(23)

2016-08-22 | 随想

紙づくりの本番がいよいよ明日に迫りました。

ということで,今日,象糞紙づくりのことでずいぶんお世話になり,象糞を提供していただいているサファリーパークに出かけました。もちろん象糞をいただくために,です。前にも書きましたが,趣旨さえ明確で意味あるものなら気持ちよく対応していただける大した施設です。公務員体質から抜け切れず斬新さ・サービス精神に欠いた運営で古びてゆく動物園とは落差が大き過ぎ! 今回の対応も,じつに気持ちのよいものでした。感謝。 

参加者は今のところ8人です。ローカル紙に記事を掲載していただいたのですが,募集人数には達していません。当初「10人でどうか」と提案していたわたしからみると,上々なのですが……。平日2日間というのはやはり参加しにくいのでしょう。土曜・日曜の実施というのは今のスタッフ体制では無理なのです。

せっかくのパーク行き,もちろんわたしたちがつくったウンチ・ペーパーと“うんちきゅう” を持っていって,見ていただきました。副園長のSさんから「おつくりになった紙をみたいですね」と切り出されました。そして一目見て,手で触りながら「つなぎなしで,これだけのものができたのですか」「園で販売している外国製の箱に使ってある紙とまったく変わりませんね」「地球儀は科学館らしいアイデアですね」と積極的に評価してくださいました。

そうして,こんなふうにもいわれました。「園長からも,こうしたかたちで行われる教育活動や研究活動には積極的に協力していこうといわれていますので,これからもどうぞ」と。まことに,外に向ける目線の低さ・柔軟性が伝わってくる話でした。施設間の連携という点で,わたしたちは大きなチャンネルをつくったことになります。

立ち話は,象の密猟,密輸入の話や,糞に入ったカボチャの話題にも発展。カボチャ入りの糞の集積場でカボチャがたくさん育っているとのこと。消化器官を通った種子は発芽しやすいのかもしれないということ。そうそう,捕れたカボチャを再び象に与えるのだそうです。帰路,その脇を通りかかったので写真に収めておきました。


ウンチ・ペーパーづくりを体験される来館者には,糞を通して深ーい話を投げかけようと思っています。