10月10日の朝刊を見ると,経済面第一記事の次の見出しが目に飛び込んできました。
「パナ,プラズマ撤退」「『テレビで利益』 厳しく」「液晶技術が向上 劣勢に」
見た途端,なんともいえない気持ちになりました。そして国際競争がどんなに熾烈なものか,その現実を垣間見た気がしました。
わたしのこころにある“プラズマ”は,その研究者である篠田傳さんと重なります。篠田さんは富士通に勤務されていたときに,プラズマの原理をカラーテレビに応用できないかと考え,苦難を乗り越えて実用化への道を開拓されてきた第一人者です。それで,“プラズマの生みの親”と呼ばれている方です。NHKの番組で,プロジェクトXや特集で取り上げられたことを思い出します。特集で紹介された超大画面薄型ディスプレイの迫力はスゴイものでした。
そんな経緯があって,当時富士通がプラズマ技術に関して得た基本特許はかなり多いはずです。
数年前,篠田さんの講演をお聴きできる機会がありました。県の理科研究会の講師としてお招きしたときです。わたしは当時,地区の理科世話係でしたから,よく覚えています。
わたしの印象は,細身で健康面で気遣わなくてはならないからだでありながら,困難を克服しようと全霊で会社組織や研究領域と対峙されてきたスゴサでした。これはまさに開拓者精神のかたまりだなあと思ったのです。
その後,篠田さんは元の勤務会社の協力を得て自分でベンチャー企業を立ち上げられました。もちろん,プラズマの可能性を追求し,製品を開発・製造・販売するために。大手企業には,国際競争が激化する中,そうした研究を進めるゆとりはなく,切り離すほかなかったのです。新しく出発した会社名は『篠田プラズマ株式会社』。
HPで会社概要を見ると,こんな文やことばが目に留まります。
弊社は、世界のどの会社にも負けない大きな夢を持ち、その実現に向けて真摯にまい進する先端ディスプレイ技術をもつ会社です。この会社には次のような思いと目的があります。
- 超大画面ディスプレイを実現して、新しい産業と新しい映像文化を創る
- 若者へ、“企業家精神が夢を実現する”とメッセージをおくる
- 成功の暁には、若者の夢を援助する
ロマンと夢と愛に満ちた会社です。“チャレンジャーよ、来たれ”。 (以上,会長挨拶より)
また,『社是』にはこうあります。
一 夢を育む
二 成功を信じる
三 ともかくやってみる
四 考えて,考えて考え抜く
五 決して諦めない
こんな社是を社是とする会社はそうないはず。次の『会社理念』にはこう書かれています。
近い将来,壁一面の表示装置を通してネットワーク通信を行う社会が生まれると期待される。それには超大画面で高精細な自発光型ディスプレイが不可欠となる。今まで育成してきたプラズマディスプレイ技術を応用し,新しい社会に貢献するとともに,社員の夢の実現を援助する。
若いエネルギーへの期待感で満ちています。経営者としてのこの感覚には,現場で叩き上げて来た研究心・自負心のようなものがくっきり見えます。この雰囲気なら,情熱をもって働く人には働き甲斐があるのではないでしょうか。
プラズマ撤退が篠田プラズマにどのような影響すを及ぼすのか,素人のわたしにはわかりませんが,国際環境が激変する中での新たな視点づくりと,競争力の向上は今後一層厳しさを増すでしょう。プラズマ方式のフィルムディスプレーを何枚もつないで大画面にするとか,曲面にするとか,いろいろ開発の方向があるとはいえ,あとを追いかけてくる海外勢にも勢いがあります。我が国の技術力・開発力に強く期待し続けたいですね。 篠田プラズマ,ファイト!
(注)写真は本文とは関係がありません。風景は,災害後のカワウの群れです。